【学生の声2023】古脊椎動物の研究室紹介

2023年度「学生の声」
吉澤 和子(地球生命圏科学講座 博士3年)

地球惑星科学専攻生命圏科学講座 對比地研究室に所属している吉澤和子と申します。
ここでは、私がいまどんなところで研究をしているのか、何を調べているのか、どのようにして今の所属に至ったのかをご紹介します。

1. 研究環境

本研究室では、爬虫類を中心とした現在の生き物の体の構造などを解剖やCTスキャンなどによって調べ、その知見を化石に応用することを目指すという手法の研究がメインで行われています。研究をどのように行うかは研究室ごとに大きく変わります。研究室によっては、大きなプロジェクトを、海外を含む他研究機関とグループで推進し大学院生もグループの一員としてそのプロジェクトに関わるところもありますが、本研究室は学生1人ずつが1つのテーマを持って各自研究をするようになっています。

現在は鳥のことを調べている人、爬虫類全般を調べている人などがいます。私はやや研究室のメインストリームとは外れた研究をおこなっていますが、自分がやってみたい研究に自由に挑戦ができるのは本研究室のよいところかもしれません。

本専攻に所属する先生や学生の多くにとって本郷キャンパスが研究拠点となりますが、それ以外の場所を拠点とする研究室もあります。所属研究室によって、どこに住むべきかが変わってくる場合もあります。對比地研究室もその1つで、拠点は茨城県つくば市の国立科学博物館(科博)の筑波研究施設(図1)にあり、本郷キャンパスから電車とバスで2時間ほどかかります。これは、指導教員の本所属が科博であるためです。

本専攻には、連携講座や協力講座という制度があり、学外研究機関に所属する先生に師事することができます。本研究室では、学生のほとんどはつくばに住んでいます。授業などで大学に行く機会の多い人は、通学が大変だと思います。しかし、つくばを拠点としていると、科博の収蔵する標本(図2)にアクセスしやすく、また研究で解剖に用いる動物の死骸が比較的拾いやすいですし、空気も東京よりきれいなのでその点ではよい環境だと感じます。

科博
図1 国立科学博物館(つくば市)
標本庫
図2 科博の収蔵標本

2. 現在の研究内容

私が研究対象としているのは、「魚竜」と呼ばれる生物です(厳密な古生物学の用語と一般的な用語では「魚竜」の指す範囲に微妙な違いがありますが、ここでは厳密な定義には立ち入らず、一般的な呼び方のほうを使います)。約2億5000万年前に現れて約1億年前に絶滅したとされ、魚やイルカと似た見た目をしていた爬虫類のなかまです。魚竜は、陸上で生活する爬虫類から進化したと考えられています。

私はこの生物がどのように泳いだのか、どのように海中生活に適応していったのかということについて調べています。もともとは化石をよく観察しその特徴を書き起こす(「記載」といいます)ところから研究を始めたのですが、調べているうちに、体と尾を振って泳ぐような生物一般のかたちや動きとスピードの関係について、数式やプログラミングを用いて解析するようになり、これはかなり想定外のことでした。

このように思いがけない方向に研究が広がっていくのは面白いことだと思います。 魚竜はジュラ紀の海を泳いでいた生物ですが、私の知る限りでは、有名な映画の「ジュラシックパーク」や「ジュラシックワールド」シリーズに魚竜が出演したことはありません。中生代の海生爬虫類の代表的なものとして、魚竜、首長竜、モササウルスが挙げられると思いますが、モササウルスは「ジュラシックワールド」に出演して一躍知名度が上がりました。首長竜はアニメ「ドラえもん」に2度も出演しましたから、日本での知名度はなかなか高いのではないかと推察しています。

注意しなければならないのは、魚竜、首長竜、モササウルスのいずれも恐竜ではないということです。これら3つのなかまはいずれも恐竜の定義からは外れています。「ドラえもん」もそのことに配慮したのでしょうか、2020年に公開された『のび太の新恐竜』では首長竜ではなく恐竜がのび太たちと活躍したようです。魚竜はなぜかこうした人気映像コンテンツに出演したことがなく、知名度が比較的低いように思います。魚竜のほうはいつでもキャスティングされる準備はできていると思いますので、どなたか映像コンテンツ作成者の方がこれをお読みでしたら、魚竜にも機会をくだされば幸いです。

