ウェブマガジン第9号 分子レベルで見る地球化学

分子地球化学

-原子・分子レベルから地球をみる面白さ・重要さ-

高橋 嘉夫 (東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 教授)

「分子地球化学への誘い」

 いうまでもなく地球・惑星は元素からできている。その元素どうしの相互作用の積み重ねで地球・惑星は進化をし、物質循環が起き、生命が育まれた。これらの現象は必ず化学反応を伴い、それを扱うのが地球化学である。現代の地球化学は、Goldschmidt (Victor Moritz Goldschmidt; 1988~1947;図1)により創始され、「元素の分配と挙動」を基本課題に据えて発展してきた。その後、岩石圏・土壌圏・水圏・大気圏のあらゆる相を対象としながら、同位体地球化学の発展や地球環境科学への貢献などを経て、地球科学の様々な分野を包含しながら、地球化学は今なお大きく発展している研究分野である。

 Goldschmidtは、地球惑星でおきる元素の分配・挙動を物理化学的に統一的に理解することを目指したが、当時原子レベルでの相互作用を調べる手法は限られており、化学的な本質は想像するほかなかった。しかし、近年の様々な物理化学的手法の発達により、ようやく我々は地球で起きる様々な現象を原子レベルで突き詰めて議論できるようになってきた。このような分野は「分子地球化学(Molecular Geochemistry)」と呼ぶことができ、地球化学の根本的課題である「元素の分配と挙動」を原子・分子レベルから扱い、今後の地球化学の発展を担う重要な研究分野である。もしGoldschmidtが現在生きていたら、これら最先端の手法を駆使して、地球化学をより多彩に、より系統的に、そしてより本質的に追及したことであろう。

 筆者はこうした手法のひとつとして、主にX線吸収微細構造(XAFS)法を用い、地球惑星系で起きるあらゆる化学現象に関心を持って研究を進めている。これらには、地球惑星や生命の進化、現在の物質循環、環境化学や資源化学などの様々な問題が含まれている。以下に紹介する分子地球化学の研究例を通じて、「原子分子レベルから地球で起きるマクロな現象を理解する面白さ」や「化学をベースして隕石から土壌まで様々な試料が扱える地球化学の醍醐味」を味わって頂ければと思う(図2)。また同時に、地球化学が持続可能な社会の実現に大きく貢献できる分野であることも強調したい。

「地球化学の面白さ:得意な手法を用いてあらゆる研究対象に挑戦」

 地球化学の面白さには、自分が得意な手法を用いて様々な研究対象にアプローチできるという点がある。私もご多分に漏れず、隕石からマントルの石まで、あるいは気体・水・固体試料など、あらゆるものを研究対象にしてきた。それは他の分野からみればあまりに軽はずみにみえるだろうと思うし、自分でも本質を見誤った研究をしていないか不安になる。しかし、地球惑星を俯瞰してみる場合、そうした経験は重要だろうし、元素合成に始まり将来の地球環境まで見通すために、化学というキーワードで様々なことを調べるのは悪いことではない。そもそもGoldschmidt先生からして、そうした研究スタイルだった。地球化学で重要なことは、元素の性質にまで立ち返って、系統的に地球をみていくことである。ここでは、このような立場で行ってきた研究を、時系列的に並べてみた。特に学生さんには、一人の研究者が迷いながら成長(?)してきた過程をお読み頂ければと思う。

 私は博士号取得まで東大理学部の化学教室で研究をしていた。学部3年の学生実習でやった溶媒抽出実験で、久保謙哉先生(現ICU教授)に有機相中の溶存金属イオンの化学状態について質問をしてから、元素の化学種(スペシエーション)に興味を持ち、今に至っている。卒業研究では、富永健・巻出義紘両先生主宰の放射化学研究室が当時推進していたフロンの分析の研究を行った。当時オゾンホールが発見され、フロンによる成層圏オゾン層の破壊が大きな注目を集めており、F. S. Rowland教授(カリフォルニア大学アーバイン校;富永・巻出両先生の恩師)のノーベル賞受賞(1995年)も比較的身近な出来事として感じることができた。ここで大気の研究に多少なりとも触れたことで、現在行っているエアロゾル研究にも抵抗なく取り掛かれたのかもしれない。

