マントルの底に隠された地球化学的貯蔵庫を発見――地球マントルと始原的隕石の同位体組成の食い違いを説明――

共同プレスリリース
小澤 佳祐(地球惑星科学専攻 大学院生(研究当時))
廣瀬 敬(地球惑星科学専攻 教授)

発表のポイント

  • 世界で初めて、マグマとブリッジマナイト(地球下部マントルの主要鉱物)の間の微量元素の分配係数をマントル深部まで調べました。
  • 地球形成時にできたマグマオーシャンがマントル深部で固結していく際、残ったマグマは時間と共に低いハフニウム同位体異常、高いネオジム同位体異常を持つようになることを明らかにしました。
  • 結晶化が進んだマグマは鉄を多く含み重たいため、マントルの底に溜まり、地表へ上がってくることはないと考えられます。このマグマが「隠された」地球化学的貯蔵庫となっているために、地表で観察されるマントルのハフニウム−ネオジム同位体組成範囲(マントルアレイ)が始原的隕石組成とずれていると考えられます。
地球深部の環境を実現するダイヤモンドアンビルセル装置
地球深部の環境を実現するダイヤモンドアンビルセル装置(左)と高圧高温下で合成された試料(右)

発表概要

東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻の小澤佳祐大学院生(研究当時)と廣瀬敬教授を中心とした研究グループは、北海道大学の同位体顕微鏡を利用して、マグマと鉱物(ブリッジマナイト)の間の微量元素(ランタン、ネオジム、サマリウム、ルテチウム、ハフニウム)の分配係数を地球の下部マントルを広くカバーする圧力範囲で初めて決定しました。

マントル全体のハフニウムとネオジム同位体組成は、始原的隕石の値と一致するはずです。ところが、地表で観察されるハフニウム−ネオジム同位体の組成範囲(マントルアレイ)は始原的隕石の組成と食い違っていることが知られています(図1)。これは、地表で観測されない「隠された地球化学的貯蔵庫」が地球深部にあることを示唆しています。

今回得られた分配係数を使って、地球形成時にできた、マントル深部の基底マグマオーシャンの結晶化と化学組成の進化をモデリングしたところ、時間と共に低いハフニウム同位体異常、高いネオジム同位体異常を持つようになることが明らかになりました。結晶化が進んだ基底マグマオーシャンのマグマは、鉄に富むために密度が大きく、マントルの底から発生するマントル上昇流にも巻き込まれることはありません。このマグマが「隠された地球化学的貯蔵庫」だとすると、マントルアレイと始原的隕石の値の食い違いをうまく説明することができます(図1の赤丸)。今回特定できた「隠された地球化学的貯蔵庫」には、他の元素、例えば熱源となる放射性元素(ウラン、トリウム、カリウム)も貯蔵されている可能性があります。

マントル由来のマグマのハフニウムとネオジム同位体組成
図1:マントル由来のマグマのハフニウムとネオジム同位体組成(青点)の範囲が、始原的隕石の組成(原点)とずれている。黒線は青点データの回帰直線。εHf、εNdは隕石組成からのずれを万分率で示したもの。今回得られた分配係数を使って、基底マグマオーシャンのεHfとεNdの進化を計算したところ、基底マグマオーシャンのマグマが「隠された地球化学的貯蔵庫」であるとすると、それ以外のマントルの化学組成の平均値(赤丸)はマントルアレイを説明することがわかった(マントルアレイ自体の成因は、マントル中でマグマが生成される一方、形成された地殻がマントル中へリサイクルすることによる)。

詳細については、以下をご参照ください。

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