【学生の声2024】火星探査機で世界に挑む、理学部生による「宇宙生命探査」

2024年度「学生の声」
平井 大源(地球惑星物理学科 学部4年)

東京大学 理学部 地球惑星物理学科 4年の平井大源です。
惑星システムに関心があり、時間の変化とともに地球のような”生きた惑星”になる惑星システムと火星のように”死んだ惑星”になる惑星の進化の違いについて研究したいと考えています。

この度は私が課外活動として取り組んでおります、火星探査機製作プロジェクト「KARURA」につきまして紹介させていただきます。

学部生ながら執筆させていただけることになり大変恐縮ですが、読んでいただけますと幸いです。

University Rover Challenge決勝大会進出
図1 KARURAはこの3月、日本勢として初のUniversity Rover Challenge決勝大会進出を決めました

1. KARURAとは

KARURAは今年の3月に日本勢として初めて、火星探査機の世界大会「University Rover Challenge」決勝への切符を手にした国際インターカレッジチームです。

University Rover Challengeは実際の火星探査を模した大会であり、アメリカのユタ州で行われます。事前に映像と書類による非常に突破の難しい審査があり、決勝に進んだチームはNASAが訓練のために使用する「地球で最も火星環境に近い砂漠」であるMDRSで自らが作った探査機でミッションを行うことができます。

私はチーム内で、火星探査ミッションのサイエンス部門を統括するProject Scientistを務めており、火星において生命を探査するミッションについて考えています。

University Rover Challenge
図2 University Rover Challenge (出典 : Mars Society)

2. 火星での生命探査

火星はかつては水や大気を湛え、現在の地球のような姿をしていたと考えられています。その後に磁場を失い、大気を失い、水を失い、現在のような枯れ果てた姿になりました。

磁場がないため、現在の火星の地表には高エネルギーの粒子が降り注ぐ一方、地下にはかつての名残である水が存在する地域もあり、地球に次ぐ生命を探す人類の挑戦が続けられています。

ちなみに、University Rover Challengeでも実際の探査に即し、地下を掘削して土壌サンプルを持ち帰るサンプルリターンミッションがあります。

さて、地球外に生命を探す時、人類はどのような特徴を持ってそれを生命だと判断するのでしょうか? このようないわゆる「生命の定義」問題は火星で生命を探す上で難しい問題かもしれません。

実際に火星や火星由来と考えられる隕石からはこれまでも生命「らしい」特徴を持つ痕跡がいくつか見つかっています。それらの多くは地球の生命に形が似ているものや、地球の生命を構成する物質である炭素を生命の痕跡とするなど、現状発見されている唯一の生命である地球の生命を基準とするものが多い印象です。

University Rover Challengeでも各チームで「火星における生命」を定義するところから始まり、惑星科学や生物学の広範な知識を総動員して議論を行います。

映像審査
図3 映像審査に提出した映像に写っている私です
背景には火星の生命について、メンバーで議論した跡があります

3. 理学者が向き合う工学

多くの宇宙ミッションにおいて、探査機自体は工学の専門家が製作する一方、検出器やカメラなど実際に火星と向き合うセンサーは理学の専門家が製作します。それは私たちのチームKARURAについても同様です。

サイエンス部門の役割は一言で言えば、「探査機の中に小さな実験室を作る」ことです。

探査機が採取した土壌サンプルをこの小さな実験室に移動し、化学反応や光学を用いて、そこに生命由来の物質があるか判断します。しかし、それぞれの動作は人間ではなく探査機が行うため、操作を簡単にしておく必要があり、同時にそこにはどれくらいの重量、容量のものを搭載できるかという、工学の専門家との交渉が存在します。

生来の宇宙好きで今までものづくりには触れてこなかった私としては以上にあげたような知見は皆無に等しく、実験室で自分が行うのでさえ難しい生命検出の実験を行うロボットを作ることは困難の連続でした。

一方、このような無人の探査機に「どのようなことができて、どのようなことはできないのか」といった感覚を学部生のうちに少しでも得ることができたのは大きな財産になったと考えています。

最終的には検出器の一つとしてラマン分光器を作成しました。これは簡単に言えば、レーザー光を物質に当てて、その反射の仕方からその物質の組成がわかる機器であり、その鍵は非常に軽量で小型ながら物質の組成という重要な情報が得られる点です。

KARURAでは他にもATPや脂質を検出する化学反応や小型顕微鏡を用いて生命検出を目指しています。

作成したラマン分光器
図4 作成したラマン分光器

4. 終わりに

ここまでお読みいただきありがとうございます。
実はこの文章は大会に向けて渡米する前日に書いており、実際にミッションが成功するか緊張で一杯です。

東京大学理学部では、多くの先生方から科学探査のプラン作成に関する貴重なアドバイスをいただきました。本学科では、惑星科学について深く学ぶことができるだけでなく、課外活動を通じて同世代の仲間たちとともに挑戦する機会も豊富です。

この文章をお読みいただき、私たちの学科や惑星科学という分野にご興味を持っていただければ、非常に嬉しく思います。将来、プロジェクト等でご一緒できる日のために、私も引き続き精進してまいります!

KARURAの探査機
図5 我らがKARURAの探査機

平井 大源(地球惑星物理学科 学部4年)
[2024.06公開/2024年度「学生の声」]

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