地球コアに大量のヘリウム?—高圧下でヘリウムが鉄と化合物を作ることを発見—
プレスリリース
廣瀬 敬(地球惑星科学専攻 教授)
竹澤 春樹(地球惑星科学専攻 大学院生)
発表のポイント
- 今回の実験で、不活性ガスの代表格であるヘリウムが、少なくとも5万気圧以上の高圧下では、鉄と化合物を作ることを発見しました。
- 高圧高温下で合成した鉄-ヘリウム化合物は、常圧常温で回収できることも明らかになりました。
- ハワイなどのマントル深部由来のホットスポット火山ではマグマ中に始原的なヘリウムの同位体(3He)が多く含まれることから、マントル深部に未分化な物質が存在すると議論されてきましたが、今回の発見はそのような始原的なヘリウムがコアに多く含まれていることを示唆しています。

高圧高温下で合成された鉄-ヘリウム化合物(fcc FeHe0.25)の結晶構造(右)
発表概要
東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻の竹澤春樹大学院生と廣瀬敬教授を中心とした研究グループは、大型放射光施設SPring-のX線と北海道大学の同位体顕微鏡を利用して、高圧下でヘリウムが鉄と化合物を作ることを発見しました。また、台湾国立中央大学のHsu教授による理論計算により、鉄-ヘリウム化合物の結晶構造(図1)、磁性、結合状態などが明らかにされました。
一般にヘリウムなどの貴ガスは化学反応をほとんど起こさないとされています。特に、貴ガスの代表格であるヘリウムの化合物はほとんど知られていません。しかし今回、SPring-8の高輝度X線を利用し、5万気圧と1000ケルビン以上の高圧高温下で鉄とヘリウムの化学反応を調べたところ、鉄原子の隙間にヘリウムが入った結果、鉄の格子体積が大きく膨張することがわかりました。また、北海道大学の同位体顕微鏡で、鉄中に実際にヘリウムが含まれていることが確認されました。今回得られた、鉄中のヘリウムの存在量は最大で重量で3.3%(およそ鉄2原子に対しヘリウム1原子)にもなります。
高圧下でヘリウムが鉄と化合物を作ることは、地球形成時に大量のヘリウム(特に3He)が金属コアに取り込まれた可能性を示しています。ハワイをはじめとするホットスポットと呼ばれる火山で特異なヘリウムの同位体比(高い3He/4He比)が観測されることから、マントル深部には脱ガスを経験していない始原的な物質が存在するとされてきました。しかし今回の研究成果は、そのような3Heはコア由来である可能性が高いことを示しています。

青色の球が鉄原子、ピンク色の球がヘリウム原子、黒色の線がfcc構造の単位格子を表す。
詳細については、以下をご参照ください。