海洋表層の鉛直混合がインド洋ダイポールモード現象に与える影響を解明
プレスリリース
中里 舞(研究当時:地球惑星科学専攻 修士課程大学院生)
東塚 知己(地球惑星科学専攻 准教授)
発表のポイント
- インド洋熱帯域で発生する正と負のインド洋ダイポールモード現象(注1)の強さが異なる原因を、領域海洋モデル(注2)を用いたシミュレーションにより特定した。
- 海洋上層の熱収支を正確に評価することで、正と負のインド洋ダイポールモード現象の強さの違いに、海洋表層の鉛直混合過程が重要な役割を果たしていることが初めて明らかになった。
- インド洋ダイポールモード現象は、日本を含む世界の広範囲に異常気象をもたらす現象であり、今回の成果により、数ヶ月先の異常気象予測精度の向上につながると期待できる。
概要
インド洋熱帯域で発生するインド洋ダイポールモード現象(IOD)は、インド洋沿岸諸国に加え我が国を含む地球全体の気候に大きな影響をもたらすことが知られています。正のIODが発生すると、インド洋熱帯域の海面水温が、東部では平年よりも低く、西部で高くなる一方、負のIODが発生すると、海面水温は逆に東部で平年よりも高く、西部で低くなります(図1)。これまでの研究によって、正のIODに伴う海面水温変動は負のIODに伴うものに比べて大きな振幅を持つことが指摘されていますが、その原因については、完全な理解には至っていませんでした。
東京大学大学院理学系研究科の東塚知己准教授、中里舞(研究当時:修士課程大学院生)と海洋研究開発機構の木戸晶一郎ポストドクトラル研究員は、領域海洋モデルを用いた現実的なシミュレーションを通じて、正と負のIODの強さが異なる原因を特定することに成功しました。海面水温偏差が特に顕著な東部のインドネシア沖において、海洋表層の正確な熱収支を調べることにより、先行研究で指摘されていた東西方向の熱輸送に加えて、鉛直方向の混合過程が正と負のIODの振幅の違いをもたらす上で重要な役割を果たしていることを初めて明らかにしました。
IODは日本にも異常気象をもたらすことが知られていますが、その予測精度は未だ十分とは言えず、多くの課題が残されています。本成果によって得られたIODのメカニズムに関する物理的な知見は、数ヶ月先の異常気象予測の改善にも貢献することが期待できます。
用語解説
注1 インド洋ダイポールモード現象
インド洋熱帯域で発生する現象で、正のインド洋ダイポールモード現象が発生すると、インド洋熱帯域の海面水温が、東部では平年よりも低く、西部で高くなる一方、負のインド洋ダイポールモード現象が発生すると、海面水温は逆に東部で平年よりも高く、西部で低くなります。
注2 領域海洋モデル
海の水温や塩分・流れの強さは太陽放射による加熱や風などの影響を受け、力学・熱力学の法則に従って変化します。こうしたさまざまな物理プロセスを数理的な方程式で表し、与えられた大気の条件のもとでの海洋の状態を計算するモデルを「海洋大循環モデル」と呼びます。海洋大循環モデルは一般的には地球全体の海洋を対象とするものですが、注目する特定の領域のみを取り出し、外側の境界からの影響を与えながら解くことも可能であり、そうしたものは「領域海洋モデル」として呼ばれます。今回の研究ではインド洋に対して領域海洋モデルを構築し、 観測された大気状態を与えることで水温や海流の構造を現実的に再現することに成功しました。
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