【学生の声2021】宇宙線と磁場の起源の理解に向けて

2021年度「学生の声」
横山 将汰(宇宙惑星科学講座 博士1年)

宇宙惑星科学講座・星野研究室に所属する博士課程1年の横山将汰です。本稿では自分が取り組んでいる研究課題や、大学院での学生生活、本講座の魅力などについてお話ししたいと思います。

研究紹介

まずは私が現在取り組んでいる2つの研究課題について紹介します。2つのテーマは全く異なるように見えると思いますが、私は宇宙線と磁場との相互作用に興味を持っていて、その点は共通しているといえます。

銀河宇宙線の加速

宇宙線とは宇宙から地球に降り注いでいる高エネルギーの荷電粒子のことで、そのエネルギーは地上実験で実現されているエネルギーを遥かに越えます。
熱平衡にある粒子のエネルギー分布はMaxwell分布に従うことが知られていますが、宇宙線のエネルギー分布は図1にあるような、べき関数型になっていて、宇宙線が非熱的な粒子であることを示唆しています。どのようにして、非熱的粒子を作るのかというのは未だ完全に解決していない問題です。

図1 宇宙線のエネルギー分布 (Gaisser, 2006)
図1 宇宙線のエネルギー分布 (Gaisser, 2006)


さらに宇宙線は、その存在自体が興味深いだけでなく、熱的な粒子と同程度のエネルギー密度をもち、様々な天体現象に影響を及ぼすことが知られています。

図1を注意深く見ると、大体10の6乗GeV(ギガ電子ボルト)付近に折れ曲がりがあることが分かりますが、これは我々の銀河系内(天の川銀河内)で生成できる最大のエネルギーに対応していると広く考えられています。これよりエネルギーの低い宇宙線は、主に我々の銀河系内で作られているという意味で、銀河宇宙線と呼ばれます。

銀河宇宙線の生成過程に関しては、標準理論とされるメカニズムがあり、それは超新星残骸と呼ばれる天体に付随する衝撃波からエネルギーを獲得する、というものになります。
超新星残骸とは、星がその一生を終えるときに超新星爆発を起こした後に残る天体で、図2の明るい領域のように爆発に起因する衝撃波が観測されています。

図2 超新星残骸 SN1006 (NASA)
図2 超新星残骸 SN1006 (NASA)

標準理論とされるメカニズムは衝撃波と乱流磁場の存在のみを仮定する、普遍性の高い優れた理論ですが、少し問題もあって、実際の観測と、べき関数の傾きが違っていたり、典型的な超新星残骸では銀河宇宙線の最高エネルギーまで到達できなかったりします。
この問題の解決のために、私たちは衝撃波が伝わる空間の中の密度揺らぎに注目し、標準理論からどう変わるのかを数値シミュレーションを用いて調べています。これ以上研究の詳細を述べるのはやめますが、私は衝撃波でエネルギーを獲得した宇宙線が周囲の磁気乱流を強くして、それによりさらに高いエネルギーを獲得可能になる、というシナリオに特に惹かれて研究を続けています。

初期宇宙磁場の起源の解明

先ほどまでは銀河系内の超新星残骸と呼ばれる天体に関するお話で、それでも十分遠い宇宙のお話だと思われたかもしれませんが、次はもっと遠く、我々の銀河系の外の話にジャンプします。

私たちの天の川銀河以外にもたくさんの銀河が見つかっていますが、銀河には10の-6乗ガウスという程度の強さの磁場があることが観測から分かっています。地球が磁場をもっていることは皆さんご存知だと思いますが、銀河も同じように磁場をもっているというわけです。
このような磁場は銀河中のガスの運動によって強められた結果できたものだと思われていますが、そのためには最初に弱い磁場を用意する必要があります。

この最初の磁場を用意する、というのが意外と難しい問題で、宇宙の磁場がいつできたのか、というのは未だよく分かっていない問題です。
図3は宇宙の歴史を示したイラストです。この図の左端のように宇宙は誕生直後にインフレーションという急膨張を経験したと考えられていますが、このような極初期に磁場を作ってしまおうというアイデアも提唱されています。
インフレーションはインフラトンと呼ばれる粒子によって引き起こされたと考えられているので、宇宙磁場の起源の解明は素粒子物理学の観点からも重要な問題であるといえます。

図 3 宇宙の歴史 (NASA)
図 3 宇宙の歴史 (NASA)

一方で私たちは、もっと宇宙の時間が進んで星や銀河といった天体が誕生し始めたころに、その天体を起源として磁場ができたのではないか、というシナリオに着目しています。
特に、最初の頃にできた星の爆発によってできた超新星残骸によって宇宙線が作られ、その宇宙線が磁場を作る、というアイデアに基づいて研究しています。実際、私たちは宇宙線による新たな磁場生成メカニズムを発見し、この原稿の執筆現在、論文にまとめて投稿しようとしている最中です。
宇宙初期の磁場について観測から知ることは難しいですが、スケールの大きな話にワクワクしながら研究しています。

