福島原発事故によって飛散した放射性微粒子の溶解挙動を解明
プレスリリース
小暮 敏博(地球惑星科学専攻 教授)
奥村 大河(地球惑星科学専攻 特任研究員)
発表のポイント
- 福島原発事故で原子炉から飛散した放射性微粒子が純水および海水中で溶解することを明らかにし、その溶解速度(=放射能の減少速度)を見積もることに成功した。
- 海水中での溶解速度は、純水中に比べ一桁大きく、半径1μm程度の放射性微粒子は10年程度で完全に溶解する可能性が示された。またこの溶解による環境等への影響はないと考えられる。
- 放射性微粒子の溶解速度や溶解に伴う構造の変化を明らかにした今回の成果は、放射線影響評価や汚染問題の解決に貢献することが期待される。
概要
福島原発事故により放射性セシウムが大気中に放出され、周辺環境が汚染された。最近の研究により、原子炉から放出された放射性セシウムの一部は、数ミクロン(μm)以下の微粒子に封じこめられた状態で飛散したことがわかってきた。このような微粒子はセシウムボールとも呼ばれ、一粒子あたりの放射性セシウムの濃度は、汚染土壌粒子等に比べかなり高いため、粒子近傍への局所的な放射線影響が懸念される。
今回、東京大学、農業・食品産業技術総合研究機構(以下農研機構)、日本原子力研究開発機構の研究グループは、この放射性微粒子を構成する珪酸塩ガラス(注1)が緩やかではあるが液中で溶解しうる物質であることに着目し、環境中で採取された微粒子試料を用いて、その純水および海水中での溶解速度とその温度依存性を決定した。その結果、海水中での溶解速度は純水中に比べ一桁以上大きく、福島県沿岸域の海水温で半径1μm程度の放射性微粒子は10年程度で完全に溶解する可能性が示された。溶解途中の放射性微粒子を電子顕微鏡で詳細に調べると、放射性微粒子は明らかに溶解前に比べて小さくなっており、ガラスの溶解にともなって放射性セシウムが溶液に溶け出すことが確認された。以上の結果より、河川、海洋、土壌などさまざまな環境中に残留している放射性微粒子が水と接触することで、そこでの温度や溶液の組成、水素イオン濃度等に依存した速さで溶解が進行し、液中に放射性セシウムを放出しながら微粒子自身は数年~数十年のうちに消滅する可能性が示された。本研究の成果は、福島原発事故により放出された放射性セシウムによる放射線影響や、環境汚染の今後の変遷を明らかにする上で重要な科学的知見となるものである。
なお、現在では事故から約8年が経過しており、海洋では放射性微粒子の溶解が進行していると予想されるが、現在の海水中の放射性セシウム濃度は検出下限値(約1 Bq/L)未満であり、溶解による環境等への影響はないと考えられる。

用語解説
注1 珪酸塩ガラス
シリカ(SiO2)を主成分とするガラスで、食器、自動車、窓などに我々が日常目にするガラスは、これに属する。また天然にも火山活動などでマグマの固化することによって形成される。通常のガラスはシリカの主成分以外にさまざまな元素が溶け込んでおり、その種類と量によりガラスの諸性質が大きく変化する。
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