変形しながら落下する雨粒の数値シミュレーションが可能に

変形しながら落下する雨粒の数値シミュレーションが可能に

プレスリリース
王 家瑞特任研究員、三浦 裕亮准教授、小池 真准教授

発表のポイント

  • 埋め込み境界法(注1)における気液境界面(注2)の表現を工夫し、落下する直径0.5mm以下の雨粒内部の水と周囲の空気の流れを同時に精度よく数値計算(シミュレーション)する手法を開発しました。
  • 新手法の適用は直径0.5mm程度以下の雨粒に限定されますが、実験が困難な様々な環境下において雨粒の落下速度を推定できるようになった点が重要です。
  • 気象・気候モデルが利用している雨粒落下速度の大気圧・気温依存性の経験式に最大で10%程度の誤差があることを示し、より正確な経験式を提案しました。

概要

「富岳」等のスーパーコンピュータを利用して気象・気候予測を行う気象モデル・気候モデルでは、降水粒子の落下速度をどのように設定するかによって、雨の降り方だけでなく地球温暖化の予測結果も変化します。しかし、これまでは落下速度を精度よく推定する手法がなく、雨粒に関しては1940-1960年代の実験データに当てはめた経験式が使用されてきました。しかし、実験室の大気条件と大きく異なる環境での経験式の信頼性は検証できていませんでした。

東京大学大学院理学系研究科の王家瑞特任研究員、三浦裕亮准教授、小池真准教授は、このような状況を打開するべく、直径0.5mm以下の変形しながら落下する雨粒の落下速度を精度よく計算する手法を開発しました。

本研究では、埋め込み境界法の気液境界面の表現に非回転の構造を保存する離散デルタ関数を導入し、従来手法で問題となっていた偽(にせ)の流れの発生を解決しました。この新手法により、これまで実験されてこなかった様々な大気圧・気温でも雨粒落下速度が精度良く推定できるようになり、その結果、雨粒落下速度の経験式には最大10 %程度の誤差が生じていたことが明らかになりました。

本研究は、直径0.5mm程度以下の雨粒に限られたものですが、変形しながら落下する雨粒の落下速度を数値計算(シミュレーション)により推定することの有効性を示したという点が重要です。本研究は、気象モデル・気候モデルが使用する物理プロセスを表現する式の信頼性を大きく向上させるもので、気象・気候予測の不確実性の低減につながると期待されます。

変形しながら落下する雨粒の数値シミュレーションが可能に
図1:直径0.025mm、0.4mm、0.5mmの落下する雨粒(濃い水色で表示)内外の水と空気の流れの様子(流線)。直径が小さいときには空気の流れは雨粒を回り込むだけであるが、直径が大きくなると流れが複雑になり雨粒の上側に渦を生じる。

用語解説

注1 埋め込み境界法
大気と水滴のような二つの異なる物質の境目を表現できる数値流体力学の手法の一つ。一般に流体計算では、3次元空間を分割する時間的に変化しない点(格子点)や領域(検査体積)で物理量を計算するが、物質の境目はギザギザした表現となってしまう。そこで、二つの物質の境目に目印となるマーカーを設置し、そのマーカーの運動を追跡することで変形する境界を表現する方法が考案された。埋め込み境界法では、流体の力学方程式であるナビエ・ストークス方程式は通常の流体計算と同様に解くことで計算コストを抑えつつ、二つの物質の境目はマーカーを使ってラグランジュ的に解析する。

注2 気液境界面
空気と液体(水)の境界面のこと。注1にあるように埋め込み境界法では、境界面に配置されたマーカーを追跡し、マーカー間は関数により補間することで、各時間における空気と液体の滑らかな境界面全体を計算可能としている。本研究の新手法では、マーカーの再配置方法や滑らかな補間関数の構成、境界を表現する関数として離散ヘビサイド関数を採用するなどのさまざまな工夫により、計算コストを抑制しつつ精度のよい計算を実現している。

詳細については、以下をご参照ください。