 修士・博士課程(1992~1997年頃)では、同じ放射化学研究室で薬袋佳孝先生のご指導の下、放射性廃棄物の地層処分問題の基礎研究として、アクチノイド元素の地層中での挙動を研究した。ここで本格的にアクチノイド・ランタノイドのスペシエーションを調べることになり、溶液中での錯体形成や固液界面での吸着現象などを室内実験や分光学的手法(レーザー誘起蛍光法;JAEAの木村貴海博士との共同研究)を用いた研究した。これらの研究は、現在でも比較的よく引用されており、自分の研究の礎となっている。その内容は、いくつかの総説論文にまとめているので、そちらを参照されたい([1][2])。

「スペシエーション(化学種解析)に基づく地球化学の研究」

 その後1998年4月に広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻に助手として着任した。化学から地学への転向であり、大きな転機となった。以 降、本格的にXAFS法を用いたスペシエーションを中心に据えた地球化学・環境化学の研究を開始した。研究室は、清水洋教授が主宰する新しいラボで、そこ で沢山の学生(博士号取得者7名、修士修了者約50名、卒業研究のみ約15名)と一緒に研究をしてきた(2014年5月まで;図3)。

当初はどのようにしたら学生さんと一緒によい研究ができるかに悩み、とても苦しんだが、徐々に学生さんに「任せて、待つ」ことが大事であることに気づき、それ以降多くの成果が発信できるようになった。 沢山の優秀な学生さんと研究ができたことに心から感謝している。研究内容は当初は、希土類元素地球化学の大家である清水先生のご指導も頂きながら、希土類元素を中心に研究していた。特に地球の過去の酸化還元状態の指標として重要とみなされてきたセリウム異常(Ce異常)について、Ce(III)のCe(IV)への酸化がその異常の原因とされてきたが、これまで直接的に価数比をXAFS法などで調べた例がなかったので、Ce(IV)/Ce(III)比を調べ、Ce異常の程度と比較することで、マンガン団塊の成因や花崗岩の風化過程などを調べた。

*研究1: 岩石中のセリウムの酸化還元状態がもたらす地球化学的知見(「放射光」誌総説)

 このセリウムの研究は、地球化学で起きる化学反応の素過程を化学状態解明から調べた研究として自分でも楽しく進めることができた。その後、マンガン団塊の研究は多くの元素を対象にした研究に発展し、マンガン団塊・クラストへの微量元素の濃集機構の解明の研究(近日中に臼井朗博士らと共著の教科書「海底マンガン鉱床」(東大出版会)が出版の予定)、海洋環境でのモリブデンの同位体分別の研究(当研究室で学位を取得した柏原輝彦博士との共同研究)、セリウム安定同位体により古酸化還元状態の推定に関する研究(同・中田亮一博士との共同研究)などに発展した。これらの研究は、微量元素の化学反応性を物理化学的に調べることが、新たな地球化学的ツールの開発につながることを示しており、こうしたボトムアップ的な分子地球化学的研究が今後重要になることを示している(図4)。

これらの研究(図5)にさらに興味がある方は、以下を参照して頂きたい。 

*研究2: 地球の化学環境の変化による元素の水溶解性の変化と生命の進化

*研究3: 重元素安定同位体比の変動要因解明による地球の古酸化還元状態の精密な推定

 地球化学の重要な研究対象に、同位体というものがある。地球化学は、様々な試料が持つ濃度情報と同位体比の情報を大きな柱として発展してきた。ここで述べた研究2や研究3は、それぞれ濃度や同位体比を主題にしているが、それらの変化は化学素過程の積み重ねの最終結果として現れるものであり、濃度や同位体比の支配因子の理解には分子地球化学的考察が重要であることを示している(図6)。

 さて地球上で起きる同位体比の変化の要因には、主に放射壊変に伴って生成する子孫核種の元素の同位体比の変動と、研究2で問題にしたような質量の違いに起因する同位体分別による変動の2種類がある。特に前者は、地球科学試料の年代測定と密接に関連しており、地球化学的に極めて重要な分野である。この年代測定を行う上で、試料中の親核種と子孫核種が化学的に安定であることは極めて重要である。このうち親核種は、多くの場合試料生成時から含まれていたものなので、化学的に安定である。しかし子孫核種は、化学的安定性とは無関係に放射壊変により生成したものであり、その試料中の位置で化学的に安定になっているとは限らない。しかし、子孫核種が化学的に不安定なために、何らかの現象(例えば拡散や水による溶出など)で試料から除かれその濃度が減少してしまうと、得られる年代値は実際よりも若くなってしまう。このようなことから、放射壊変で生成した子孫核種の化学的安定性は、年代測定の基礎となる重要事項である。このような観点から、187Re-187Os年代測定系での子孫核種(187Os)のモリブデナイト中での安定性についてXAFS法から検討したのが以下の研究例である。

