カリブ海下で見つかった沈み込んだ海洋プレートの断裂 〜上部マントル内のスラブ沈降速度の制約〜

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プレスリリース
河合 研志(地球惑星科学専攻 准教授)
ロバート ゲラー(地球惑星科学専攻 名誉教授)

発表のポイント

  • 稠密アレイ地震観測網USArray (注1)の観測地震波形を波形インバージョン法(注2)で解析し、マントル(注3)遷移層中に沈み込む海洋プレート(スラブ)の高解像度イメージングに成功した。
  • スラブの密度の違いおよび下部マントルからの上昇流により、スラブは沈み込む場所によって沈降様式を変化させつつ、下部マントルへと沈み込むことがわかった。
  • 1000万年前に沈み込んだ海嶺に沿って断裂している像から、地球史の理解に必要な時間に関するパラメータである、上部マントル中のスラブの年代と平均沈降速度を推定した。

概要

地球は宇宙空間に晒されており、熱を放出していずれ「死んだ」惑星になる。固体地球の体積の8割以上を占めるマントルは、対流することによって、つまり、冷たい下降流および温かい上昇流によって熱を地表に逃がして冷えていく。地球の熱史を理解するためには、マントル対流の様式および時間スケールの情報が必要であるが、これまで定量的には明らかでなかった。そこで研究グループは、古い海洋プレート(スラブ)の沈み込みが過去2億年以上続いている北米・南米大陸の西端のプレート収束帯に注目した(図1)。

本学で独自に開発を行ってきた地震波形インバージョン法を用いて、2015年にアメリカ本土で観測を終えたばかりの稠密アレイ地震観測網USArrayで観測された中米のやや深発地震のS波のトリプリケーション波形(注4)を解析し、中米下のマントル遷移層中のスラブの詳細なイメージングに成功した(図2)。

その像から、密度の違いおよび下部マントルからの上昇流によって、スラブは沈降様式を場所によって変化させつつ下部マントルに沈み込むことがわかった。また、1000万年前にメキシコの下に沈み込んだ海嶺を弱面とするスラブの断裂イメージに基づいて、上部マントル中のスラブの年代および平均沈降速度を推定し、地球史の理解に必要な時間に関する情報を得た(図3)。

カリブ海下で見つかった沈み込んだ海洋プレートの断裂 〜上部マントル内のスラブ沈降速度の制約〜
図1:本研究対象領域の地図。少なくとも過去2億年間、この地域では太平洋の下にあった海洋プレートが北米および南米プレートの下に沈み込み続けていることが地球物理的な観測からわかっている。(左図)中米下で発生したやや深発地震(赤星)によって励起され、北米の観測点(青逆三角;主に2004年から2015年までの間にアメリカ合衆国本土で展開された稠密地震観測網USArray)で観測された地震波を用いた。(右図)震源と観測点を結んだ地震波線(赤線)およびマントル遷移層中の推定対象領域(黄色四角;水平方向2°×2°のボクセル)、青線は図2で示す断面図に対応する6つの大円を示す。

用語解説

注1 USArray
2004-2015年の間にアメリカ合衆国の西海岸から東海岸まで約70km間隔で広帯域地震計を稠密に設置するプロジェクト(2016年からアラスカ)。このようなアレイ観測網の展開による詳細な地球内部構造推定への期待が高まっている。

注2 波形インバージョン
これまでの研究の多くは、まず観測データから波の到達時刻などを測定し、次にその二次データを分析して内部構造を推定するものであった。一方、「波形インバージョン」は、理論波形を計算して、それと観測波形とを直接比較し、その残差を最小化することによって(但し、解像度に応じて拘束条件を付ける)、内部構造モデルを系統的に改善する手法である。我々の研究グループはこれを実行するための理論を導き、その上で関連するソフトウェアを開発してきた。

注3 マントル
地殻の下から深さ約2900kmまでの岩石からなる固体の層。(深さ2900km以深は、液体の鉄合金で構成される外核であり、また、深さ5150km以深は、固体の鉄で構成される内核である。) マントルは、その主要構成鉱物が相転移する深さ660kmにおいて、上部マントルと下部マントルに区分される。上部マントル中で密度および地震波速度が大きく変化する領域(深さ400kmから700km程度)を特にマントル遷移層と呼ぶ。

注4 トリプリケーション
深さ方向に急に地震波速度が増加する(正の地震波不連続)とき、ある震央距離では複数の波(直達波、反射波、透過波)が観測され、それらをトリプリケーションと呼ぶ。マントルの主要構成鉱物は、深さ410および660kmの温度圧力条件において堅い高圧相に相転移するため、その深さにおいて正の地震波速度不連続を作る。それらの正の地震波速度不連続に伴うトリプリケーション波形はマントル遷移層の地震波構造に敏感である。

詳細については、以下をご参照ください。