地球コアに大量の水素 〜原始地球には海水のおよそ50倍の水〜

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プレスリリース
廣瀬 敬(地球惑星科学専攻 教授/東京工業大学 地球生命研究所 所長・教授)

発表のポイント

  • 本研究グループが世界をリードする超高圧高温実験と微小領域化学組成分析により、地球形成期の超高圧下(約50万気圧)でおきた、コア−溶融マントル間の水素の分配の決定に世界で初めて成功しました。その結果、当時地球に存在した水の9割以上が水素としてコアに取り込まれたことがわかりました。
  • 地球コアには鉄・ニッケル以外の軽い元素が大量に含まれていることが知られていましたが、その軽元素の種類と量はこれまで謎とされていました。今回の成果により、水素がコアの主要な軽元素であることがわかりました。また地球のみならず、火星など地球の1/10以上の質量をもつ岩石型惑星においても、大量の水が水素としてコアに取り込まれた可能性が高いことがわかりました。
  • 現在の海水の量やマントル中の水の量を説明するには、現在の海水のおよそ50倍に匹敵する量の水が原始地球に存在したと考えられます。今後、これを鍵として、地球の起源(特に材料物質や集積プロセス)の理解が進むと期待されます。

概要

東京工業大学地球生命研究所 田川 翔特任助教(研究当時:東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 博士課程学生)、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻/東京工業大学地球生命研究所 廣瀬 敬教授らを中心とした東京大学・北海道大学・SPring-8/高輝度光科学研究センター・東京工業大学の研究グループは、3つの世界をリードする技術(地球深部の環境に相当する超高圧・高温実験(注1)、大型放射光施設SPring-8(注2)におけるX線回折測定、同位体顕微鏡による微小領域化学分析(注3))を組み合わせ、地球誕生時にもたらされた水の9割以上が水素としてコアに取り込まれたことを明らかにしました。

本研究の結果によると、地球の誕生時に水がもたらされていた場合、地球のコアには、海水の30−70倍の水に匹敵する水素が存在することがわかります。この成果は、本当に大量の水が原始地球に存在したのか、そうだとするとその水はどこへ行ったのか、という、地球と生命の起源の解明につながります。今後、本成果を鍵として、地球の材料物質や太陽系の集積プロセスの理解が進むと期待されます。

地球コアに大量の水素 〜原始地球には海水のおよそ50倍の水〜
図1:46万気圧の実験における金属部分のX線回折パターンの変化
加熱前(上)・加熱中(中央)・加熱後(下)のX線回折パターンを示します。加熱前には水素を含まない純鉄のピークしかなかったものが、レーザー加熱中は約3,900 Kの高温で融けています。温度を瞬間的に常温に戻すと、鉄水素合金からの回折が現れ(図中赤いピーク)、鉄水素合金が合成されていたことがわかりました。このピークの位置より、鉄水素合金中の水素量を決めることができます。

用語解説

注1 ダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧高温実験
ダイヤモンドアンビルセルは、ダイヤモンドを用いた手のひらに乗るサイズの小型の超高圧発生装置(下図左)です。ダイヤモンドは圧力を発生させる尖頭状の部品(アンビル)として用いられています(下図右)。ガスケットと呼ばれる金属の板に小さな穴をあけ、その穴に試料をいれ、それを上下2つのダイヤモンドアンビルで挟み込むことで高圧を発生させます。さらにダイヤモンドアンビルを通してレーザーを試料に照射することにより、試料を高温にします。2011年には、廣瀬教授のグループがこの装置を用いて世界で初めて地球中心条件を再現するなど、最先端の地球深部物質科学の成果に大きく役立ってきました。

注2 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センターが行っています。SPring-8の名称はSuper Photon ring-8GeVに由来します。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のことです。今回は、加熱前(常温)→加熱中(数千度)→加熱後(常温)の一連の操作の間、約0.2秒ごとに試料からのX線回折を取ることで、高温・高圧その場での試料観察を実現しました。SPring-8では、この放射光を用いて、地球科学以外にもナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。

注3 同位体顕微鏡
同位体顕微鏡システム(Isotope Microscope)は、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry: 二次イオン質量分析)の技術を発展させ、物質中の同位元素の3次元分布をイメージング可能とした装置です。この装置では、極めて手法が限られている水素の分析・定量も可能で、これまで、月の水の発見や、隕石中の先太陽系物質の発見、太陽系起源の実証など、多くの科学的成果をあげてきました。同様の装置は世界的にみても数台しかなく、また、その開発は北海道大学にて行われています。

詳細については、以下をご参照ください。