地球惑星システム科学講座

概要

地球惑星システム科学グループでは、野外調査、観測、試料分析、データ解析、実験、理論といった異なる研究手法を機能的に連携させ、地球惑星システムの構造形成と進化、地球惑星システムを構成する各圏間の相互作用、地球惑星システムの安定性・不安定性、地球惑星システムの進化・変動およびその動態などに関する研究を行っています。また、地球惑星表層環境システムの成立や変動についての研究を推進することにより、地球環境問題や人類を含む生命の持続的生存条件のより深い理解に寄与することも目指しています。

地球惑星システム科学講座と地震研究所大気海洋研究所先端科学技術研究センター、新領域創成科学研究科、総合文化研究科、空間情報科学研究センター、地殻化学実験施設など様々な付置研究所に所属する様々な専門領域の研究者が協力して研究と教育を行っています。

地球惑星システム科学講座

地球惑星科学が対象とする太陽系空間,地球や惑星の電磁気圏,大気圏,水圏,生物圏,固体圏などの領域は,様々なフィードバックを通じた多圏間相互作用により,互いに影響を及ぼし合っていることが明らかになってきました.私たちは地球や惑星をひとつの巨大システムとして捉え,その構造や挙動,時間発展をシステム科学的立場から理解する新しい研究体系“地球惑星システム科学”の構築を目指しています.

地球惑星システムの形成

地球惑星システムを構成する諸要素やサブシステムはあらかじめ決まったものではなく,新しく形成され,変化していきます. このような地球惑星システムのふるまいは通常のシステム科学にはない特徴です. 私たちは宇宙での固体物質形成,それらを材料とした分子雲からの原始惑星系円盤形成,円盤内での惑星の形成,惑星表層での海・大気の形成,内部でのコア・マントル形成といったサブシステムの分化の結果として起こる地球惑星システムの形成,時間発展およびその普遍性・特殊性を実験,分析,理論,モデリングの手法を用いて理解することに取り組んでいます.

(左写真)進化末期の星の周りでの物質形成を真空実験装置で再現.(右グラフ)惑星システム形成時の巨大衝突時の大気の挙動.海洋の存在が大気の散逸率を大きく変える.

系外惑星システムの多様性

惑星は,太陽系に固有のものではありません.太陽以外の恒星のまわりにも惑星の存在が確認されており,その数はすでに1000に届こうとしています.しかも,発見された惑星系の形態は実に多様であることが知られています.私達は,惑星形成過程の理論シミュレーションや観測データ解析に基づいた内部構造推定などによって,惑星系というシステムの多様性の起源を探り,そこから太陽系の普遍性・特殊性を理解することに取り組んでいます.

(左図)宇宙望遠鏡Keplerが検出した惑星候補天体.公転周期を横軸に,サイズを縦軸にプロットした.(右図)太陽系に存在する3タイプの惑星(ガス惑星,氷惑星,岩石惑星)の内部構造の推定図

地球表層環境システムの動態

地球表層環境システムの重要な構成要素の1つは,生物圏です.その一部だった人間によって,地球環境は変化しつつあり,生物圏は変化の影響を受けるとともに,フィードバックしています.地球表層環境システム変動に対する生物圏の応答を,野外調査・観測や試料の分析,モデルを通じて解明し,私たち自身の未来を考える上で重要な地球規模変動の正確な予測と対応につなげたいと考えています.

(上)地球表層環境システムの急激な変化である地球温暖化がもたらしたサンゴの白化.
(下)20世紀後半に増大した大気中二酸化炭素濃度

地球大気環境システムの変動

太陽から地球に入射する可視光と地球から宇宙に放出される赤外光のエネルギーのバランスにより地球の平均気温が決定されるため,放射収支は気候変動の重要な因子です.太陽・地球放射を散乱・吸収するエアロゾル・雲・温室効果気体の物理的・化学的特性やその挙動に関する知見は気候(気温,降水)や表層システム(大気・海洋,雪氷圏,生命圏など)の変動の理解に不可欠です.最先端の技術による測定(室内実験・野外観測)と,数値モデルと組み合わせて,地球表層環境の変動の要因,特に人間活動の影響を解明し,その変動の正確な予測につなげます.

