学生の声 坂田 遼弥(宇宙惑星科学講座・修士2年)

坂田 遼弥(宇宙惑星科学講座・修士2年)

宇宙惑星科学講座の関研究室に所属する修士2年の坂田遼弥です。ここでは、大学院入試に関する話や今行っている研究の内容、普段の院生生活などについてお話ししたいと思います。

大学院入試について

 専門科目(数学や物理など)は、まず専攻のホームページにある過去問を何年分か解いてみて、忘れていた部分を重点的に勉強するのが良いと思います。英語の試験はTOEFL-ITPですので、まずは市販の参考書で問題の形式や傾向を予習しておくとスムーズな対策ができると思います。
 小論文では大学院で研究したい分野について書きます。試験会場で一から考えるよりも、事前に原稿を作っておいて試験直前に暗記して書き下すのが楽です。僕の場合は、子供の頃から宇宙や星といったものが好きで、漠然とそういう分野の研究をやりたいと考えていました。大学に進学してからはより身近な地球や惑星へ興味の対象が移り、地球や惑星の進化や惑星のハビタビリティ(生命居住可能性)について研究したいと考えています。また、学部で受けたプログラミングの授業でシミュレーションに興味を持ったので、シミュレーションを用いた研究をしたいと考えています。……というようなことをきちんとした文章にして書きました。今振り返れば、漠然とした興味の対象を書いてばかりで具体的な研究内容については全然触れられていなかったなと思います。学部4年の時点で詳細な研究内容を決められる人はそういないと思いますが、少なくとも研究の対象(僕の場合は地球や惑星の進化)や手法(シミュレーション)についてはある程度決めておいた方がいいと思います。
 口述試験では、小論文に書かれた内容をもとにより具体的な内容を質問されました。10人以上の先生に対して面と向かって話すためにかなり緊張しましたが、ここで見栄を張っても仕方がないので自分の考えを素直に言いました。口述試験の際の服装ですが、多くの受験生はスーツで来ていました(僕もスーツを着ていきました)のでスーツが無難だとは思いますが、私服の人もちらほらいたうえ専攻からの指定も特にないのであまり気にする必要はないと思います。
 合格が決まるとアドバイザーの先生からおすすめの研究室を5つほど紹介され、それぞれの研究室に訪問して研究の内容や研究室の雰囲気について聞きました。同じ頃、学部の特別研究(いわゆる卒業研究)が始まり、関先生のもとで火星の大気散逸に関する研究を始めました。結局大学院では関先生の研究室に入り、今も同じテーマで研究を続けています。