3. 現在の所属に至るまで

高校時代は文系で、大学入試も文系で受験しました。その話をすると長くなりますので、ここでは省略して、地球惑星環境学科進学後のことについて書きたいと思います。昔の生物について研究をおこなうことに興味があり、中でも古脊椎動物の研究に興味を持っていましたので、地球惑星環境学科に進学したときから、そうした分野の研究室を志望していました。しかし、環境学科で授業を受けるなかで、古生物学は地質学と生物学を両輪としていると聞き、さらに地質学の実習を受けたことでフィールドワーク(図3)にも関心を持ちました。

フィールドワーク
図3 フィールドワーク(九州)

そこで、大学4年次の卒業研究では地質分野の勉強と研究をおこない、大学院で古生物学を専門とする研究室に入りたいと考えました。地質の知識があったほうが、より深く古生物のことを知ることができるのではないかと考えたからです。できるだけ早く自分の興味のある分野の研究を始めるのが普通ですので、これは比較的珍しい選択であったと思います。そこで、卒業研究の指導教員決めの前に、この希望について地質と古生物学の先生両方にあらかじめ相談しておきました。先生方は私の希望について理解し応援してくれ、大学院へ進学する際の研究室の移動もスムーズでしたので、先生とコミュニケーションをとるのは大切なことだと思います。

卒業研究という短い期間だけでは、フィールドワークのプロにはなれませんでしたが、基礎的な野外調査の技術と堆積岩をサンプリングして分析する方法を学び、自分が野外を歩いて石を見るのが好きだということを知ることができ、有意義な期間でした。

このときに調査をしたのが、宮城県気仙沼市・南三陸町・石巻市の三畳系下部の大沢層と呼ばれる地層でした。この地層は魚竜の化石を産出することで知られており、その縁で、修士課程ではその地層から過去に採取されたウタツサウルス(歌津魚竜)という魚竜化石の研究を行うことになりました。この化石というのが、地層中での圧密を受けてせんべいのように平たくなっていて、どの部分が何の骨であるのかを考えるのにはとても苦労しました。その化石は上野の国立科学博物館日本館3階に展示されていますので、機会があればご覧になってください。

このように、博物館に展示されている化石でも、研究途上のものがあります。古生物学についてメディアや博物館展示で取り上げられる際には、発掘現場の様子が映し出されることが多いため、古生物学者は化石を発掘して自分で掘り当てた化石を研究するものだというイメージがあり、実際に私も幼少期はそう思っていましたが、これは必ずしも正しいとは限りません。もちろん多くの古生物学者は自ら発掘現場へ行き、フィールドワークを行い、発見された化石の報告を行いますが、特に脊椎動物の化石は、ほしい化石を狙ったとしても必ず発見できるとは限らず、また状態のよい化石となると見つけるのが困難です。

そこで、博物館を訪問して収蔵標本を観察させてもらうことが重要になります。過去に発見された化石標本は、クリーニングされ、人類の知に貢献するよう整理されて大事に保管されています。よく知られている標本からも、それまでと異なる視点から研究することで、新たな知見が得られることもあります。

修士課程修了後、3年間の社会人生活を経て、博士課程に入学しました。私は本専攻の修士課程を修了していますので、博士課程入学にあたってのペーパーテストはなく、修士での研究内容の発表が試験として課されました(他大学院修士課程を修了して本大学院博士課程に入学するためには、院試でペーパーテストに合格することが必要となります)。これは、本専攻の修士課程から博士課程にそのまま進む場合と同様の試験です。

ただし、入学時には1点違いがあります。修士課程からそのまま博士課程に進む場合、入学金を支払う必要があるのは修士課程入学時の1回のみですが、私のように再入学すると博士課程入学時にも再度入学金を支払う必要があるということです。ここに書いたような入試・入学の制度は、私が経験した当時のもので、年々変わっていくはずですので、実際に受験される際には手引をよく読んで、不明点は事務室に確認するようにしてください。

博士課程では、ウタツサウルスに限らず様々な時代・産地の魚竜化石について、国内外の博物館を訪問しながら調べています。海外に出張・留学するには相当の費用がかかりますが、日本学術振興会をはじめとした様々な機関が支援をおこなっていますので、情報収集して応募するとよいと思います。私の場合は、幸運にもそうした機会を得てアメリカに渡り、魚竜研究の第一人者と共同研究をおこなえたことがターニングポイントとなりました。

以上、一般的な本専攻の博士課程学生とは少々違うルートを進んできた経験についてご紹介させていただきました。少しでもどなたかの参考になれば幸いです。

吉澤 和子(地球生命圏科学講座 對比地研 博士3年)
[2023.04公開/2023年度「学生の声」]


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