【学生の声2023】なぜ私が東大大学院に進学したのか

2023年度「学生の声」
井野 創開(大気海洋科学講座 修士2年)

かつての私がそうであったように、おそらくこの「学生の声」を読んでいる方の多くが他大学から東大地惑の大学院受験を考えている方だと思います。最初にこのようなことを書くのは気が引けますが、他大学院に進学して、そして人によっては専攻をかえることは、それなりに心身に負荷がかかるものです。現在所属している大学の大学院から推薦を貰い、大学4年次の研究を修士課程でも続けることが、研究面でも就活をする上でも楽だと思います。もちろんそのような選択を取る人たちを否定はしません。しかし私は、さまざまなリスクをとった上で環境を変えて自己実現をしようとしている人を尊敬していますし、新たな挑戦をしようとしている人たちの励みになればという思いからこの「学生の声」の執筆を引き受けました。

1. はじめに

はじめまして、井野と言います。1年と少し前までは東京理科大学というところで物理を学んでいましたが、現在は地球惑星科学専攻の大気海洋科学講座という場所に所属して、台風を題材とした研究に取り組んでいます。正直何を書こうか決めていないのですが、大学院の様子や院試の内容については多くの方が書いていらっしゃるのでそちらに任せて、私は自分が院試を受ける前に知っておきたかった情報や、院試を受けるに至るまでの流れについて書いてみようと思います。院試のアドバイスについては最後にまとめておきましたので、そちらをご覧いただければと思います。

2. いままで

小学生の時に台風をきっかけに気象に興味を持つようになりました。一口に「好き」といっても「対象が無いと生きていけない」から「何となく」に至るまで広く幅があります。私が当時していたことといえば、気象通報を聞いて天気図を描き、デジタル台風というサイトで台風の衛星画像を見る程度のものであり、気象予報士を目指すフェーズにまでは私の好奇心は及びませんでした。その後は多くの子どもたちがそうであるように、勉強や気象に特に凝ることなく大学受験を考える時期を迎えました。文系は女の子が行くものだというマッチョな風潮に合わせ理系を選び、「直接人の役に立つための学問は学びたくない」というあまのじゃくから理学部を目指すようになります。

3. 大学

国立大学で気象か宇宙の勉強をしたいと考えていましたが上手くことは運ばず、物理を勉強すれば理系学問全般に潰しが効くだろうと考え受験した東京理科大学の理学部物理学科に進学することになります。2年までに物理数学と古典力学の勉強を終え、3年以降は量子力学や統計力学、物性論などを本格的に学ぶというカリキュラムです。

理系の学生は大学院まで進学するという社会の風潮もあり、大学に入学した当初から大学院への進学を考えていました。ただ、理系私立大学の学費は安くはないこともあり、漠然と国立の大学院への憧れがありました。ある程度候補は絞っていたものの何を専門にするかは決めておらず、大学2年次には東大の大学院大学である新領域分野のガイダンスに出席しましたが、研究内容は社会貢献や企業連携の面が強調されており、自分にはあまり合わなそうだなと感じました。

そうして2年の終わり頃には、昔から興味があった気象の研究がしたいと考えるようになり、東大地惑の院試を受験しようと決めた覚えがあります。東大に決めた理由は色々ありますが、よりレベルの高い環境に身を置きたかったから、というのが正直な理由です。ただ当時は東大地惑に行きたいとは思ってはいたものの、まだまだ自分ごとには思えず、研究室訪問や試験勉強などの院試に向けた具体的な行動は全く取っていませんでした。

その後コロナ禍が始まり、あっという間に3年の冬になりました。3月に行われた東大地惑のプレガイダンスに参加しましたが、こちらの内容はあまり覚えていません。時期を同じくして過去問をダウンロードして勉強を始めた覚えがあります。5月のオンラインガイダンスにも参加して、地惑の先生方のお話をオンラインで聞きました。この時、本郷にいる大気物理学の准教授がお話している様子をみて、なんとなくですが好感を持ちました。ファーストインプレッションは馬鹿にはできないものです。

出願の時期になり東大以外の国立大学院の併願も検討しましたが、さまざまな理由で断念しました。東大地惑に限らず、他大学院への進学を少しでも考えているのならば研究室訪問は行っておいたほうがいいです。制度上、東大地惑は事前の研究室訪問なしでも受験できますが、事前訪問を推奨している研究室もあるので注意してください。ちなみに私はゼミやアルバイトで忙しかったので、この制度に甘えて研究室訪問はしていません。何度でもいいますが絶対にしておいたほうがいいです。

こうして私は単願で東大大学院を受験することになります。過去の「学生の声」に同じ大学・学部の先輩が単願で受験したとあったため、私もいけるだろうと楽観的に考えていました。もし落ちていたら休学して時間を取り、沖縄にダイビングの免許を取りに行こうと考えていました。最悪の状況でも自分にとってハッピーな選択肢を考えていたことが、いくらか心の支えになった気がします。

4. 院試当日とのその後

前年度はオンライン試験でしたが、2021年の試験は理学部1号館の講義室で行われました。例年会場での試験科目となっていた800字の小論文はPDFファイルでの事前提出だったので、いくらか助かりました。コロナ禍2年目ということもあり、健康を証明するための様々な書類が必要だったため、忘れ物が無いか何度も確認した覚えがあります。