*研究4: 放射壊変起源の娘核種の結晶中での化学状態(「放射光」誌総説論文の3章参照)

「スペシエーションに基づく水圏環境化学の研究」

 前項で述べたようなより純粋な地球化学的研究にも増して、環境化学において化学的素過程解析は非常に重要である。例えば、対象とする元素が有害元素や放射性核種であった場合、その元素の挙動そのものが関心の中心となるからである。

 私は学生時代からアクチノイド元素というような、その挙動そのものに関心がもたれる元素について、環境化学的視点から研究を進めてきた。1999年頃から始めたXAFSによる化学種解明は、こうした分野で非常に有効であり、多くの指導学生と一緒に様々な元素の環境挙動に関する研究を推進した。このような視点からこれまで扱った元素には、アクチノイド元素以外に、ヒ素、アンチモン、セレン、テルル、タリウム、ヨウ素、スズ、鉛などがある。このうち、次の研究5では、ヒ素とアンチモンの研究を紹介している。

*研究5: XAFS法を用いたヒ素及びアンチモンの水-土壌系での分配挙動に関する研究

 ヒ素は、バングラデシュの地下水の汚染など、世界各地の地下水で高濃度に見出されている。その原因は必ずしも人為的なものばかりでなく、地球化学的反応の理解が重要である。またアンチモンは、ハイテク産業の製品に多く含まれ、先進国型の汚染元素といわれている。そのため、これらの元素の化学種を調べて、その挙動を正しく予測することが重要になる。こうした背景に加えて、ヒ素とアンチモンという同族の元素の挙動を比較することで、2つの元素の地球化学にも新たな情報が得られる。同様の動機で、セレンとテルルの研究も進めており、多くの成果が得られつつある。

 また同様のアプローチで、原発事故で放出されたセシウムやヨウ素の挙動についても研究を進めている。このような研究から、分子地球化学的アプローチは、環境汚染・汚染元素の挙動解明などの分野で極めて重要であることが分かるであろう。

*研究6: 放射性セシウムの水-土壌-河川系での挙動解明(地球化学研究協会霞が関講座資料)

「スペシエーションに基づくエアロゾル中の元素の環境影響評価」

 水圏での環境化学研究を進めている間に、外部からのプロジェクト参加への依頼があり、黄砂などのエアロゾルを調べることになった。最初はとまどい、しばらくは割り当てられた仕事をこなすことに終始していたが、ある時エアロゾル表面で起きている化学反応は多くの場合水を介したものであるため、これまで扱ってきた水圏地球化学と同様の化学的知識が生かされる分野であることに気付いた。それで、エアロゾルを対象にしたXAFS実験を開始し、その中の様々な元素の化学種を調べることを始めた。これらの研究では特に、イオウ、カルシウム、鉄、亜鉛、鉛などを対象としているが、それぞれに別の環境化学的意義があり、非常に面白い。例えば、以下の研究7では、黄砂粒子による酸性大気物質の中和を扱っていて、その現象自体は知られたものであるが、放射光を用いたXAFS分析を行うことで、その化学的素過程がより明快に理解されることが分かる。

*研究7: 黄砂粒子による酸性雨の中和過程(高エネルギー加速器研究機構(KEK)の関連記事[1]

 またエアロゾルは、地球を寒冷化することで脚光を浴びており、その中でもエアロゾルが水を吸って雲を作る効果(間接的冷却効果)が注目されている(図8)。例えば、PM2.5などにも豊富に含まれる硫酸エアロゾルは、水を吸って雲を形成し、地球を冷やすとされている。ここで想定されているのは、主に硫酸アンモニウムという物質である。しかし、もし硫酸が硫酸カルシウムなど不溶性の化学種で存在したならば、水を吸わないので、間接的冷却効果は著しく低下するはずである。エアロゾル中の化学成分がどのような化学種であるかを調べることが、エアロゾルの持つ間接的冷却効果の評価に影響するというわけだ。もう少し大雑把にいえば、エアロゾル中の化学種の解明は、正確な地球温暖化の予測に必要ということになる。

研究8: 気中の有機錯体の生成と地球寒冷化効果への影響 (KEK関連記事総説論文[1][2]