学生生活

次に私がどういう経緯でこの講座の博士課程に行き着いたのか一応書き残しておきます。思ったよりダラダラと書いてしまったので、適当に流し読みしてください。

学部まで

学部の前期課程は、無事入学したは良いものの特に将来の夢というものがなく、ぼんやりと興味のある講義を受けてみるという日々を送っていました。
しかし機会に恵まれて、1週間程度アメリカに行って、断層や隕石クレーターを見たり、NASAのジェット推進研究所を見学したりするという特殊なゼミに参加することができました。私が地球惑星物理学に惹かれるようになったきっかけです。

2年生になり進学先を決める必要がありましたが、何となく物理をやりたいという気持ちから、物理と名のつく学科を手当たり次第に探しましたが、結局1年生の時に縁のあった地球惑星物理学科に進学を決めました。
学部後期は固体地球、大気海洋、宇宙惑星、と様々な自然現象を対象に物理を学ぶのを楽しんでいましたが、一方でサークル活動に夢中になっていた側面もあり、基礎的な勉強が疎かになっていたと反省しています。今振り返ると、進学校で高校時代にあまり部活動ができなかった反動だったのではないかと思います。

4年生になると進学か就職かという選択を迫られますが、漠然と研究者になりたいなという思いと、とりあえず修士課程までは進学するという周囲の風潮に流されて、修士進学を決めて入試勉強を始めました。
合格決定後は卒業研究として助教の大平先生と宇宙線の研究を始め、今も一緒に研究を楽しんでいます。

修士以降

学部の間は宇宙線の研究を楽しんでいましたが、修士になって研究会等に参加するようになって、ある問題に直面します。それは、宇宙線という研究テーマが地球惑星科学というよりむしろ天文学に属するという問題です。
これまで何となく進路を決めてきた私は、この分野転向といえる状況に無自覚のまま修士まで進んでしまっていました。一年間くらいは右も左も分からないような感じで、新しいことを知る楽しさと何も分からない不安とが入り混じった感情を抱いていました。修士課程の2年間では何も身に付かないと思い、博士課程への進学を決めたのもこの頃だったと思います。

しかし、研究室でのゼミや学会参加を重ねる中で徐々に分かることも増えてきて、修士2年になるくらいには純粋に研究の楽しさを堪能できるようになってきました。特に博士課程になってからは、これまで断片的に聞いてきた情報がだんだんと繋がってきて、加速度的に楽しさを味わっています。
最初は少し苦労しましたが、今ではこの分野を選んだおかげで幅広い視野を身につけられたと感じています。今後も自分で自分の視野を狭めることがないように、積極的に研究分野以外の学会にも(ほとんどがオンラインですが)足を伸ばすように心掛けています。

先のことをあまり深く考えない性格のためにたどり着いたのが今の場所という感じかもしれませんが、自分の好きなことができる今の環境に満足して研究を楽しんでいます。

コロナ禍での学生生活

執筆時特有の話題として、コロナ禍での研究生活についても触れておこうと思います。
最初の緊急事態宣言の発令は修士2年になった頃でした。この年に入学・進学された方は環境の変化に大変な思いをされたことと思いますが、理論と数値シミュレーションという研究スタイルの私にとっては、あまり打撃はなかったといえます。

もちろん社会情勢の大きな変化に人並みに思うところはありましたが、普段することといえば研究と先生とのミーティング、セミナー参加が主で、形式がオンラインに変わっただけでした。
とはいえ、研究室のメンバーとの交流が減ったのは非常に残念なことで、昔は研究した後みんなで飲みに行っていろいろ議論したよ、と語る先輩方を見ると大変羨ましいなと思います。

博士1年になる年には、オンライン環境の整備が整い、対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド形式で講義やセミナー、研究会等に参加できるようになってきました。
実際に私たちのグループでもセミナーはハイブリッド形式で行っていて、各自の考え方や状況に応じて好きなスタイルで参加できるようになっています。私は自宅ではあまり集中できないのでよく研究室に行きますが、研究室で作業をする人とリモートで作業をする人が半々くらいという印象です。
対面で議論ができないもどかしさはありますが、研究会のオンライン化が進んだのはとても良いことだと感じていて、出張が必要だったりして敷居が高かった研究会にも気軽に参加できるようになり、たくさん楽しい話を聞けるようになりました。
オンライン化の恩恵も受けつつ、かつての交流も徐々に取り戻して、これから進学される皆さんにとってより良い環境となることを願います。

さいごに

研究紹介の部分では、私が銀河系内の天体現象から、宇宙全体規模の現象まで対象にしていることを紹介しました。
我々のグループでは、地球、太陽、銀河系内天体、銀河系外天体、… と様々なスケールの宇宙プラズマ現象を取り扱っています。私はこれまで太陽系より外の天体現象を研究してきましたが、地球磁気圏など近い宇宙だからこそ可能な詳細なその場観測の話などを知ることができ、大いに刺激を受けてきました。

私が考える本講座の特長の一つは、このように様々なスケールの宇宙プラズマ現象を扱う環境が整っていることだと思います。
特定の現象や天体に興味があるという方はもちろん、漠然と宇宙プラズマが面白そう!という方や、何かシミュレーションをやってみたい!という方も、きっと面白いテーマに出会えると思います。
進学を考えている方は是非、先生方のもとを訪ねて、話を聞いてみてください。

横山 将汰(宇宙惑星科学講座 博士1年)
[2022.03公開/2021年度「学生の声」]

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