【学生の声2021】大学院での生活

2021年度「学生の声」
久住 空広(大気海洋科学講座 升本研究室 博士1年)

現在、大学院博士課程で海洋物理学、気候力学の研究を行っています。

私は東京大学に入学後、学部2年の進学振分けの際に地球惑星物理学科に進学することを決めました。当時のことを思い出すと、私は物理が好きだったので、とりあえず続けて物理を勉強できる学科に進学しようと考えており、そのような学科を探す中でこの学科を見つけました。

これまで学んできた運動方程式や熱力学の方程式を組み合わせることで、大気や海洋の運動を物理的に記述できることについて興味深く感じ、大気海洋分野の研究をしたいと思うようになりました。
また、天気予報などの社会の役に立つ応用がすぐに思いつく分野であったことも、この分野を志した理由の一つとなっていると思います。
そして地球惑星科学専攻へ進学する頃には、熱帯の大気海洋相互作用現象であるエルニーニョやインド洋ダイポールモード現象について興味を持ち、それに関連する研究をしたいと思い、現在に至ります。

院試の勉強について

私が院試を受けてから2年以上経ってしまっているので、記憶を捻り出して書きます。また、私が選択した科目(数学、物理、英語)について話すことになることをご了承ください。

院試の勉強としては、過去問をひたすら解きました。ただ地球惑星科学専攻のホームページには直近5年分の問題しかアップロードされていないので、基本的にはそこから出題される分野やその問題の傾向を捉えることが必要だと思います。

例えば数学なら線形代数や複素積分といった分野から問題が出題されます。そしてそれらの各分野の問題は、解答しておくべき問題と、とても難しくほとんどの人が解けない問題に分かれます。
そこでとりあえず前者の問題をしっかり解けるような勉強をするのが重要かと思います(例えば、行列の固有値を求める問題)。

問題演習に関しては、学校の授業で似たような問題を解いているのであればその授業を復習する、あるいは、関連する分野の問題集で演習をすることになると思います。
数学や物理の問題集はあまり詳しくありませんが、英語に関してはTOEFL-ITPの試験となるので問題集は調べるとすぐに見つけられると思います。

また、小論文のために、研究したい分野・現象や研究手法などについて、しっかり文章で表現できるようにしておきましょう。というのも、後の口頭試問では皆さんの書いた小論文を元に先生方が質問をし、皆さんがそれに答えるという形式をとります。ですので、自分のやりたいことと小論文の内容がずれていると、試問でのやり取りがかみ合わなくなってしまいます。これは研究室の選択にも影響するので、実は一番大切かもしれません。

院生の進学後の生活

基本的には院生室にきて、授業やセミナーがあればそれらに出席し、それ以外の時間には自分の研究を進めます。博士課程になると授業の数は少なくなりますが、修士課程ではそれなりの数の授業を受けることになると思います。

私の所属する研究室では、セミナーは週に2回程度あり、そこで本読みや論文紹介などをします。私は大規模な海洋変動について研究をしており、あまり観測・実験をするということはなく(船舶観測がそれに対応しますが、頻度はそれほど高くありません)、普段はデータ解析やシミュレーションを行っています。
そのため研究をする時は院生室のパソコンの前にずっと座っています。研究の合間には時々、廊下ですれ違った学生と雑談をしたり、セミナー後のお昼にはみんなでラーメンを食べに行き、セミナーの内容について話し合ったりしています。

毎年開かれる国内学会として、5月にあるJpGU(日本地球惑星科学連合大会)と9月の海洋学会があります。これらの学会は、他大学・研究機関の研究者の発表を聴くことで、自分の研究の視野を広げることのできる貴重な場です。
また、他大学の学生との交流ができる機会でもあり、自分の研究のモチベーションの維持につながっています。

研究内容

私はインド洋の西部に位置する西部アラビア海における夏季海面水温の変動について研究を行っています。

この海域では、夏季にインドモンスーンに伴う強い南西風(風速15 m/s程度)が持続的に吹いています。この南西風は、海洋からインド半島の西の地域へ多量の水蒸気を運び、降水を引き起こします(図1)。
西部アラビア海はこの水蒸気の輸送経路上にあります。そのため、この海域の海面水温が平年より高い年には、海面からの蒸発が活発になり、インド半島の西の地域における降水も増加する傾向にあります。
このように、西部アラビア海における夏季の海面水温の変動は、インド洋の周辺地域での農業、水資源、災害等に関連して社会経済的活動へ大きな影響を及ぼします。

図1 インド洋における7月の降水量(mm/day)、海上風(m/s)の水平分布。黒い枠線は西部アラビア海を示す。
図1 インド洋における7月の降水量(mm/day)、海上風(m/s)の水平分布。黒い枠線は西部アラビア海を示す。

さらに、モンスーンに伴う南西風の影響により、西部アラビア海自身にも大きな変動が見られます。
例えば、海岸線に沿った強い南西風は海面を引きずることによって、風と同じ北東向きの海流を引き起こします。このとき、その海流は、地球の自転の効果により、風に対して直角右向きに曲げられます。
そのため、岸付近の海の浅い層では、海岸から沖へ向かう海流が生じ、不足した水を補うように、海の深い層にある冷たい水が湧き上がります(沿岸湧昇:図2左)。
その結果、西部アラビア海は、夏季になると、海面水温が急激に下がります(図2右)。このように、西部アラビア海における海面水温変動には、太陽光の吸収や海水の蒸発などに伴う海面での熱のやりとりに加えて、海洋内部の変動プロセスも影響するため非常に複雑です。

図2 海洋モデルで計算された西部アラビア海における2000年6月の(左)水温(色、℃)、流速(矢印、東西流:m/s、鉛直流:10-4 m/s)の経度-鉛直断面と(右)海面水温(色、℃)、海上風(矢印、m/s)の水平分布。
図2 海洋モデルで計算された西部アラビア海における2000年6月の(左)水温(色、℃)、流速(矢印、東西流:m/s、鉛直流:10-4 m/s)の経度-鉛直断面と(右)海面水温(色、℃)、海上風(矢印、m/s)の水平分布。

ここまで説明したような、海岸付近の狭い範囲に局在した海洋の変動を、気候モデル内で精度よく再現することは難しい課題となっています。
私は、西部アラビア海における複雑な流れ・海面水温変動のメカニズムの解明という研究テーマを通じて、気候モデル内におけるこれらの変動の再現性の向上、そして、インドモンスーンに伴う降水の予測精度向上につながる研究成果を得ること目指しています。

最後に

ここまで読んでいただきありがとうございます。皆さんの進路選択に私の学生の声が役に立てば幸いです。

久住 空広(大気海洋科学講座 升本研究室 博士1年)
[2022.03公開/2021年度「学生の声」]

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