研究紹介

 次に、今行っている研究について紹介します。
 今の火星は赤茶けた大地が広がり、地表面の平均気温も–50℃以下とかなり低い「寒く乾いた」惑星です。しかし、火星の表面にはデルタ地形や礫岩層といった流水活動の痕跡が数多く残っており、昔の火星が「暖かく湿った」惑星であることを示唆しています(図1)。火星は地球よりも太陽から遠い位置を公転しているため、液体の水を地表に持てるほどの温暖な気候を維持するためには少なくとも1気圧ほどの大気が必要です。しかし現在の火星には約0.007気圧という薄い大気しかありませんから、かなりの量の大気が失われてきたと考えられます。この大規模な大気の喪失が気候変動を引き起こした原因の一つとされています。
 気候変動をもたらした大気の喪失に大きな役割を担ったのと考えられるのが、宇宙空間へのイオンの散逸です。過去の太陽は今よりも30%ほど暗かった一方で、X線や紫外線といった短波放射ではむしろ今より強い放射を発していました。短波放射は中性大気の電離に大きく作用するため強い放射によって上層大気ではイオンの生成が促進されます。また太陽から惑星へ向かって吹くプラズマの流れである太陽風も現在より激しかったため、過去の火星からは中性大気が電離したイオンが大量に流出した可能性があります。
 一方で、イオン散逸を考える上で見逃してはいけない要素があります。それは惑星の持つ固有磁場です。イオンは中性粒子とは違って電磁場によるローレンツ力を受けます。そのため、惑星の固有磁場の有無が惑星からのイオン散逸に大きく影響します。現在の火星は地球の地磁気のような全球的な固有磁場を持っていませんが、火星表面の古い地殻に残る岩石磁気の分析から、過去の火星は全球的な固有磁場を持っていたことや、固有磁場の喪失と気候変動が近い時期に起きていたことが推定されています、よって、過去の火星における気候変動を理解するためには固有磁場の有無とイオン散逸の関係性を知る必要があります。
 固有磁場の有無がイオン散逸にどのような影響を与えるのかについては、未だに決着がついていません。一つの考え方は、惑星の固有磁場によって惑星周辺に磁気圏と呼ばれる空間が形成され、その磁気圏が太陽風と地球の上層大気との直接的な相互作用を防ぐためにイオン散逸を抑制してくれるというものです。もう一つは、惑星周辺に磁気圏が広がることでかえって太陽風から受け取るエネルギーが増大し、その増えたエネルギーによってさらに多くのイオンが加速されて散逸してしまう、という考え方です。そこで僕は、様々な強度の固有磁場を持つ仮想的な火星を激しい太陽風や太陽放射のもとに置いて磁気流体力学(MHD)シミュレーションを行い、固有磁場とイオン散逸の関係性を明らかにしようとしています。MHDシミュレーションでは本来粒子であるイオンを流体と近似して扱うので、巨視的なイオンの振る舞いしか捉えることができませんが、これまでの研究から惑星磁気圏の挙動をよく表せることが知られています。
 これまでの研究によって、太陽風の動圧に打ち勝って磁気圏を形成できるだけの強さを持たないような弱い固有磁場を持っている場合には特に電離圏由来のイオンの散逸が促進されることが分かりました。一方で、磁気圏を形成できるだけの強い固有磁場を持っている場合にはイオン散逸が抑制されることも分かりました。現在は、電離圏からのイオン散逸に働いているメカニズムの解明を行っているほか、太陽風や太陽放射の条件を変えてイオン散逸の抑制・促進を左右するパラメータの特定を行っています。

図1 現在の火星(左)と過去の火星(右)の表層環境の違いを表す想像図
(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center)

院生生活について

 研究紹介のところでも述べましたが、僕はシミュレーション計算を用いた研究を行っています。そのため、普段の研究生活はほとんどがパソコンの画面との睨めっこです。計算の出力を見て計算がうまくいっているかを確認したり、結果の解析のために図やグラフを作ったり、セミナーでの発表に向けてスライドを作ったり……。ずっと椅子に座りっぱなしなので運動不足が心配です。研究室にコアタイムのような制度はないため、好きな時間に来て、好きな時間だけ研究して、好きな時間に帰れます。なので朝早くに来る必要はないのですが、あまりにも一般社会と活動時間がずれてしまうのはなんとなく体裁が悪いので、なるべく通勤ラッシュとかぶらないように10〜11時に来て7〜8時に帰る生活になっています。
 僕の所属する関研究室は、同じ宇宙プラズマの研究をしている星野研究室・天野研究室と合同でセミナーを行っています。そのため、関研究室の学生やポスドクだけでなく、星野研究室や天野研究室の学生・ポスドクとも接する機会が多く仲良くなれます。同期の学生たちと飲み会を開いたり、学生やポスドク、助教の方も合わせて屋外でのバーベキューパーティをしたりしています。
 また、年に数回ほど学会で発表を行います。つい先日には、アメリカのサンフランシスコで開かれたAmerican Geophysical Union (AGU)の秋学会に参加してきました。この学会は世界中の地球惑星分野の研究者が一堂に会する学会で、そのような場で発表を(もちろん英語で)するのはとても緊張しましたが、自分と同じ様な研究をしている海外の研究者の方々と議論をすることができ、とても貴重な経験になりました。

 大学院入試から今までの2年間の経験に基づいて、このような文章を書いてみました。あくまでも僕個人の経験でしかありませんが、大学院生がしている生活や研究の雰囲気を知る参考になれたら嬉しいです。