気象を学びたいと考えているものの私には天気予報を見る習慣がなかったため、当日朝は急な雨に降られてびしょ濡れになりました。試験会場はエアコンが効いていたため、震えながら英語の試験のTOEFL-ITPを受ける運びとなりました。はじめはリスニングです。換気のために窓が薄く開いていて、隙間風とカーテンがこすれる音が少し気になりました。続いてリーディングです。私は英語が得意ではないので時間を目一杯使いましたが、リーディングの終盤にもなると寝ている学生もいました。東大生は優秀ですね。

お昼の時間です。コロナ禍ということもあり、どこかで聞いた東大の内部生同士が集まり答え合わせをするという光景を見ることはできませんでした。ただ彼らが作り出す雰囲気がどことなく漂っていて、自分はよそ者だと自覚させられ、アウェーに感じたのを覚えています。

午後は専門科目の試験です。力学で過去に全く出題されていなかった分野が登場し、ここまでか、と思いました。雨に降られた時点で嫌な予感はしていました。しかし数学を見ると、量子力学で登場する特殊関数が出題されていたので、代わりにこちらを解きました。本当に救われました。物理学科に所属していてよかったと初めて思った瞬間です。過去問ばかりやらず、まんべんなく勉強しようという地惑教員からのメッセージ、しっかりと受け取りました。結局当初の予定は変更となり、数学2問と物理学2問を解答しました。

5. 筆記試験合格発表とその後の過ごし方

こうして筆記試験は終わりました。試験の次の日から北海道に住んでいる友人に会いに行き、ひたすら車を運転しました。日高峠で車を停めて満点の星空を眺めていると、院試に落ちようが自分の人生は何とかなるという妙な自信が湧いてきたのを覚えています。

そして合格発表です。手応えはありませんでしたが合格していました。面接は2日後です。試験前にオンラインで提出した小論文を基に5つのグループ別に合格が決まります。私はシステムと大気海洋に合格していたので、それぞれ20分ほどのオンライン面接を受けました。小論文の内容と当時の研究以外に話すことを用意していなくて、また、緊張していたこともあり、うまく話せませんでした。面接は基本的に和やかな雰囲気で進みますが、小論文で知ったかぶったことを書いていたので、用語についてきちんと理解しているかのチェックが有りました。小論文は等身大の内容を書くことをおすすめします。

面接の合格発表は9月中旬にあります。こちらも不安でしたが合格していました。研究室訪問はここから始まります。小論文と面接の内容を受けて作成された指導教員リストが送られてきて、そちらを見て自分でアポを取り訪問するという形式です。訪問していない研究室には配属されないので、たくさん教員と会いお話を聞くと良いでしょう。私は5人の先生方とお話しました。リストにない教員にメールを送りアポを取ることも可能ですが、配属されるかとなるとまた別の話です。私は正直に言うと研究の話はよくわからなかったので、研究室訪問では教員の雰囲気や自分の興味があった台風の研究が出来そうか、といった点を重視していました。

指導教員が決まるのは11月中旬です。長い院試もここでようやく終わりです。各教員に対して学生は2名まで配属されますが、こちらは指導教員とのマッチングが重視され、尚且つ研究室内部の事情も関係してくるため、成績の良し悪しのみで決まらない難しさもあります。その後は研究室ごとに入学前の顔合わせなどがあり、翌年4月から正式に研究室のメンバーとなります。

6. 院試についてのアドバイス

大気海洋科学講座では多くの教員から数学と物理での受験が要請されます。おそらくどの受験科目でも共通して言えることだと思いますが、高得点を目指す必要はなく、基本的な問題を確実に解き、理解していることを答案で表現する必要があります。後から聞いた話ですが、研究室配属の材料として答案の書き方から性格を見るという教員もいます。わからなくてもわからないなりに足掻いて、答案を埋めようという姿勢も大切です。

勉強についてですが、過去問の出題分野にとらわれず、満遍なく勉強することをおすすめします。私は過去問の解答を自力で作りつつ、大きめの書店で買った問題集を解いていました。

小論文は800字で入学後にやりたい研究について書くように言われます。こちらは点数には含まれませんが、丁寧かつ論理的に書いたほうが好印象なのは間違いないです。おそらく事前に準備する余裕があると思いますので、完璧に仕上げてから提出しましょう。

英語も市販の問題集で問題ないでしょう。ただ、非常に不得意だという自覚がある人は、それなりに対策をしたほうがいいと思います。能力の個人差が大きいので、具体的なアドバイスはできかねますが。

7. さいごに

東大地惑の良いところは院試の後にじっくり専門分野を決められる点だと思います。大学で専門的な勉強をしていなくとも、地学が好きな人達全てに門戸は開かれています。大学院に他分野から来る人は新しい分野の知識に講義、ゼミ、セミナー、論文などの形で触れると思います。これらの知識を自身の中で系統立てて定着させた上で、研究に取り組むという経験は、今後の人生で何らかの形で役に立つでしょう。

National Taiwan University
図1 台湾大学でのワークショップ

載せる写真が特になかったので、3月はじめに台湾大学で行われたワークショップの際に撮った写真(図1)で締め括ろうと思います。台湾も日本同様に就活シーズンということもあり、キャンパスでは就活フェアが行われていて、B4の後輩から「イノさんは参加しないのですか」とイジられました。

井野 創開(大気海洋科学講座 三浦研 修士2年)
[2023.05公開/2023年度「学生の声」]

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