スロー地震と普通の地震(ファスト地震)は何が違うのか?
――スケール法則の再評価による地震現象の統一的な解釈――

共同プレスリリース
井出 哲(地球惑星科学専攻 教授)

発表のポイント

  • スロー地震とファスト地震(普通の地震)の違いについて、より完全な解釈を提供した。
  • 普通の地震こそが、実は特異な現象であるという視点の転換を迫る。
  • 地震現象のより正確な物理学的理解により、将来の地震活動予測モデル改善への貢献が期待される。
スロー地震 スケール法則 ファスト地震 スケール法則
スロー地震のスケール法則(MoとTの関係)とファスト地震のスケール法則

発表概要

東京大学大学院理学系研究科の井出哲教授と、米国Stanford大学G. C. Beroza(ベローザ)教授は、スロー地震(注1)とファスト(普通の)地震の物理プロセスについての統一的な解釈を明らかにしました。21世紀初頭に発見されたスロー地震は、地震学、測地学のさまざまな観測によって、大きさの異なる現象が別の名前で呼ばれるなど、その全体像の把握が困難でした。2007年に同じ著者らは、「スロー地震のスケール法則」を提案し、異なる名前の現象が、単一の物理プロセスから生じている可能性を提起しました。

この提案は、世界の地震研究者間に論争を生み出し、そのスケール法則に対して、さまざまな異論が提出されました。一方で15年間の研究の蓄積によって、多様なスロー地震の定量的な評価が可能になりました。今回の論文は、この状況を整頓し、スケール法則に対する異論のほぼすべてが、不適切なデータ処理や数値計算の結果であること、一方で2007年には限定的だったスケール法則の証拠が、現在では1秒以下から1年以上の幅広い時間範囲で連続的に存在することを示しました。そしてスロー地震のスケール法則は、地球内部のさまざまな変形現象の、変形速度の上限を示す法則と解釈すべきであり、この法則に従わない普通の地震こそが、特殊な現象であるという視点の転換を提案しています。これは今後、地震活動の予測のための物理的モデルを構築するうえで重要な地震についての基礎的理解となります。

用語解説

注1  スロー地震
地震と同じような地下での断層(もしくはプレート境界)のすべり運動です。普通の地震が長くても数分しか続かないのに対して、スロー地震は数ヘルツの振動から、年単位の地殻変動まで、継続時間の異なる現象として観測されます。かつて異なる周波数(もしくは継続時間)の現象は、異なる現象と考えられてきました。代表的には、数ヘルツの振動は、テクトニック微動、数十秒のゆっくりした揺れは、超低周波地震、数日から数か月の地殻変動はスロースリップと呼ばれます。


詳細については、以下をご参照ください。

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