「基礎研究が新たな工学的研究を生み出す」

 こうした元素の地球表層での挙動解明の分野では、その化学的素過程に微生物が関与する場合が多い(例:酸化還元反応、吸着反応など)。そこで我々は、希土類元素の水圏での挙動に及ぼす微生物への吸着反応に関する研究も進めてきた。希土類元素は微生物細胞表面に濃集することが分かり、またその中でも重希土類元素が特異的に濃縮することから、希土類元素パターンがバイオマーカーとして使える可能性を指摘した。そんな折の2010年にレアアース(希土類元素)の資源問題が国内で深刻になり、我々の研究室では、これまでの研究をベースに微生物を用いたレアアースの分離・回収の研究を進め、この濃集が細胞表面のリン酸基によることをXAFS法で明らかにした。そしてこの研究成果がきっかけになり、同様にリン酸基を持つDNAを用いて、レアアースの分離・回収を行う研究に対象が広がった。実際の回収に用いる媒体として、微生物は培養が必要などの難点がある一方、DNAは産業廃棄物である白子などに多量に含まれ、DNAそのものは無害なので、レアアースの分離・回収にDNAは理想的な資材であることを示した。このような工学的な研究も、もともとは希土類元素の挙動解明や微生物表面での反応サイトを原子レベルで解明した結果が発展したものであり、基礎研究が新たな応用研究の途を開くことを改めて示したといえる(図9)。

研究9: 微生物やDNA・白子を用いたレアアースの回収(SPring-8やKEKの関連記事[1][2]

「ビバ XAFS !」

 以上示してきたように、分子レベルの現象に立脚した地球化学・環境化学は、様々な分野と接点を持つ大変面白い研究分野である。またそれが可能になったのは、XAFSなどの研究手法の発展によるところが大きい。そのため我々は、XAFS法の手法的な発展にも強い関心をもちながら研究を進めている。例えば、検出器の感度向上、試料槽の改良、マイクロビームの利用、などを基にして、XAFS法はさらに広範な分野への応用が進んでいる。特に我々のグループでは、妨害元素の信号の除去による天然試料中の微量元素の高感度なXAFS測定や、炭素の官能基マッピングなどの化学種別マッピングを50 nmオーダーの空間分解能で可能にするScanning Transmission X-ray Microscopy (STXM)などの利用も進めており、国内のXAFS法を用いた地球化学・環境化学の研究を先導している。

「おわりに」

 以上のように、私たちの研究室では、地球惑星で起きるあらゆる化学素過程に関心を持って研究を進めています。研究の中心は、ずばり「化学」です。地球や宇宙や環境を構成する元素の濃度や同位体などに伝統的な地球化学的ツールに加えて、結合状態・局所構造・価数などの原子・分子レベルの情報を突き詰めることで、環境や資源や地球史や、様々な問題を新しい切り口から研究することが可能になります。こうした分野は、「分子地球化学(Molecular Geochemistry)」と呼ばれ、放射光実験などの新しい技術の進歩により、今まさに私たちは、地球化学を原子分子の相互作用という最も本質的な立場から扱える時代を迎えたといえます。また、私たちの研究室は、2014年6月から東大地惑(地球惑星環境学科)で始まった新しい研究室です(図10)。

研究テーマとして多くの可能性がありますが、例えば以下のようなものが考えられます。せっかく研究をするのであれば、「面白い」か「役に立つ」かのいずれかの要素を満たすべきと思っていますが、どうせなら面白くて役に立つ研究を目指したいなあと思っています(参考HP)。この分子地球化学は、そんな研究が可能な分野です。

*他に最近の研究や教育活動について、以下のYouTubeサイトや文献などを参照

分子地球化学の紹介(SPring-8の広報記事;総説論文[1]も参照):

http://www.youtube.com/watch?v=MpzH18jDnYg

http://www.youtube.com/watch?v=qZlrl7vXcuQ&feature=youtu.be

学生さんへ贈る言葉(広島大学のHP)

http://www.hiroshima-u.ac.jp/wakateyousei/interview/p_ty86we.html


<高橋(嘉)研究室で扱うことのできる研究テーマ>

1. 環境化学: 有害元素の挙動解析やエアロゾルの化学と環境影響

 「地球の年齢」=「46億年」は、地球化学の最大の成果の1つです。そして46億年を1年に例えた場合、人間が化石燃料の燃焼で二酸化炭素を大量に排出し始めたのは、12月31日の23時59分59秒になります。一体、新年の0時0分01秒に、地球環境や資源の問題はどのようになっているのでしょうか。こうしたことを念頭におきながら、地球における人間活動の影響を分子地球化学的に研究したいと思います。具体的なテーマとして、以下のことが考えられます。

