濡れると模様が消える?樹上性カタツムリの動的カモフラージュを解明 ―有機膜の微細構造によるカモフラージュと収斂進化の発見―
プレスリリース
吉村 太郎 (研究当時・博士課程/現・総合研究博物館)
佐々木 猛智 准教授(総合研究博物館/本専攻・兼)
- 系統的に離れた2種の樹上性カタツムリが、濡れると殻の斑紋が消えて一様に暗色化し、乾くと再び現れる「可逆的な湿潤変色(Hygrochromism)」を示すことを発見しました。
- この色変化は、貝殻の表面を覆う有機膜である殻皮の二層構造と、そこに含まれる微細な空隙が水分を吸収することで、光の散乱を抑えて透明度を高める物理的なメカニズム(屈折率整合)によるものであることを解明しました。
- 降雨時に濡れて暗色化した樹皮に姿を似せる動的な擬態戦略であり、昆虫など他の生物群とも共通する収斂進化の顕著な例であるとともに、外部エネルギーを必要としない調光材料などバイオミメティクスへの応用が期待されます。

概要
東京大学総合研究博物館の吉村太郎 特任研究員(研究当時:東京大学大学院理学系研究科 博士課程)と佐々木猛智 准教授は、系統的に離れた樹上性カタツムリであるフィリピン産タケノコマイマイ類Hypselostyla camelopardalis (Broderip, 1841)と日本固有種ヒロクチコギセルReinia variegata (Adams, 1868)が、周囲の湿度に応じて貝殻の色を劇的に変化させる動的な擬態メカニズムが共通していることを明らかにしました。
貝殻の色は一般的に固定的なものと考えられてきました。しかし本研究では、樹上という貝類にとって限界的な生息域に進出した2種のカタツムリが殻表面の有機膜である殻皮(注1)の構造を変化させることで、湿度に応じた色変化を実現していることを突き止めました。走査電子顕微鏡や共焦点レーザー顕微鏡、分光光度計を用いた多角的な分析により、乾燥時には殻皮内の微細な空隙が光を散乱させて白く見えますが、湿潤時にはその空隙に水が浸入することで光の透過率が急増し、下層にある暗色の色素が透けて見えることが判明しました。
この現象は、濡れて暗くなった樹皮という背景の変化にリアルタイムで適応するための生存戦略であると考えられ、系統の異なる種の間で独立に獲得された収斂進化(注2)の好例です。本成果は、生物の環境適応戦略の理解を深めるだけでなく、湿度に反応するスマートコーティングや自律型センサーなどの次世代材料開発に新たな指針を与えるものです。

吸水すると白い斑紋が消え、 全体が暗色化する様子を示す。 左が乾燥時, 右が湿潤時. 系統的に大きく異なる2種で、 共通した湿潤変色(収斂進化)が見られる。 A. タケノコマイマイ類 Hypselostyla camelopardalis (Broderip, 1841) 。 B. ヒロクチコギセル Reinia variegata (Adams, 1868) 。 スケールバー = 10 mm.
注1 殻皮(Periostracum)
軟体動物の殻の最も外側を覆う有機質の薄膜。主にキチン質とタンパク質で構成され、結晶成長の基質や貝殻の溶解を防ぐ役割を持つ。通常、カタツムリの殻皮は薄く、あまり発達しない。
注2 収斂進化(Convergent Evolution)
系統的に異なる生物が、同様の環境に適応する過程で独立に同様の形態や機能を獲得する現象。
詳細については、以下をご参照ください。
理学系研究科web:https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/11178/






