恐竜時代の地球環境や生態系に1000万年周期のモンスーンが与えた影響

恐竜時代の地球環境や生態系に1000万年周期のモンスーンが与えた影響

プレスリリース
池田 昌之(地球惑星科学専攻 准教授/研究当時:静岡大学理学部地球科学科 助教)
Julien Legrand(地球惑星科学専攻 特任研究員/研究当時:静岡大学理学部地球科学科 学術研究員)

発表のポイント

  • 後期三畳紀(注1)(約2億3700万年前〜2億年前)の地質記録に基づき、太陽系天体の重力相互作用で引き起こされる地球の軌道変化「ミランコビッチ・サイクル(注2)」が当時のモンスーン(注3)活動や物質循環及び生態系に影響したことを明らかにした。
  • 1000万年スケールで地球環境(降水量、砂漠分布、大陸風化速度、大気中CO2濃度、海面水温)が変化することで、生物の群集変化や恐竜の初期放散、及び大型化に影響した可能性がある。
  • ミランコビッチ・サイクルによる僅かな日射分布の変化が地球システム内で増幅され、大気—海洋—生命圏に影響したことを提示するものであり、地球史を通じた地球環境と生命の共進化を理解する糸口になる。

概要

三畳紀という時代は、恐竜が誕生し、その生息域を超大陸パンゲア(注4)全域に拡大していった時代です(図1)。この時代はとても温暖であったことが知られており、1000万年スケールで大気中CO2濃度や海面水温が大規模に変動したことが分かっています。しかしながら、その原因や生態系への影響はよく分かっていません。

東京大学大学院理学系研究科の池田准教授らは、北米ニューアーク超層群の湖の地層や日本に存在する当時の深海で堆積した地層(深海チャート注5)から、ミランコビッチ・サイクルの1000万年周期に対応した湖水位、砂漠分布、放散虫堆積速度、及び大陸風化速度の変化を検出しました(図2)。

これらの地質記録は、ミランコビッチ・サイクルに伴ってモンスーン活動(降水分布など)が変化したことを示しています。数値モデルを用いて当時の物質循環変化を評価した結果、降水分布の変化に伴って大陸風化効率が2割程度変化したと考えることで当時の大気中CO2濃度変化が説明できることが明らかになりました。

また、1000万年周期で生じる地球環境変化が生態系へと与えた影響を調べるため、化石記録を詳細に調べた結果、温暖で乾燥傾向にある時期には陸上の植物や脊椎動物、および海洋の放散虫の群集組成が変化したこと、また寒冷で湿潤傾向にある時期には砂漠域が縮小することで恐竜が生息域を拡大するとともに、獣脚類が大型化したことが明らかになりました。

以上の結果から、地質学的な時間スケールで生じる地球軌道要素の変化という天文学的な要因が、モンスーン活動や物質循環を介して地球環境や生態系に影響した、という新しい知見が得られました。ミランコビッチ・サイクルは三畳紀に限らず生じる一般的現象であるため、本研究成果は地球史を通じた環境と生態系のダイナミクスを理解する上での糸口になるものと期待されます。

恐竜時代の地球環境や生態系に1000万年周期のモンスーンが与えた影響
図1:約2億年前の古地理図と恐竜の分布拡大。超大陸パンゲアではメガ・モンスーン地域が年〜1000万年スケールで南北に変化する。モンスーン限界が北上すると、風化効率がよい巨大火成区の風化が促進され、大気中CO2濃度が減少して寒冷化すると共に、気候的障壁である砂漠域が縮小して、恐竜の分布が拡大して大型化した可能性がある。

用語解説

注1 三畳紀後期
今から2億年3700万年前〜2億150万年前の期間を指す。この時代はシダや裸子植物が繁栄し、ワニの祖先の偽顎類(クルロタルシ類)が陸上生態系で主要な位置を占めた。2億160 万年前の三畳紀末大量絶滅の後、偽顎類が絶滅して空いたニッチに恐竜類が適応放散した。翼竜類やカメ類、(広義の)哺乳類(哺乳形類)の最古の化石も発見されている。

注2 ミランコビッチ・サイクル
太陽系の天体との重力相互作用による地球軌道要素の周期的変動のこと。地球公転軌道の離心率変化(約10万年、40.5万年、数100万〜1000万年周期)、地軸の傾きの変化(約4万年周期)、および地軸の歳差運動(約2万年周期)からなる。セルビアの地球物理学者ミリューシン・ミランコビッチが氷期−間氷期サイクルのペースメーカーとして提唱したことに由来する。氷床の有無に関わらず、中低緯度地域のモンスーン等を介して、全球的な気候変動を駆動すると考えられる(図2参照)。ただし、100万年以上の長周期変動は、太陽系天体のカオス的挙動のため、その周期や振幅が不規則に変化する。

注3 モンスーン
卓越する風向の季節変化、季節風(図2)。夏季モンスーンは陸の降水をもたらすため、降水量の季節変化が顕著な地域も指す。日本の梅雨前線の要因。日射に対する大陸と海洋の加熱特性の違いから生じるため、日射変化や海陸配置の影響を受ける。降水変化は、植生変化やエアロゾル放出量変化等により、さらに水循環を活発化する正のフィードバック効果がある。

注4 超大陸パンゲア
古生代後半から中生代前半の1億年以上の期間にわたって存在した超大陸。気象学者アルフレッド・ウェゲナーが著書「大陸と海洋の起源」の中で、測地学、地質学、古生物学等の断片的な証拠から、現在の諸大陸は移動しており、全ての大陸が合体した一つの超大陸パンゲアが存在した、という大陸移動説を提唱した。パンゲアの中緯度内陸域には砂漠が広がったが、モンスーン前線も内陸まで大きく移動し、メガ・モンスーン気候が発達した。

注5 深海チャート
深海チャートは、主に放散虫という海洋プランクトン起源の生物源シリカ(SiO2)からなるチャートと、主に風成塵からなる泥層のリズミカルな互層からなる。生物源シリカの堆積速度は、海洋への溶存態シリカの主供給源である大陸風化速度を反映したことを、同グループの地質調査、地球化学分析、物質循環モデルにより示した。
https://www.shizuoka.ac.jp/pressrelease/pdf/2017/PressRelease_18.pdf
https://academist-cf.com/journal/?p=5267

詳細については、以下をご参照ください。