冬季成層圏の「深い循環」の3次元構造を解明

プレスリリース
佐藤 薫(地球惑星科学専攻 教授)
高麗 正史(地球惑星科学専攻 助教)

発表のポイント

  • 3次元ラグランジュ流(注1) の理論式を導出し、冬季成層圏の赤道域から極域に向かう「深い循環」が東シベリアで強く、北アメリカでは逆向きとなる特徴的な構造を持つことが解明された。
  • 成層圏・中間圏の物質循環の3次元構造は、これを記述する理論が未整備で東西平均した2次元(緯度高度)構造のみ議論されることが多かったが、本研究はそれを可能にする理論構築を行った。
  • オゾンは赤道上部成層圏で生成され成層圏の大気循環に乗って世界中に運ばれる。本研究はその流れのルートを見出す理論ツールを開発したことになる。地球の中間圏や地球型惑星の金星や火星の物質循環の3次元構造の解明にも利用できる。

概要

成層圏のラグランジュ流は、赤道域の上部成層圏で生成されるオゾンを全球に運び地球のオゾン層を維持する重要な流れである。これまで、東西平均したラグランジュ循環の近似式を与える変形オイラー平均方程式系(注2)等によって、2次元(緯度高度)断面における物質循環の構造や駆動メカニズムが議論されてきた。経度構造を含む3次元構造を調べるには、3次元ラグランジュ流の理論式が必要だが、気圧の谷や尾根の位置が動かない地面に対して位相が固定された波(定在波)によるドリフト効果の定式化が難しく理論構築がなされていなかった。

これに対して、東京大学大学院理学系研究科の佐藤薫教授らは、東西平均東西風を基本場とする従来の定式化の前提を捨て、東西と南北の対称性の良い式変形を行うことで、変形オイラー平均方程式系を3次元に拡張し、3次元ラグランジュ流の近似式の導出に成功した。

この式を用いて、冬季にのみ存在する深い循環と呼ばれる中上部成層圏において低緯度から極域に向かう大循環を解析したところ、東西一様ではなく、東シベリアで強く、北アメリカでは逆向きであることが明らかとなった。すなわち、東シベリア上空の極域への流れは、オゾンが赤道域から中高緯度に運ばれる主なルートと解釈できる。この理論式は汎用性が高く、中間圏や下部成層圏の循環だけでなく、金星や火星など地球型惑星の大気大循環の構造や駆動メカニズムの解明にも利用することができる。

冬季成層圏の「深い循環」の3次元構造を解明
図1:東西平均したラグランジュ流の様子。成層圏には低緯度から両極に向かう循環が、中間圏には夏極から冬極に向かう循環がある。成層圏の循環は、下層の両半球対称な循環(浅い循環)と冬半球にのみ存在する深い循環がみられる。

用語解説

注1 ラグランジュ流
大気塊(流体粒子)の流れ。大気の質量や、水蒸気やオゾン、二酸化炭素等の大気微量成分の流れを表現する。

注2 変形オイラー平均方程式系
東西平均の大気の運動や気温の時間変化やバランスを記述する方程式系の1種。南北方向、鉛直方向の空気塊の流れ(ラグランジュ流)の近似形も与える。

詳細については、以下をご参照ください。

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