・ 福島周辺での放射性セシウムや放射性ヨウ素の挙動解析: 日本が抱える最大の環境問題に取り組む。例えば、放射性セシウムの挙動に影響を与える層状ケイ酸塩への吸着やそれに与える有機物の影響などをフィールド調査、室内実験、量子化学計算などから明らかにする。28年前にチェルノブイリで起きたことと比較し、福島で起きたことの特徴を明確にするアプローチもとりたい。

・ 大気エアロゾル中の可溶性鉄の海への供給 -どの季節に溶け易い鉄が多いのか- : 鉄は植物プランクトンの生育を制限する因子であるため、海洋への可溶性鉄の供給は、海洋によるCO2吸収やそれを通じた気候変動とも関連した研究テーマである。現在では、人為的な活動により大気エアロゾル中の鉄の可溶性が増加していることが示唆されており、1年を通じて採取されたエアロゾル試料を分析し、鉄の化学種と可溶性鉄の量の季節変化を求めると共に、人為的影響を評価する。

・ 大気酸性化の歴史の解明: 現在の大気は、人為的に排出されるSOXやNOXのために酸性化している。一方、大気エアロゾル中の炭酸カルシウムの表面分析を行うことで、大気中の酸性度を推定することが可能である。そこで、北極アイスコアなどに保存された過去のエアロゾル試料中の炭酸カルシウムの分析を通じて、過去500年程度の大気の酸性度を調べ、産業革命などの人為的な影響が実際にはどの程度であるかを調べる。

2. 資源化学: 元素の地球表層での元素の循環と生体必須元素

 現代社会は、多くの資源によって支えられています。そのうち金属資源は、地球で起きる物質循環の過程で元素の性質の違いにより特定の元素が濃集した特異的な場所(狭義には鉱床ともいう)で採取されます。これらの成因の解明は、新たな資源を探査する上での基盤となるばかりでなく、地球の物質循環の解明やそれに基づく古環境の解析にも貢献します。具体的なテーマとして、以下のことが考えられます。

・ 海底資源(マンガン団塊)への元素濃集機構: マンガン団塊・クラストは、様々な有用元素を濃集しているが、なぜ特定の元素が濃集するかを元素の性質に立ち返って説明した研究は少ない。ここでは、その全元素の濃集度を系統的に説明することを目指す。こうした知見は、元素の海水中での循環とも関連するし、マンガン団塊・クラストを表面から深部に向かって解析すれば古環境研究にもなる。

・ レアアースの資源化学: レアアース泥中のレアアースは、リン酸塩として固定されている場合が多く、そのリン酸塩が生成する機構をコア試料などを用いて解明する。関連して、バクテリアやDNAを用いたレアアースの回収・分離法の開発も行う。

・ 酸化物と硫化物への微量元素の分配の比較: 元素によって酸化物と硫化物のいずれを好むかを系統的に理解する。このことは、地球が還元的環境から酸化的環境に変化した際に、どのような元素が海洋に溶け易かったかの変遷史とも関連する。こうした変遷史の解明は、生体にとって必須な元素が変わってきた歴史とも関係し、地球史における化学環境の変化と生命進化の新たな関係を探ることに繋がる。

3. 地球史解明ための地球化学プローブの開発と応用: 特に酸化還元状態(redox)

 地球上での元素の行動を精密に理解することは、その行動の元素間の差違や特異的な同位体分別を用いて過去の地球環境を復元するツールの開発につながる。我々が解明してきたAsやSeの価数別固液分配挙動の違い、Mo/W濃度比・同位体分別、Ce安定同位体分別などは、いずれも過去の地球のredoxなどを反映する可能性があり、これらの手法開発を基に、過去の地球のredox(酸素分圧といってもよい))の解明に貢献する。具体的なテーマとして、以下のことが考えられる。

・ 炭酸塩中の微量元素を用いたredox指標の開発と応用: 炭酸塩中のMo/W比、ヨウ素濃度、ウラン安定同位体比などが過去のredoxの指標として利用できるかを調べる。応用として、全球凍結期(PC/C境界)の炭酸塩や新生代の堆積物コア試料などを用いる。

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