1億2000万年前の化石から生体高分子キチンを検出 ―白亜紀の野火に伴う「初期珪化作用」が拓く分子古生物学の新展開―
プレスリリース
吉村 太郎 (研究当時・博士課程/現・総合研究博物館)
佐々木 猛智 准教授(総合研究博物館/本専攻・兼)
- 福井県勝山市の前期白亜紀(約1億2000万年前)の地層から産出した淡水二枚貝化石の殻から、生体高分子であるキチン質(β-キチン)が分子構造を保ったまま極めて良好に保存されていることを発見しました。
- 電子顕微鏡と組織化学蛍光染色により、現生種と同一の微細構造を確認し、β-キチン特有の化学結合を同定しました。これは淡水河川環境において、生体鉱物に由来する生体高分子キチンが中生代(白亜紀)から保存されていた直接的な証拠として世界最古級の記録です。
- 白亜紀の野火によって生成された灰に由来するシリカに富む地下水が、死後ごく初期に殻表面をシリカ薄膜で覆い、これが酵素や微生物分解から有機物を守る「タフォノミック・シールド(防護壁)」として機能したことを解明しました。

概要
東京大学総合研究博物館の吉村太郎 特任研究員(研究当時:東京大学大学院理学系研究科 博士課程)、佐々木猛智 准教授、福井県立恐竜博物館の中山健太朗 研究員、安里開士 研究員、野田芳和 指導研究員の共同研究グループは、福井県勝山市に分布する前期白亜紀(約1億2000万年前)の手取層群北谷層から産出した淡水二枚貝Nakamuranaia soniの化石殻皮から、生体高分子であるβ-キチンが分子レベルで極めて良好に保存されていることを発見しました。微生物活性の高い淡水河川環境では有機物の長期残存は困難とされてきましたが、電子顕微鏡観察、蛍光染色、フーリエ変換型赤外分光分析(FT-IR)により、現生種と酷似したハニカム状構造とキチンの分子骨格が保たれていることを実証しました。さらに、野火によって生成された灰に由来するシリカ過飽和水が死後ごく初期に殻表面に形成した自生シリカ薄膜が、微生物や分解酵素を遮断する防護壁(タフォノミック・シールド)として機能したことを解明しました。本成果は、従来の新生代(約4,000万年前)を中心とする報告から一気に時代を遡り、淡水域の生体鉱物におけるキチン分子保存の記録を約1億2,000万年前へ更新するものです。
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