宇宙線電子加速の「はじめの一歩」

プレスリリース
天野 孝伸准教授、加藤 拓馬(博士課程1年)、北村 成寿特任研究員、星野 真弘教授

発表のポイント

  • 高エネルギー宇宙線(注1)電子の加速において最大の難関であった「種」となる粒子の生成(「はじめの一歩」)のメカニズムを明らかにしました。
  • 人工衛星が観測した地球近傍の衝撃波(注2)のデータを用いて、新たに提唱した理論モデルの正しさを実証しました。これを超新星残骸衝撃波(注3)に適用することで、宇宙線電子加速の「はじめの一歩」の問題を解決することができます。
  • この知見を用いることで、将来的には宇宙線加速の全体像の理解が進展することが期待されます。

概要

宇宙空間から絶えず地球に降り注ぐ超高エネルギーの荷電粒子(宇宙線)の起源は宇宙物理学における長年の謎になっており、これまでにも宇宙線の加速メカニズムに関するさまざまな研究が続けられてきました。特に宇宙線の電子に関しては、初期に光の速さと同程度の速度を持った宇宙線の「種」となる電子を加速するメカニズムは知られていましたが、そのような「種」を作るメカニズムは知られていませんでした。すなわち、宇宙線加速の言わば「はじめの一歩」が、最初にして最大の難関であったのです。

東京大学大学院理学系研究科の天野孝伸准教授らのグループは、NASAのMMS衛星(注4)の観測データを用いることで、この問題の解決に大きく迫ることに成功しました(図1参照)。

本研究グループは最近新たな理論モデルを提唱していましたが、このモデルがMMS衛星が観測した地球近傍の衝撃波の観測事実を矛盾なく説明できることが示されました。さらに、このモデルを遠く超新星残骸衝撃波に適用することによって、宇宙線加速の「はじめの一歩」の問題を理論的に説明できることが分かりました。この知見を用いることで、将来的には電子のみならず陽子(水素の原子核)も含めた宇宙線加速の全体像の理解が進展することが期待されます。

宇宙線電子加速の「はじめの一歩」
図1:本研究の概念図。本研究では地球からの距離が数万kmの距離にほぼ定常に存在する衝撃波の人工衛星による観測データを解析しました。一方でこの結果もとにすることで、数千光年離れた超新星残骸衝撃波での宇宙線電子加速の「はじめの一歩」が、理論的に説明できることが分かりました。

用語解説

注1 宇宙線
宇宙空間を飛び回る非常にエネルギーの高い荷電粒子のことを宇宙線と呼びます。10桁以上にも渡る幅広いエネルギー帯に渡って分布しており、その最高エネルギーは地球上の加速器で人工的に生成されるものよりも遥かに大きくなっています。宇宙線の中でも比較的低エネルギーの成分(1015.5 eV以下)は我々の銀河で生成されたものと考えられており、銀河宇宙線と呼ばれています。宇宙線は陽子などの原子核および電子から構成されていますが、本研究で対象としたのは電子成分です。

注2 地球近傍の衝撃波
音速よりも速い(超音速の)流れが障害物にぶつかることで、衝撃波と呼ばれる不連続面が生じます。太陽からは太陽風と呼ばれる超音速の風が吹き出しており、地球と太陽風がぶつかることによって地球の前面(太陽側)に衝撃波が常に形成されています。この衝撃波は通常は地球から数万km程度の距離にほぼ定常的に存在します。本研究では、この地球前面に定在する衝撃波を観測した結果を用いています。

注3 超新星残骸衝撃波
ある程度以上の質量を持つ星は、その進化の最終段階において爆発することが知られており、これを超新星爆発と呼びます。爆発に伴って星の一部の物質が超音速で放出され、周囲の物質と相互作用することで、強い衝撃波が形成されます。これを超新星残骸衝撃波と呼びます。我々の銀河内の超新星爆発によって生じる衝撃波が銀河宇宙線の起源の最有力候補とされています。

注4 MMS(Magnetospheric Multiscale)衛星
2015年3月に米国NASAが中心となって打ち上げた人工衛星で、地球近傍の宇宙空間でさまざまなエネルギーの荷電粒子(プラズマ)や電場、磁場などの観測をしています。MMS衛星プロジェクトは国際協力からなっており、日本からは低エネルギーイオン観測器が提供されています。

詳細については、以下をご参照ください。

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