【学生の声2022】他大学からの進学と院生生活
2022年度「学生の声」
越智 克啓(地球惑星システム科学講座 修士1年)
はじめまして、池田研究室修士1年の越智です。私は修士から東京大学大学院に進学し、それ以前は茨城大学理学部地球環境科学コースに在籍し、チバニアンの認定で有名な岡田誠先生の研究室に所属していました。拙い文章かもしれませんが、大学院入試や現在の院生生活についてご紹介していきます。
院試について
志望動機
大量絶滅や海洋無酸素事変(OAE)、天体衝突などの極限環境のイベントの研究に興味がありました。東京大学はそれらのイベントに関する研究が盛んで、実際に研究を行っている先生方も多くおられるので、東大の大学院に進学しようと決めました。
教員との院試前のコンタクト
本格的に進学に向けた準備に乗り出したのは、学部3年の3月末頃に、初めて東大の先生と面談をしたときからです。
その後、その先生とは何回かお話の機会をいただき、他にもコンタクトを取った方がいい先生を5, 6人ほど挙げてもらって、その先生方ともお話の機会をいただきました。
興味のある研究室の先生方とは何人かコンタクトを取っておくことを強くおススメします。研究室選びの参考にというのはもちろんですが、お話を聞いた先生方は後に院試の面接試験で試験官となります。面接で面識がある先生がいるということだけでも、試験中すごく安心感を持てました(個人的には結構重要だと思います)。
具体的にやりたい研究が決まってない人は、6月頃の大学院進学説明会で先生方の研究紹介を聞いてみるといいと思います。コンタクトを取るのは説明会が終わってからでも遅くはありません。私の場合は、Webサイトで興味のある研究室を探して、コンタクトを取りました。
筆記試験
筆記試験では地球科学と化学を選択しました。東大の方々にお話を聞くと、数学と物理学はあまりクセがないストレートな問題が多くておススメ、という声が多かったです。問題の内容は、学部2年くらいまでの基礎的なことが中心です。ただ、地球科学は学部3年程度の少し専門的なことも出たかなという印象です。過去問を見て、解きやすそうな科目を選ぶのでいいと思います。
最初は学部時代の授業資料やノートを見て復習し、その後は過去問を解きながら、分からなかったところについて再度復習という感じで勉強を進めていました。全然勉強していなかった分野については、実際に講義を取りながら勉強をしていました(忙しくなるのでおススメはしません)。
TOEFL-ITPは対策の問題集や単語集・熟語集を購入して勉強をしていました。ただ英語の出来は悪い方で、当日は分かる問題だけは取ったという感じです。
小論文・面接試験
小論文は事前提出でした。期限までであれば訂正は何回でもできますし、筆記試験当日に時間内に書く形式でないのは助かりました。主な志望理由を2つほど挙げて、3割は卒業研究のことを書いてという感じで仕上げました。
面接はオンラインで15人程度(?)の教員対私1人という形で、小論文に沿って行われました。志望動機についてはもちろん聞かれますが、私の場合はそれ以上に卒業研究のことをよく聞かれました。これといって面接の練習はしませんでしたが、小論文をふまえてどんなことを説明できたらいいか、どんな質問が考えられるかは、卒業論文の指導教員である岡田先生に相談に乗っていただきました。
院生生活について
院生生活
東大の授業は難しいというイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか? 確かに院生向けの専門性の高い授業もありますが、多くの授業は学部との共通授業(学部向けの授業を学部生・院生共通で受講)です。別の分野から来て地球科学を学んでいなかった人でも基礎から学ぶことができますし、予習・復習等をやっていれば授業はしっかり理解できます。それに修士で取るべき単位数は多くありません。1週間で3, 4コマほどに抑える、逆に修士1年の前期に修士で必要な授業単位を取りきってしまうなど、授業の取り方は人それぞれです。
