酸素極小層から深海まで続くマンガン酸化の実態を解明 セリウム同位体が明らかにする海洋中の新しい物質循環モデル

プレスリリース
Li Wenshuai (地球惑星科学専攻 博士研究員/研究当時:現中国地質大学(武漢)教授)
高橋 嘉夫 (地球惑星科学専攻 教授)

発表のポイント

  • 海水およびマンガンクラスト中のセリウム(Ce)安定同位体比の鉛直分布を初めて明らかにした。
  • 酸素極小層(OMZ)内部を含め、深海に至るまで連続的にマンガン酸化物が形成されることを実証した。
  • 海洋中のマンガン循環と希土類元素の挙動を統合的に理解する新しいモデルを提案した。
北西大西洋の海水および2つの海山に生成したマンガンクラスト中のCe濃度、Nd安定同位体比、溶存酸素などの水深依存性

発表概要

東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻のLi Wenshuai博士研究員(研究当時、現中国地質大学(武漢)教授)、高橋嘉夫教授(兼:同大学アイソトープ総合センター センター長)、海洋研究開発機構の中田亮一主任研究員、柏原輝彦主任研究員、高知大学海洋コア国際研究所の臼井朗特任教授、東京大学大気海洋研究所の小畑元教授、漢那直也助教(研究当時、現岡山大学准教授)、名古屋大学大学院環境学研究科の淺原良浩准教授、弘前大学被ばく医療総合研究所の田副博文教授、法政大学自然科学センターの田中雅人准教授、公益財団法人高輝度光科学研究センターの河村直己主幹研究員らの研究グループは、北西太平洋において海水およびマンガンクラスト中のセリウム(Ce)安定同位体比δ142Ceの鉛直分布を詳細に解析し、酸素極小層(OMZ )から深海に至るまでマンガン(Mn)酸化物の形成が連続的に進行していることを明らかにしました。これまで、海洋におけるMnの酸化は、OMZで溶存したMn²⁺がその下部の酸素に富む層で酸化されることで主に進行すると考えられてきました。しかし、その実態は観測的に十分検証されていませんでした。

本研究では、水深10〜6000 mにわたる海水と、約900〜5500 mで形成されたマンガンクラスト試料についてCe安定同位体比を測定し、海水中ではOMZ内部で軽い同位体に富み、その下層で重い同位体にシフトする特徴的な鉛直分布が存在することを見出しました。これは、クラスト中の同位体比は周囲の海水の値を反映しており、Mn酸化物がその場で形成・沈着したことを示しています。さらに大型放射光施設SPring-8(BL01B1、BL39XU)と高エネルギー加速器研究機構の放射光実験施設(Photon Factory; BL-9A、BL-12C)においてCeやMnのX線吸収微細構造(XAFS)を測定して得た価数や局所構造の情報に基づいて、これら元素が海洋中で受ける反応も推定しました。その結果、Ceが主にマンガン酸化物に酸化吸着される過程で同位体分別が生じることが示唆され、観測されたCe同位体の鉛直分布は、Mnの酸化・沈殿が広い水深範囲で連続的に進行していることを強く示唆します。

これらの結果は、Mn酸化物が特定の深度で生成して沈降するという従来のモデルを見直し、OMZ内部を含む広範な深度での連続的な生成を想定する新しいモデルを支持するものです。本成果は、海洋におけるMnの循環と希土類元素の挙動の理解を大きく前進させるとともに、海底鉱物資源の形成過程の解明や、過去の海洋環境復元に向けた新たな地球化学トレーサーとしての応用が期待されます。


詳細については、以下をご参照ください。

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