【学生の声2021】他大学院進学と研究生活
2021年度「学生の声」
佐藤 海生(地球生命圏科学講座 後藤研究室 修士1年)
はじめまして。後藤研究室修士課程1年の佐藤海生です。コロナ禍という特殊な状況であったため、参考になるかわかりませんが、大学院院進学を決意してから修士課程1年の研究生活に至るまでをご紹介します。
以下の写真は石垣島の津波石(津波で珊瑚礁の縁から運搬された石灰岩)です。この講座に所属していると野外調査に出かける場合も多く、地球の美しい景色と共に地球の謎に迫ることができるので、とても楽しく研究生活を送ることができます!
自己紹介
私は、学部時代に信州大学の理学部地球学コースに所属していました。修士課程より東京大学の理学系研究科に進学し研究生活を送っています。
信大での卒論から現在まで津波堆積物をメインテーマに研究を行っており、数値計算や地球化学・生物学的分析などの多様な観点から過去の巨大津波の実態を明らかにしたいと思っています。
院試
東大院進学のきっかけ
東大の院を受験しようと決めたのは学部4年の4月くらいです。私が元々研究(津波?地質?)に魅力を感じており、博士課程進学を目指していたので、学部時代の指導教官に相談したところ後藤先生を紹介頂き大学院の受験を決めました。
院試の2、3ヶ月間は卒論と並行しなくてならないので大変ですが、学校独自の様々な奨学金が存在するので、博士課程に進学するにはもってこいの場所だと思います。
院試勉強
院試の専門科目は物理と数学を選択しました。この2科目は、決して難問が多い訳ではなく、基本的なトピックしか出題されないので個人的にお勧めです。
4〜6月くらいから過去問を中心に勉強を行い、それ以外は市販の問題集(サイエンス社とか)を使って過去問で出題されていない範囲をカバーしました。
また英語は通常TOEFL-ITPですが、オンラインで院試が行われたので、TOEFLはなくエッセイに置き換えられました。
ちなみに、専門科目や面接も全てオンラインで実施されました。家で落ち着いて取り組めたので個人的によかったです。
研究室の決定
この決断が大学院生活を左右する重要な要素となることはご存知だと思います。
自分でやりたいテーマがあればすでに決まっている方は問題無いと思いますが、漠然としている方は6月ごろに行われる東大地惑主催の大学院進学説明会に参加されることを強く勧めます。私の時は、講座ごとの説明会(生命圏科学講座や固体地球科学講座など)で研究室の先生がショートトークを行い、興味がある研究室を選択でき先生にリアクションを送ることができました。
その後に先生からメールが届きZoomを通じて研究室訪問を行うことができました。院試は講座を受験するタイプなので、ここでフィックスする必要は全く無いですが、興味があるところを全て見ておいて、筆記試験と面接合格後に詳細な研究室の選択を行えば良いと思います。
ちなみに当時長野県松本市に住んでいた貧乏学生の私にとって、交通費がかからないのは大きなメリットでしたが、合格後まで実際の研究室の雰囲気や施設を見ることがなく研究室が決定したので、4月に上京するまで不安が大きかった、というのが正直なところです。
大学院進学後
ここでは、具体的な大学院での大学院生活を少しだけ記したいと思います。
コロナ禍により、授業及び研究室ゼミの9割がオンラインで実施されたので、入学手続きから履修登録まで何かと苦労しました。入学から現在に至るまで、状況は変わりませんが、指導教員である後藤先生をはじめ、セミナーや研究室の先輩や後輩に支えられて楽しく研究を続けられています。
大学院では、研究以外に授業とゼミ・セミナーがあります。授業の専門性は学部時代よりも高くなりますが、必修単位は多くないので研究をメインに学生生活を送ることができます。
研究室ゼミやセミナーは、おおよそ2つか3つくらい参加することになります。配属される研究室によって異なりますが、セミナーは自分の所属講座だけでなく、関連する他講座の学生・教員に対して論文紹介と研究報告を1セメスターに1回ずつくらい行いました。コロナ禍でなければ、オフラインで交流する機会があるみたいなので、とても有意義な時間になるのではないでしょうか。
