【学生の声2022】本郷キャンパスから太陽系惑星へ

2022年度「学生の声」
川島 桜也(宇宙惑星科学講座 博士3年)

私は東京大学理学部地球惑星物理学科を卒業し、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻に進学しました。現在は、本郷キャンパス理学部1号館にある、宇宙惑星科学講座 笠原慧研究室に所属して研究活動を行っています。以下では、
1. 私が現在の研究分野に進むに至った経緯
2. 笠原研が取り組んでいる研究の内容
3. 笠原研での大学院生活
の3点について簡単にご紹介致します。内容は特別に笠原研にフォーカスしていますが、近隣の研究室(特に後述するPEG)では酷似した活動をしています。また文章は、出来るだけ専門用語を避けながら、誤解を恐れずフランクに記述します。

1. 私が現在の研究分野に進むに至った経緯

現在私が取り組んでいる研究のテーマは、惑星探査に向けた質量分析器の開発です。私は学部3年の頃の実験の授業を通して、自身の興味や適性が、科学装置そのものの内部構造や、科学装置を用いた観測的研究にあることを薄々と感じはじめました。現在の研究は、初志貫徹とでも言うのか、その当時の興味に従う内容になっています。有り体に言うと、私は2年生後半・3年生前半を部活動とアルバイトに費やしており、それまであまり地球惑星科学に熱心な学生でなかったのですが、大学院進学を意識し始めた時期にスタートした実験の授業で、「惑星科学やってる感」を感じることができるようになりました。

地球惑星物理学科の実験の授業は、真空、分光、電気回路、顕微鏡などのテーマに分かれており、これらは全て、現代の惑星科学的研究のエッセンスとなっているものです。授業の内容は、データを取得する手法から理学的な考察に至るまで、個々の学生が最大限に頭を使うことができるように工夫されています。私も大学院生になって何度か実験のTAを経験しましたが、その度に新しい発見がありました。

関連して昔話になりますが、私が学部3年の頃は「はやぶさ2」がまだ小惑星Ryuguの形さえも知らず、世の中のニュースで関連の話題を見かけることなど1度もありませんでした。ただし当時の本専攻はむしろ、本格的な試料回収のフェーズ等々を先に控えていたこともあり、惑星探査に関する話題が非常に盛り上がっていたように記憶しています。ミーハーな私がそれに感化されるのは自然なことであり、時代の潮流に乗っかる意味で、私は惑星探査というテーマを選ぶことを決意しました。

そうはいっても、(私基準で話をすると)惑星科学的な座学を受動的にたくさん履修してきた頭では、惑星探査の何たるかを理解して能動的に進路を選ぶことはできません。そのため私の研究室選びは、面接で推薦された研究室を回ってみて、その研究室において惑星探査という漠然としたものをどう実現できそうか考える、という内容のものでした。

複数の候補の中で、最終的に笠原研を選んだ決め手は、本郷キャンパスだったこと、笠原先生がいい人そうだったこと、笠原研第1期生ということで面倒を沢山見てもらえそうだったこと、この世俗的な3点のみです。言い換えれば、どの研究室で取り組んでいるテーマも話を聞く限り同様に魅力的で、研究に関する観点で優劣がつけられなかったということです。

2. 笠原研が取り組んでいる研究の内容

予想に違わず面倒見の良かった笠原先生は、私に多くの惑星探査の知識を授けてくださいました。と言っても笠原先生にとって「惑星探査」は枕詞であり、本当に詠みたい部分は、「に向けた粒子観測器の開発」です。情熱と時間を費やしながら自身で開発した粒子観測器をもって、宇宙や惑星を観測し、まだ誰も知らない世界を切り拓いていくというのが、笠原研の惑星探査なのです。

笠原研のメンバーは日々この教えを胸に、惑星探査機(人工衛星)に搭載するための粒子観測器の開発に取り組んでいます。ここで粒子観測器という言葉は大雑把で、電子・イオン何でもござれという意味ですが、その中でも特に私が開発しているのは質量分析器と呼ばれる装置です。質量分析器とは、原子・分子のスケールで、サンプルの組成がどのようであるかを測定するための装置です。ターゲットは多岐に渡っており(固体・液体・気体・プラズマ)、それに応じて多様なタイプの質量分析器があります。

