【学生の声2023】国内・海外で行う古生物研究活動

2023年度「学生の声」
多田 誠之郎(地球生命圏科学講座 博士3年)

初めまして。地球惑星科学専攻生命圏科学講座、對比地研究室に所属している多田誠之郎と申します。
他の方が入学のきっかけや仕組みなどについて詳しくお話されていますので、今回は古生物の研究を行うにあたり、私が日々感じていることについてお話できればと思います。

1. 研究環境

以前に研究室同期の吉澤さんが記事(学生の声2023:古脊椎動物の研究室紹介)を書いてらっしゃいましたので、私の研究環境についてはそちらをご覧になってください。私は修士・博士課程で本郷キャンパス、現在の国立科学博物館の筑波研究施設での研究生活をどちらも経験していますが、それぞれに良さがあります。他と比べることはできませんが、研究環境については恵まれていると感じています。

2. 研究内容

私は、恐竜を含む爬虫類の鼻について研究しています。鼻は、一般的に想像されるような匂いを嗅ぐ機能とともに、鼻の中にある空気を使って血液などの温度調整を行う機能があることが知られており、私の現在の研究ではどちらかといえば後者に着目した研究を行っています。

古脊椎動物の鼻を研究するにあたって重要なポイントが、“化石には鼻そのものは残っていない”ということです。化石記録にはわずかな例外を除き基本的には骨しか残らないため、鼻だけでなく、筋肉や神経、血管などの柔らかい組織は直接見つけることができません。しかし、化石に残らないそれらの組織は、生き物が当時どのように生きていたのかを知るうえで非常に重要な手がかりとなります。

そこで大切なのが、系統的に近い現在の生物を解剖し、その知見を整理して恐竜などの化石種に当てはめることでもっともらしい復元を行うことです。恐竜であれば、基本的に鳥とワニの解剖学的知見をもとにしてそれらの組織を推定復元することになりますが、恐竜は鳥・ワニのいずれとも大きく異なった形態をしており、推定は容易ではありません。そこに本研究分野の難しさと面白さが詰まっていると考えています。

所属ラボの研究フローは基本的に、今生きている生物の詳細な解剖もしくはそれと同様の結果を得るような作業を行い、得られた知見をもとに化石標本を観察するというスタンスをとっており、実際の作業時間も大半が現生生物の調査に充てられています。外国と比べて本邦では化石標本を観察する機会に恵まれないことも、もしかしたら現生の生物を重視する研究方針と関係しているかもしれません。しかし、現生の生物と長く向き合った分、結果として恐竜などの絶滅種で乱暴な推測をしてしまわないことに繋がっています。

肉食恐竜ベロキラプトルの頭骨と鼻腔
図1 CTスキャンデータより復元した肉食恐竜ベロキラプトル(Velociraptor mongoliensis)の頭骨と鼻腔

近年のCTスキャン技術を含むデジタル技術などの台頭により、恐竜を含む古脊椎動物分野の研究は飛躍的に進歩しました。例えば、頭骨の化石について、生息当時に脳が入っていた空洞を研究したい場合などに、化石標本のCTスキャン撮影を行ってそのデータを用いることで、外からは見えにくい内部の状態について、化石を壊さないまま立体的に観察することが可能になります。私の研究においてもそれらの技術は欠かせないですが、その一方で、古典的な解剖学的知識の力を借りる場面も少なくありません。

19世紀・20世紀初頭の文献や、英語が科学の共通言語となる前の他言語の文献を参照する機会がしばしばありますが、それらの詳細な記載と緻密に描かれた図版にはいつも驚かされてしまいます。私は個人的に、PDFにもなっていないようなそれらの古典的文献を図書館で探しているときの「故きを温ねる」感覚がとても好きです。新しい研究が必ずしも正しいとは限らないという認識は研究を行う上で重要なことですが、技術革新が著しい現代においても、褪せない古典的知識に立ち返る機会が多いことは、この分野特有の良さだと感じます。

3. 海外での研究活動

古脊椎動物の研究においては、世界の博物館や大学に赴き、そこに収蔵されている化石標本を観察することが大切なフェーズの一つです。私は博士研究を行うにあたり、化石標本へのアクセスや研究手法の習得を目的として、アメリカで約9ヶ月の海外渡航調査を昨年行いましたので、それについても少し触れたいと思います。幸運にも機会を得て、恐竜の頭部研究を世界的に牽引する先生と共同でプロジェクトを始められたことが、現在の私の博士研究を進める大きなきっかけとなりました。

アメリカでの海外渡航調査
図2 受入先の研究室の先生・学生と

調査期間中は、受入先の大学の研究室を拠点として作業をしていました。基本的には滞在先でも、指導していただきながら習得した手法などを用いて現生の生物の解剖学的研究を行っていました。後半からは、シカゴのフィールド博物館やワシントンDCのスミソニアン国立自然史博物館などを中心として多くの研究施設を訪問し、所蔵されている標本の観察調査を行い、最終的に、国内で調査を行っていただけの場合と比べて良質なデータを多く集めることができました。

また、受入研究室の先生や学生、さらには訪問先の研究機関や学会でお会いした研究者の方々と、得られたデータをもとに議論を深めることができました。短期間でアメリカ国内を頻繁に移動していたこともあり、調査のマネジメントは簡単ではありませんでしたが、おかげでとても実りの多い期間とすることができました。

スミソニアン国立自然史博物館で展示されているティラノサウルスとトリケラトプス
図3 スミソニアン国立自然史博物館で展示されているティラノサウルス(Tyrannosaurus rex)とトリケラトプス(Triceratops horridus)

また、海外での研究経験は、自分にとって研究成果以上に意義深いものでした。英語能力の向上はもちろん、将来のためのネットワーキングなどもそうですが、これまで触れたことのない文化に飛び込むことで“人間力”のような地力が鍛えられたと強く感じます。また、コロナ禍に進んだオンライン化の潮流において改めて、直接人と会って議論を交わしたり、共同で作業したりすることの大切さを認識することができました。

現在は、東大(GRASP)、学振(若手研究者海外挑戦プログラム)、民間の財団、さらには渡航先機関のものなど、様々なグラントが学生向けに準備されていることが探せばわかるかと思います。新型コロナウイルスの流行もあり誰にでも手放しで勧めることは出来ませんが、修士・博士課程は学生自身が研究計画をマネジメントしていきますので、必要であれば海外で研究活動の時間をとることをぜひ検討してみてください。きっと素敵な時間になると思います。

以上、日々の研究活動を通じて感じていることをお話させていただきました。
最後まで読んでいただきありがとうございました。入学前や研究中の学生の皆様、さらには若手の古生物研究を応援し、最後まで読んでくださった皆様に、研究生活の“実際”を少しでもお伝えできていれば幸いです。

多田 誠之郎(地球生命圏科学講座 對比地研 博士3年)
[2023.05公開/2023年度「学生の声」]

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