セミナーも多数開催されています。私は講座内で2つ(一つは週1回、もう一つは月1回程度)と、週1回の研究室のゼミに参加しています。単位認定に必要なゼミはもちろん参加必須ですが、それ以外のゼミも希望すれば参加できることもありますので、余裕があればいろんなゼミに参加してみるといいでしょう。
残りの時間では研究を進めます。研究室によっても異なりますが、いつどれくらいの時間作業をするかは自分次第です。朝から夜遅くまで空いている時間ずっと作業する、この日は作業はやらずに家でゆっくりする、授業の前や後に少しだけやるなど、それぞれのペースで進めればいいです。
自身の研究
大学院では極限環境イベントの研究を新たにやりたいということで入りましたが、現在は卒業研究の続きを行っています。
今から約80万年前に東南アジアで巨大な隕石が衝突しました。隕石が衝突するとテクタイトという隕石と地殻が溶けて形成した球状や水滴状のガラスが生じます(図1)。オーストラリアから東南アジアで発見されているテクタイトを、房総半島の地層から見つけ出すというのが自身の研究です。
房総半島の地層は、現在までに年代が高解像度で詳細に決定されてきました。2020年にチバニアンが地質時代として認定されましたが、77万4000年前のチバニアンの始まりを定義する境界模式層が房総半島千葉セクションにあります。この少し下位の地層(図2)からテクタイトを探しています。
実は、これまでの研究で求められた隕石衝突年代は放射年代ゆえに約2万年の大きな年代幅があること(Schwarz et al., 2016)が欠点でした。房総半島の地層は様々な手法によって年代が高精度で見積もられているため、房総半島からテクタイトを発見できれば、テクタイトが堆積した年代、すなわち隕石衝突の年代を詳細に決定でき、隕石衝突に伴う環境変動を明らかにすることができると期待されます。
さらに、他の場所でテクタイトが見つかった地層と比較することで、同時間面で起きた環境変動を比較し、環境変動のメカニズムに迫ることができる可能性があります。約80万年前は氷期-間氷期が10万年周期で繰り返す中で、1000年スケールでもダンスガード・オシュガーサイクル(D-Oサイクル)という気候変動サイクルによってアジアモンスーンや偏西風が大きく変化したことが知られています。現在は、堆積物中の磁性鉱物の磁気ヒステリシスを測定することで(図3)、D-Oサイクルと対応した環境変動について調査中です。
また隕石が衝突すると、衝突で発生した塵が太陽光を遮り寒冷化するという、いわゆる衝突の冬という現象が起こることが知られており、この隕石衝突でも衝突の冬が起こった可能性も示唆されています。
テクタイト層が見つかる場所をさらに広範囲に追跡していくことで、テクタイトがどこまで飛散したかや隕石衝突の規模、さらに周辺環境へどの程度の影響を与えたかなどをより詳細に議論していくことができます。テクタイトの飛散範囲を調査する有力な手がかりとするためにも、房総半島でテクタイトを見つけ出して隕石衝突年代を詳細に決定することが重要です。
最後に
これまで院試と院生生活について紹介してきました。長くなってしまい申し訳ないですが、大学院進学を考えている皆さんの参考となれば幸いです。
志望動機に反して、結局は学部の研究を持ち込んで続けていますが、初めて研究をゼミで紹介した時にはたくさんのコメントや質問をいただいて議論を深めることができました。また磁気ヒステリシス測定は東大に来てから新たにご提案いただきました。
たとえ同じ研究でも、多様な分野の人たちと以前とはまた異なる見方で活発に議論を深められること、研究の新たな可能性を見いだせることが、この大学院へ進学して良かったと思えるところです。
地球科学自体、数学、物理学、化学、生物学が融合した幅広い学問で研究もバリエーションに富んでいます。その多様性に関心を持ち、受け入れることができれば、研究生活はより有意義なものになります。とりわけ東大は学生や教員の数も多く、それだけ研究も多様なので、地球科学あるいは分野を越えた研究の多様性を目の当たりにできる絶好の場であるのは間違いありません。
越智 克啓(地球惑星システム科学講座 池田研究室 修士1年)
[2022.06公開/2022年度「学生の声」]