「もったいない精神」で宇宙の天気を読む ー複数探査機の多点比較から宇宙線変動と太陽プラズマの関係を解明ー

プレスリリース
木下  岳(地球惑星科学専攻  博士課程学生)
吉岡  和夫(新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻/本専攻・兼)

発表のポイント

  • 複数探査機の多点観測から宇宙線変動と太陽プラズマの物理的関係を解明
  • 本来理学用途でないシステム系観測装置を活用した太陽プラズマ観測手段を確立し、実証に成功
  • 太陽プラズマの観測手段の増加により、精度の高い宇宙天気予報実現に貢献
本研究で実施した太陽プラズマ噴出物の多点観測の概念図
本研究で実施した太陽プラズマ噴出物の多点観測の概念図

発表内容

東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻の木下岳大学院生を筆頭とする、名古屋大学宇宙地球環境研究所の三好由純教授、原田裕己准教授、計測・実験素粒子物理学研究所(LIP:Laboratory of Instrumentation and Experimental Particle Physics)のマルコ ピント研究員、 東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻の吉岡和夫准教授などからなる国際研究グループは、太陽から噴出する惑星間空間コロナ質量放出物(以下、ICME)と銀河宇宙線変動の関係を解明しました。

内部太陽圏におけるICMEの伝搬過程の理解は、地上・宇宙インフラ保護の観点から重要です。精度の高い宇宙天気予報実現のためには、探査機のICME観測データを用いた伝搬モデルの改良が必要とされています。ICMEが観測者を通過する際に、バックグラウンドの銀河宇宙線を遮蔽する“Forbush Decrease (以下、FD)”という現象は、ICMEの変化を追跡する有力な手段です。FDは簡易な粒子観測装置さえあれば検出できる現象ながら、伝搬するICMEの構造変化を反映して変化します。そこで本研究グループは以前の研究にて(関連情報:Kinoshita et al. 2025)、水星探査機BepiColomboに搭載されている、探査機の機能維持のためのシステム系観測装置に着目しました。この観測装置のデータは簡素で科学解析には適さず、理学的には日の目を浴びてこなかったビッグデータが蓄積していましたが、本グループは「もったいない」と考え、放射線シミュレーションを介した較正によりFD観測機器へと生まれ変わらせました。

本研究では、較正データの理学的な実証として、2022年3月にBepiColomboを含めた3つの探査機がICME・FDを多点観測したイベントを解析しました。本イベントにおいては太陽系動径方向、方位角方向のICME構造の比較に適した良好な位置関係で各探査機が観測しており(概念図)、かつ磁場・太陽風などFD以外の観点のデータも得ていたため(図1)、ICME・FDの対応関係を多角的に考察できました。解析の結果、太陽系動径・方位角方向のICMEの進化に対応したFDの形状、深さ、傾きの変化の追跡に成功しました(図2)。工学的な目的で設置された簡易な装置でもICMEの進化に迫れると本研究が示したことで、ICME観測への参入障壁の低下が見込まれます。他の探査機・イベントにも本手法を適用できれば、ICMEデータセットを飛躍的に増大させ、さらなる宇宙天気予報の精度向上が期待できます。

水星探査機BepiColomboが観測した太陽プラズマ噴出物のデータ
図1:水星探査機BepiColomboが観測した太陽プラズマ噴出物のデータ
(a)の宇宙線データの青の部分では太陽から噴出したICMEの通過による一時的な減少「Forbush Decrease (FD)」が見られます。(b)-(f)では
宇宙線以外の観点のICME観測データを示しており、これらから推察されるICME構造と宇宙線変動(FD)の関係について本研究で考察しています。
太陽観測機Solar Obiterと地球近傍の探査機が観測したFDと磁場の比較
図2:太陽観測機Solar Obiterと地球近傍の探査機が観測したFDと磁場の比較
Solar Orbiterは太陽から約0.5天文単位(以下、au)、地球近傍の探査機は1 au離れており、かつ太陽から見て直線状に並んで観測していたため、
太陽系動径方向の太陽プラズマ・FDの変化を追跡できました。

詳細については、以下をご参照ください。

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