研究生活
以下では私の研究を簡単にご紹介します。
環境DNAを用いた津波堆積物の識別
私の専門は津波堆積物です。大学院では、環境DNAのメタバーコーディングにより、他の定常堆積物から津波イベントを識別する手法の開発に努めています。
津波堆積物は、強い営力を持つ津波が陸上砂丘や海底を侵食し、これらを内陸側に運搬することで形成されます。2011年東北沖津波では、仙台平野や三陸海岸の内陸部数kmにわたって大量の砂質堆積物が形成されました(図1)。
ここでは、青森県三沢市沿岸部に分布する津波堆積物のコア写真と柱状図、海水プロキシの挙動を図2に示します。
津波堆積物は、シルトを細粒な上下の森林土壌の堆積物よりも比較的粗い砂で構成されます(図2のクリーム色・焦茶色の部分)。
先述したように、これらは津波によって形成されるので津波堆積物中にはその痕跡が含まれているはずですが、降水や砂層そのものの透水性など様々な要因によりCl-やSなどの海水プロキシは消失し津波堆積物中はスッカラカンな状態になってしまいます(図2)。
このように、現世の2011年東北沖津波でさえ痕跡が消えてしまっているので、地質時代まで遡った古津波堆積物では、この効果がより顕著に現れてしまうことは容易に想像がつきます。
古津波堆積物の識別は、過去の巨大津波の波源を制約する上で重要な情報を与えるため慎重に行なわれる必要があり、地質学だけでなく防災学においても重要なトピックです。
よって修士論文では、生態学でよく用いられている環境DNAメタバーコーディング法を適用して「津波痕跡」を高精度に探す手法を検討しています。
環境DNAメタバーコーディング法は、生物の生死に関わらず細胞外DNAも検出できるので、既存の生物化学分析手法と比較してもより網羅的に生物群集を復元することができます。 さらに、津波イベントとこれを挟む森林土壌(図2)の一連の経時的な生物群集を比較することで、津波前後の詳細な環境復元を目指します。
環境DNAは地質学でも有効であり、氷床のような保存の良い場所では人類史など万年スケールで古環境が復元されています。よって、これを数百年〜数千年前に形成された古津波堆積物に適用することで地震・津波イベントによる環境変動(沈降・隆起、植生変化など)のマーカーとして適用できないか検討したいと考えています。
古津波堆積物を制約条件に用いた過去の巨大津波の波源推定(番外編)
学部時代の研究を延長して、古津波堆積物を用いた波源推定も行っています。
17世紀の北海道〜東北日本では、千島海溝沖の巨大地震(>M 8.8)や日本海溝中部の1611年慶長津波(>M8.1)などが発生したと考えられていますが、その間の日本海溝北部に面する下北半島でも17世紀付近の巨大津波の痕跡である古津波堆積物が確認されました。
これと他の地点の痕跡情報を用いて日本海溝北部の巨大津波の波源を数値計算によって推定しています(図3)。これはまだ途中ですがブラッシュアップして論文化し、修論に集中したいと思います。
結びに
長くなってしまい大変申し訳ないのですが,本稿を読んで大学院進学から研究までの生活を少しでもイメージしてくだされば幸いです。
私が、この大学にきて感じる一番のメリットは、幅広い専門分野の先生と議論したり共同研究したりすることができ、専門分野以外でも知見が深まることです。
東大の地惑の教員数は学生よりも圧倒的に多いので自ずと研究室の選択肢も増えます。所属している表層セミナーでも、生命圏科学講座だけでなくシステム科学講座の先生からもコメントをいただくことができ、日々勉強になります。
地球科学という学問自体が、数学、物理学、生物学、化学が多様に融合した学問ですので、自分の専門分野だけでなく視野を広げて研究することが重要であると思います。そういう意味でこの大学は研究に非常に適した場であることに間違いありません。
佐藤 海生(地球生命圏科学講座 後藤研究室 修士1年)
[2022.03公開/2021年度「学生の声」]