質量分析器は、地球上のラボでも惑星探査機上でも活躍しており、データベースの充実度や汎用性・性能の高さという観点で、惑星科学において確固たる地位を築いています。特に近年の惑星探査の搭載装置を見て分かる通り、質量分析器は、最先端の惑星探査において重要な位置づけとなっている装置です。その開発者においては、ターゲットとなる惑星サンプルに応じた装置の最適化や、トロヤ群など遠くの天体を目指した小型化・省電力化など、新規性を伴ったテーマが沢山溢れている状況です。

このような背景で、笠原研では、それぞれのメンバーが独自に重要なテーマを設定し、装置開発を進めています。開発にはいくつかのフェーズがあり、手計算や数値シミュレーションを用いた装置の設計、設計で採用したパラメータによる図面の製作、図面をもとにしたテストモデル(実機)の製作、作ったテストモデルを使った実験室実験、などがあります。このような過程を繰り返す中で納得のゆく装置を完成させ、最終的に探査機に搭載するという流れです。

有名どころでいえば現在は、月極域探査ミッションLUPEXに向けた装置開発や、彗星探査ミッションComet interceptorに向けた開発が進んでいます。このような過程で、誰かが取り組むミッションが佳境を迎えた時には皆でお手伝いをしたりしながら、活気あふれる研究開発活動を進めています(図1, 図2)。

図1 笠原研で一丸となって取り組んだロケット観測プロジェクト。日本チーム(写真左)に、笠原先生や私が写っています。
@Andoya space center, Norway
図2 笠原研の作業風景。銀色の袋とはさみを持っている人物(写真左)が笠原先生で、自撮りをしている人物(写真右下)が私です。
@笠原研実験室

3. 笠原研での大学院生活

笠原研では、週1回のミーティングを通して、個々の開発状況に関する相談や、論文執筆に向けた議論、また学会発表の練習などを行っています。学生の困りごと相談会といったニュアンスが強いですが、時に笠原先生からも、国際的な惑星探査の動向などに関する興味深い話題提供をいただいています。

また笠原研の学生は、PEG(Planetary Exploration Group)と呼ばれるチームに属しています。PEGには、笠原先生はもちろんのこと、杉田精司先生・諸田智克先生・長勇一郎先生、およびその関連のポスドクや学生が所属しています。PEGのメンバーは同じ大学院の居室で生活しながら週2回のペースでセミナーを行っており、皆が似たようなリズムで生活しています。客観的に見てもPEGのメンバーはかなり結束力が高く、例えば春には筑波山にハイキングに行き、夏にはソフトボールやフットサルで汗を流し、そしてメンバーの誕生日は年齢に関わらず、甘々のケーキを買ってきて無邪気にお祝いしています(参考:https://pegutokyo.wixsite.com/website)。

研究内容という観点では、笠原研のように装置開発をしているメンバーに加えて、開発した装置によって取得した世界最新の観測データ解析をしているメンバーがいます。またPEGで開発している装置は粒子観測器にとどまらず、カメラ、分光器、レーザー、ガス分離膜など多岐に渡るものです。このような環境で、笠原研の学生は惑星探査を多角的に学ぶことができるようになっています。

PEGが取り扱っているミッションは、はやぶさ2やMMXをはじめ、名実共に世界最先端のものばかりです。これは、PEGが我が国の惑星探査の主要な研究拠点であることを意味しており、誰にとっても刺激をもらえる環境であることは間違いありません。また一般論として、次世代の探査ミッションに参入していくためには、このような環境に在籍していることが大きな近道になります。PEGにおいては、動機の不純さとタイミングの悪さは全く問題ではないので、少しでも惑星探査に興味関心を持っていただけたのであれば、ぜひ研究室見学にお越しください。

川島 桜也(宇宙惑星科学講座 笠原研  博士3年)
[2022.06公開/2022年度「学生の声」]

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