火星表面の「しわ」状構造から紐解く過去の火星の熱史 〜地球で生命が誕生した頃、隣の惑星・火星は活動的だった?〜

プレスリリース
ルジ・トリシット(宇宙航空研究開発機構 開発研究員/研究当時:JSPS 特別研究員)
河合 研志(地球惑星科学専攻 准教授)

発表のポイント

  • 火星表面に見られるリンクルリッジという「しわ」状構造の形成年代を推定し、37億年前には全球的な大規模な火山活動が停止するほど火星内部が冷やされ、35.5億年前に再開した火山活動が局所的なものにすぎないこと、および、冷却による惑星の収縮率が35.9~35.5億年前に最も高くなることを明らかにしました。
  • 過去の火星における全球的な熱史と気候変動は、これまで謎とされていました。本研究は、最新の火星全球の高解像度画像を最先端の年代決定法を用いて解析することで、火星表面に分布する「しわ」状構造の形成年代を全球にわたり推定することに世界で初めて成功し、過去の火星での火山活動の停止時期を決定することができました。
  • 38億年前以前に形成されたリンクルリッジが見られないことから、この頃に侵食作用を起こすような「激しい」気候から「穏やかな」気候へ変動したことが示唆されました。今回確立した手法を他の表面地形にも適用することで、過去に熱的に活発であった火星がいつどのように現在のような寒冷な惑星へ進化したかを理解できると期待されます。

概要

宇宙航空研究開発機構のルジ・トリシット開発研究員(研究当時:日本学術振興会 外国人特別研究員)と東京大学大学院理学系研究科の河合研志准教授の研究グループは、Buffered Crater Counting(注1) と呼ばれる最先端の年代決定手法を用いて、火星表層で見られる「しわ」状の地質構造であるリンクルリッジ(注2)の形成年代を推定しました。これまで、表層に残された地質学的証拠を元に、火星の熱進化の解明が試みられてきましたが、用いられる手法やデータには限界があり、偏った地域や年代での熱進化のみが理解されるに留まっていました。そこで、発表者らは火星において全球的に見られるリンクルリッジという地形に着目しました。リンクルリッジは火山活動の停止後に地殻で生じる収縮や歪みで形成されたと考えられており、火山活動の停止時期、すなわち火星内部の冷却時期を理解する手がかりと考えられています。近年探査機によって撮像された高解像度画像を全球的に解析した結果、火星でのクレーター年代学(注3)に基づくと火星のリンクルリッジは25~38億年前に多くが形成され、特に35.5~35.9億年前に最も集中していることがわかりました。周囲の火山の活動年代を考慮すると、この結果は、約37億年前には火星内部の冷却が進み、大規模な火山活動が停止したことを示唆します。本研究を基に、火星内部の熱的進化に関する研究が進み、火星がいつどのようにして地球と異なる進化を辿ることになったかについての理解に繋がると期待されます。

火星表面の「しわ」状構造から紐解く過去の火星の熱史 〜地球で生命が誕生した頃、隣の惑星・火星は活動的だった?〜
図1:Thermal Emission Imaging System (THEMIS) モザイク画像 (Christensen et al., 2004) にMars Orbital Laser Altimeter (MOLA) – High-Resolution Stereo Camera (HRSC) blended DEM (Smith et al., 2001; Fergason et al., 2017)を投影した火星表面の3次元形状モデル。北東―南西方向に線状に伸びている地形がリンクルリッジである。

用語解説

注1 Buffered Crater Counting (BCC)
クレーター年代学を発展させた年代推定手法。従来のクレーター年代学では困難な線状や曲線な地形の形成年代の決定が可能である。

注2 リンクルリッジ
月や火星に見られる「しわ」状の線状構造。火山活動などにより噴出した溶岩に関連して形成されると考えられている。

注3 火星クレーター年代学
クレーター年代学とは固体天体表層のクレーター数密度に基づき、特定の地域や地形の形成年代を決定する手法であり、サンプルリターンが行われていない天体での年代を決定する上で最も広く用いられる手法である。火星においては観測やシミュレーションに基づくクレーターの生成率を仮定することで、数十%の確度での年代決定が可能である。

詳細については、以下をご参照ください。