深海底熱水噴出孔から門レベルで新規の走磁性細菌を発見
――35億年前の生物進化を紐解く鍵――

共同プレスリリース
中野 晋作(研究当時:地球惑星科学専攻 博士課程)
幸塚 麻里子(地球惑星科学専攻 特任研究員)
鈴木 庸平(地球惑星科学専攻 准教授)

発表のポイント

  • 35億年前の地球環境に類似する深海底熱水噴射孔から採取した岩石内部より、世界に先駆けて走磁性細菌を発見した。
  • 回収した走磁性細菌を解析した結果、これまで知られていない門に属する細菌がマグネトソームの形成を司る遺伝子群を有することを突き止めた。
  • 深海底の岩石内部から発見された走磁性細菌は始原的な特徴を有するため、初期生命の生態や進化の理解につながると期待される。
地磁気
何のための磁石?

発表概要

東京大学大学院理学系研究科の茂木信宏助教らの研究グループは、太陽放射の吸収を通じた気候強制因子である黒色炭素(注1)について、大気放射計算に必要な光学的物性を初めて定量的に評価しました。

東京大学大学院理学系研究科の鈴木庸平准教授の研究グループは、南部マリアナトラフの深海底熱水噴出孔から採取した金属硫化物チムニー(注1; 以下、チムニー)から、世界に先駆けて走磁性細菌を発見した(図1A,B,C,D)。チムニーは金色の内壁と、銀色の周縁部から成る構造をしており、研究グループのこれまでの研究により、大きさが100 nm程度の酸化銅のナノ粒子で細胞が覆われた極小微生物が、金色の内壁に生息することを明らかにしている(関連のプレスリリース)。本研究では、銀色の周縁部から磁石を用いて走磁性細菌(注2)の回収に成功した。電子顕微鏡により回収した走磁性細菌を解析した結果、ナノ結晶の磁鉄鉱(注3)が直線に並んで配列しているマグネトソーム(注4)が観察された(図1D)。メタゲノム解析(注5)で構築したゲノム中の遺伝子を詳しく調べた結果、これまで走磁性細菌が知られていない門(注6)に属する細菌が、マグネトソームの形成を司る遺伝子群を有することを突き止めた。また、始原的なマグネトソームの特徴から、35億年前に誕生したと推定される走磁性細菌の共通祖先(注7)の性質を色濃く残していることも判明した。

チムニー試料
図1:チムニー試料の採取地点(A)、チムニーを採取する様子(B)、チムニーの水平断面写真(C)、鎖状のマグネトソームを持った微生物の電子顕微鏡写真(D)、チムニー鉛直断面の概念図(E)、Eの拡大図。チムニー内部での走磁性細菌の様子を概略化したイラスト(F)。

走磁性細菌は磁石を用いて地球磁場に沿って上下に細胞を傾け、鉛直方向に形成される化学勾配(注8)に応じて、最適な位置に水塊や堆積物中で速やかに移動することが知られていた(図1)。チムニーは鉛直方向の化学勾配が明瞭に存在しないため、これまで走磁性細菌が生息するとは考えられてこなかった(図1E)。走磁性に関係のない環境に走磁性細菌が生息することは、大気中の酸素と鉛直方向の化学勾配が存在しない、初期地球の微生物の生態と類似しており、地球の初期生命の理解が深まると共に、惑星形成初期に地磁気の消失した火星(注9)にも同様の生命が存在することが期待される。

用語解説

注1  金属硫化物チムニー
チムニーは煙突に対応する英語で、金属と硫化水素に富む黒色の熱水(ブラックスモーカー)が、深海底から噴出する場で、同心円上に金属硫化物が固体として沈殿して形成される構造体。

注2  走磁性細菌
細胞内に磁石を持ち、コンパスのように地磁気に応じて南北方向に細胞が回転する。地球の極域以外の場所では上下方向に細胞が傾くため、鞭毛を使って鉛直方向に選択的に移動する性質がある。この性質を有する生物は、細菌でしか見つかっておらず、走磁性細菌がこれまで知られる門(注6)は4つであった磁鉄鉱は砂鉄の成分であり、走磁性細菌は磁石の最小の大きさ(単磁区と呼ばれる)に制御して形成し、その大きさと形状の特異性から生物活動の痕跡として用いられている。

注3  ナノ結晶の磁鉄鉱
磁鉄鉱は砂鉄の成分であり、走磁性細菌は磁石の最小の大きさ(単磁区と呼ばれる)に制御して形成し、その大きさと形状の特異性から生物活動の痕跡として用いられている。

注4  マグネトソーム
ナノ結晶の磁鉄鉱を合成するための細胞内小器官で、ナノ結晶の磁鉄鉱を包む膜、磁鉄鉱を結晶化するためのタンパク質、ナノ結晶の磁鉄鉱を直線に配列するためのタンパク質から成る。

注5  メタゲノム解析
複数種類の生物を含む試料から、まとめてゲノムの塩基配列を決定する技術。得られた配列から、生物のゲノム全体を構築できる技術が発達することで、生物の系統分類と遺伝子機能推定を組み合わせることが可能になっている。

注6  門
門、綱、目、科、属、種からなる細菌の分類階級の中で最上位の分類階級を示す。

注7  走磁性細菌の共通祖先
マグネトソームの形成を司る遺伝子は、走磁性細菌の門が異なっても共通しているため、走磁性細菌の祖先が存在すると考えられている。その祖先はDNA配列に基づく分子時計の計算により35億年前には誕生していたと推定されている。

注8  化学勾配
物質の濃度がある方向に徐々に増減する状態を示す。例えば、夏の湖は大気と接する水面近くは酸素濃度が高く、深くなるにつれて減少するが、逆に湖底は鉄濃度が高く、浅くなるにつれて低くなる。。

注9  地磁気の消失した火星
地球よりも小さい火星では、液体金属のコアが冷却されるにつれて成層構造を成し、地磁気を生み出す対流が失われた。


詳細については、以下をご参照ください。

  • URLをコピーしました!
学生の声/Student Life
パンフレット/pamphlet
理学部ニュースバナー
ウェブマガジン/WEB MAGAZINE
リガクルバナー
サイエンスギャラリーバナー