(左)エアロゾルの光散乱・吸収による放射効果(直接効果)
(右)エアロゾル上への水蒸気の凝縮(雲粒子生成)による放射効果(間接効果)

惑星地球システムの変動

惑星地球システムは,内的・外的の作用により,複数の安定状態を行き来してきました.そうした安定状態(モード)間のジャンプは,様々な時間スケールで起きています.例えば,過去数十百万年間に繰り返した氷期・間氷期変動,数百~数千年スケールで繰り返すモンスーン変動なども地球システムモード間のジャンプとして説明できます.また,約2億5千万年前に起きた地球史上最大の大量絶滅を引き起こした環境変動も,内的要因による惑星地球システムのモードジャンプという視点で捉えることができるかもしれません.惑星地球システムが地球史を通じて経験した変動の規模や様式,変動の時間スケールを地質調査や試料分析で求め,変動の仕組みやその要因を理解することを目指しています.

(左)堆積物の有機物含有量に記憶された数千年規模の急激な気候変動.
(右上)テクトニクスと表層環境の相互作用によるモンスーン気候の成立・強化.
(右下)史上最大の大量絶滅

どのような人を求めているのか

様々なバックグラウンドや特技・興味を持った人の参入を望んでいます. 野外調査や実験,分析,計算機シミュレーションなど多様な研究手法の中から自分を活かせる手法を選択し,システムとしての地球や惑星の形成・進化・安定性・変動・動態などについて研究を行いたいと考えている学生を大いに歓迎します.

自分の研究テーマ以外のことも興味を持って積極的に吸収するような能動的な人を求めます.修士課程では一つのテーマに集中し,自分の得意分野や研究手法を確立することができるでしょう.しかし,地球や惑星をシステムとして捉えるためには,自分の研究対象の範囲だけではなく,様々な研究分野と交流し多角的視点を持つことがとても重要です.私達スタッフは研究と教育に情熱をもち,新しい研究分野の開拓や大学院生との共同研究による学問の発展を楽しみにしています.

もっと知りたい人へ

『進化する地球惑星システム』 東京大学地球惑星システム科学講座[編]
東京大学出版会 税込 2,625 円(本体 2,500 円) ISBN 4-13-063703-7

『生命の星の条件を探る』 阿部 豊[著]
文藝春秋,税込1,512 円 (本体 1,400円) ISBN 978-4-16-390322-4.

学生の声

参考書・文献

一般啓蒙書・読み物

  • 「進化する地球惑星システム」
    東京大学地球惑星システム科学講座編 東京大学出版会
    当講座スタッフによる書き下ろし。太陽系の誕生から現代の地球環境問題まで、あらゆる時間スケール・空間スケールの対象をシステム的にとらえる新しい学問への入門書。
  • 「生命と地球の歴史」
    丸山茂徳・磯崎行雄 岩波新書
    学際的な研究が描き出す、地球46億年、生命40億年の新たな変遷像。
  • 「宇宙誌」
    松井孝典 徳間書店
    地球やほかの惑星を同じ視点からみる「比較惑星学」的な立場に立って書かれた本。
  • 「惑星へ(上・下)」
    C. セーガン(訳 岡 明人ほか) 朝日新聞社
    地球というひとつの惑星を太陽系や宇宙との関係においてとらえる視点で書かれた本。
  • 「成長の限界」
    D. H. メドウズほか(監訳 大来佐武郎) ダイアモンド社
    地球が無限であることを前提とした経済と人工の成長に対して警鐘を鳴らした本。はじめて地球をひとつのシステムとしてとらえたという意味で、もはやひとつの“古典”。
  • 「地球生命圏」
    J. E. ラブロック(訳 星川 淳) 工作舎
    “ガイア仮説”を提唱したことで有名な本。内容の真偽はともかく、地球と生命をひとつのシステムとしてとらえるという視点は、地球惑星システム科学の先取りといえる。

教科書

  • 「地球システム科学入門」
    鹿園直建 東京大学出版会
    地球システム科学の方向性を、国内でいち早く示した教科書。
  • 「全地球史解読」
    熊澤峰夫・伊藤孝士・吉田茂生 東京大学出版会
    地球史を通じてどのようなイベントが生じ、地球と生命は互いに影響を与えながらどのように進化してきたのか。地球史全般への新しいものの見方、考え方をまとめた本。
  • 「The Earth System」
    L. P. Kump, J. F. Kasting and R. G. Crane Prentice Hall
    システム論的な考え方を強く意識した地球システム科学の教科書。