概要
地球生命圏科学グループでは、「地球」と「生命」の相互作用の解明を目指し、各素現象の実体を明らかにすることを目的に研究を行っています。
地球と生命は互いに深く関連しあっています。例えば、ペルム紀末に起きた生命史上最大の絶滅事変は、当時の海洋の無酸素化によって生じたとする考えが有力視されています。このほかにも、地球環境の変動が生命活動に大きな影響を与えてきた事例は沢山知られています。逆に、シアノバクテリアや植物は光合成を行なうことによって地球上に大量の酸素を供給しました。この酸素濃度の上昇によって、岩石の風化様式が変わったり、動物の出現や行動の変化がもたらされたわけです。また、海溝付近でのメタンガスの放出は地球の温暖化に多大な影響がありますが、このガスを微生物が利用し大気への放出を抑えています。つまり、 生命活動によっても地球環境は変化します。
本専攻ではおもに、地球生命圏科学講座の教員が研究と教育との中心をになっています。
地球生命圏科学講座
太陽系において生命を生み育ててきたユニークな惑星地球では,その表層や地下に広がる岩石圏・水圏・気圏の間での様々な相互作用によって,生命活動が営まれる“地球生命圏”と呼ぶべき環境が形成され,生命の誕生・進化と多様性が獲得されてきました.地球生命圏科学大講座ではこの地球生命圏を研究フィールドとし,野外における観察,採取試料の分析,室内実験などの一次データを基礎として,長い時間軸を通じて地球生命圏に記録された情報を解読し,そこに特徴的な物質の形成条件,環境の変動メカニズム,生命の誕生と進化の要因に関する科学と教育を推進することを目的としています.さらに,これらの研究を通して地球環境と生命の共進化メカニズムを解明するとともに,21世紀における人類社会と地球環境のあるべき関わり方についてメッセージを提示することを目指しています.
このようなコンセプトのもと,当講座に所属する教員によって,現在は以下の4つのセミナーが教育ユニットとして開かれています.
進化古生物学セミナー
化石と現生生物の比較研究に基づき,古生物のあらゆる生命現象を解析して,40億年におよぶ長い時間軸での生物の進化を明らかにすることを目的としています.現在特に推進している研究分野は(1)分子古生物学,(2)古脊椎動物学,(3)比較形態学および系統分類学です.具体的に(1)では,貝殻基質タンパク質の構造と機能,貝殻の発生とらせん成長の分子機構,化石タンパク質の一次構造解析,現生種のゲノム情報をもとにした冠輪動物等の系統推定や古代ゲノムの復元など,分子生物学的手法を使って生物のさまざまな進化現象にアプローチしています.(2)では,化石を単純に記載するのではなく,鳥類を含めた現生爬虫類の筋肉系などの詳細な解剖を柱とし,脊椎動物化石の解剖学的復元など進化形態学的な研究を行っています.(3)では,古生物と現生生物の比較解剖学的研究,貝殻の微細構造の比較形態学,軟体動物の系統学的・分類学的研究を行っています.
アコヤガイPinctada fucataの貝殻内表面
白亜紀の恐竜Tarbosaurus頭骨の3Dレンダリングイメージ
ミドリシャミセンガイの実験室内での放卵
環境・生体鉱物学セミナー
地球の表層環境には大量の水が存在し,また現在では酸化的な大気に覆われています.そして地表に露出した岩石・鉱物は,この水・大気との反応や相互作用によって,長い時間の中でこの惑星に独特な物質へと変化していきます.さらに生命圏とも言える地球表層では微生物から高等生物,さらに人間社会を含めた盛んな生命活動が営まれ,これによっても新しい物質が日々形成されています.本セミナーでは,このような地球表層特有な物質の形成・進化を物質科学的に研究し,特にその反応素過程を様々なナノスケールレベルの解析手法を用いて明らかにしていくことを目指します.具体的には,実験的手法による地球史における大気の進化プロセスの解明,粘土鉱物など非常に微細な地球表層物質の構造と表層環境における役割,生物が形成する無機物質(生体鉱物)の形成機構,微生物の関与した物質形成プロセスなどを扱います.
古土壌から計算された原生代初期の大気酸素濃度上昇
2:1型層状珪酸塩(雲母)の結晶構造
透過電子顕微鏡の試料を作製する集束イオンビーム加工装置
微生物が形成する硫化亜鉛鉱物の電子顕微鏡写真
地圏・生命環境セミナー
地質時代を通じて地圏は様々な環境を提供し, 生命の誕生・進化・多様化・絶滅を駆動してきました. 地圏―生命相互作用の理解を深めることは, 生態系の成立ちを地球初期まで遡る上で重要です. 物質循環と生命現象のフロンティアである深海と地底の「今」を知り, 過去の地圏―生命相互作用を復元することを目指しています. 本セミナーでは,地質学, 鉱物学, 地球化学, 微生物学を横断して, 地圏―生命相互作用を学際的な視点で研究しています. 具体的には,陸上温泉や地下施設での調査や海底掘削・深海潜水調査等により採取した試料を研究しています. また, 地圏―生命相互作用を模擬した実験により, 地球史において重要な物質循環の素過程や反応機構の解明も行っています.
地球上の多様な生命環境
表層環境地球化学セミナー
このグループでは、地球表層の大気圏・水圏・土壌圏・岩石圏に存在する様々な元素が受ける化学的な素過程の解明に基づき,物質循環、環境・資源問題、地球史などの問題に取り組んでいます.そのために,原子・分子レベルの相互作用を明らかにする手法(X線分光法,X線顕微鏡,熱力学的定数の測定,量子化学計算など)を地球環境化学への応用も進め,様々な試料に含まれる元素がなぜその濃度や同位体比でそこに存在するかを明らかにすることで,これまで得られなかった試料の起源や挙動に関する新しい地球化学的・環境化学的情報を得ることを目指しています.扱っている問題として,「有害元素の挙動解明」,「海洋中での元素の挙動に基づく古環境解明」,「黄砂やPM2.5などのエアロゾルの化学」,「化学素過程解明に基づく有用元素濃集機構の解明(資源化学)」などがあります.
学生の声
参考書・文献
- 「地球を動かしてきた生命」
ピーター・ウェストブルック著 阿部勝巳,遠藤一佳,大路樹生共訳 国際書院(1997)
ダイナミックな惑星,地球の特異さは,プレートテクトニクスと生命活動という他の惑星に見られない現象によるものだと著者は主張する.フィールドワークに基づく地球科学,生命科学のケーススタディがこの主張のもとに展開されている. - 「地球の進化・生命の進化」
北里洋,大野照文,大路樹生編 生物の科学 遺伝別冊 No. 12 裳華房(2000)
地球の誕生から地球環境の変遷と,生命起源,初期進化,多細胞化などの現象に関する最新の考えが18編紹介されている.