【学生の声2022】境界領域への進学

2022年度「学生の声」
森 悠一郎(地球生命圏科学講座 博士1年)

地球惑星科学専攻・地球生命圏科学講座の鍵研究室に所属する博士課程1年の森悠一郎と申します。ここでは、私が所属する地球化学研究室と研究生活に関して簡単にご紹介いたします。

1. 研究室の紹介

私が所属する鍵研究室は、理学系研究科の附属施設である地殻化学実験施設に属しています。地殻化学実験施設は化学専攻の関連研究室でもあり、地球惑星科学専攻、化学専攻のどちらの学生も志望することができます。研究室・院生室は理学部1号館ではなく、三角広場を挟んで向かいの建物である化学西館に位置します。そのため、研究室には地球惑星科学専攻よりも化学専攻の学生の方が多く所属しています。(遠い昔、理学部1号館と化学西館は渡り廊下でつながっていたそうです。)

鍵研究室では高圧実験・結晶構造解析などをメインのトピックとしながらも、研究テーマは個人個人でかなり異なっています。化学専攻の学生の研究テーマやアプローチは、地球惑星科学専攻の私には新鮮で面白く感じます。時には、他の人の話がすんなりと入ってこないこともありますし、自分の研究内容を伝えるのに苦労することもあります。そのため、地殻化学実験施設の合同セミナーでは、様々な背景知識を持った聴衆にむけてわかりやすい発表を心がけています。これは自身の研究や関心事への理解や見直しにつながっていると実感します。このように、鍵研究室では化学専攻の学生から刺激を受けながら、様々な知見を得ることができる環境にあります。

2. 私の研究

私は「核の軽元素問題」に取り組んでいます。

地球内部は高温高圧の世界です。地球はおよそ6400 kmの半径をもち、中心の圧力は360 GPa、温度は6000 K程度と推定されます。これまで人類が掘削した深さは10 km程度に過ぎず、38 万km先の月に到達してから数十年たった現在でさえも、地球深部の直接観察は不可能です。そこで、高温高圧環境を計算・実験で再現して得られる地球構成物質の物性データと地震波などで得られた観測データとを照らし合わせることで地球内部構造が探索されてきました。

最深部にある地球核は鉄を主成分とする合金であることはよく知られていますが、地震波の観測から鉄よりも軽い軽元素が核に溶け込んでいると考えられています。「どんな軽元素がどれだけ溶けているか?」は、地球の原料物質や形成過程と強く関係しているため、数十年にわたって議論が続いています。軽元素の中でも、水素は高圧環境で鉄に多く溶け込み、親鉄元素として振る舞うことから、有力な候補の一つです。

これまで、高圧下での物質の構造解明はX 線回折と組み合わせた実験によって大きく推進されてきました。しかし、鉄の中に溶け込んでいる水素の量をX線回折で直接的に決定することは困難です。これは、X線回折の強度は原子番号と相関があり、大きい鉄の中に小さい水素があっても判別できないことによるものです。そこで近年、強度が原子番号に依存しない中性子回折を高温高圧実験に取り入れることで、鉄水素化物中の水素を可視化する取り組みも始まっています(Figure 1

これまでに得られている鉄水素化物の高温高圧中性子回折の結果は、ほとんどが鉄–水素二成分系に限られています。一方、実際の地球の核に含まれる軽元素は複数種類ある可能性もあるため、軽元素同士がどのような影響を与えるかを知ることは非常に重要です。私は現在、核の軽元素の候補であるケイ素に着目して、鉄­­–水素–ケイ素三成分系を対象とした高温高圧実験を行っています。他の軽元素が鉄の水素化に与える影響を見積もることで、核に含まれる水素量の制約を目指しています。

Figure 1 J-PARC MLFにある高圧ビームラインPLANETに設置された装置
「圧姫」:サンプルの入った圧媒体に2段のアンビルで圧力をかける。

3. 大学院での生活

私の場合は、年に数回、兵庫県にある大型放射光施設SPring-8や茨城県東海村の大強度陽子加速器施設J-PARC、つくばの高エネルギー加速器研究機構KEKでの出張実験を行っています(Figure2。他の研究機関に所属する研究者の方と共同で実験をすることも多いので、そこで様々なことを学べます。とはいえ、私にとって実験はハードワークであるため、長期間の出張の際には様々なストレスを抱えることになります。応急処置として出張先でおいしいご飯を食べることで、なんとか乗り切っています(?)。

Figure 2 J-PARC近くの海岸から南方のJERA 常陸那珂火力発電所を写した写真。海が近いためか、海鮮物のおいしいお店が多い。

出張実験がない期間は、院生室で実験結果の解析を行ったり、文献に目を通して研究のアイデアを探ったりしています。私は学部時代を九州大学で過ごし、地球内部物質学の研究室で高圧実験を中心とした研究を行っていました。修士課程から鍵研究室で新たな研究テーマに取り組んでいますが、学部時代に学んだ実験手法を生かせることと、鍵研究室の開放的な雰囲気のおかげもあり、障壁なく大学院生活を過ごすことができています。

研究室ではこれをしろという拘束がなく、自由に動くことができます。困ったときや何かアイデアが浮かんだときには、鍵研究室に所属する化学・地球科学・物性科学を専門とする先生方が相談に乗ってくださるので、安心して研究に取り組むことができます。院生間では四方山話に花を咲かせるなど楽しく日々を過ごしながらも、それぞれが自由に研究を楽しんでいます。

4. 最後に

地球惑星科学専攻は、基幹講座以外にも多くの協力講座や連携講座があります。地球惑星科学という分野自体の幅広さもあり、様々な機関と関連したテーマやアプローチがあります。多くの選択肢がありますので、皆さんの研究室選びに私のこの文章が参考になれば幸甚です。

森 悠一郎(地球生命圏科学講座 鍵研  博士1年)
[2022.09公開/2022年度「学生の声」]

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