二酸化ケイ素が地球表層の窒素を地球超深部へ運ぶ

プレスリリース
鍵 裕之教授、福山鴻さん(博士課程3年)、柿澤 翔助教(広島大学/研究当時:地殻化学実験施設 特任研究員)

発表のポイント

  • 高温高圧実験と二次イオン質量分析法(注1)による局所分析によって、地球深部の鉱物中にとりこまれる窒素の溶解度を決定した。
  • 堆積物や大陸地殻が沈み込んで地球深部で形成されるスティショバイト(注2)に高濃度で窒素が取り込まれることがわかった。
  • 地球表層から沈み込んだ窒素はスティショバイトとともに下部マントル(注3)まで運ばれ、蓄積していく。地球大気は地球深部鉱物と共に進化してきた。

概要

窒素は大気の主要成分であり、生命活動にも欠かすことができない重要な元素である。しかし、地球全体で考えると窒素の濃度は他の揮発性物質と比べて著しく低く、その原因は謎に包まれている。現在のところ、地球の進化過程で揮発して地球外に窒素が飛散した可能性や、地球深部に窒素が貯蔵されている可能性が指摘されている。

東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設の鍵裕之教授、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程3年の福山鴻大学院生らの研究グループは、地球深部(深さ約750-800 km)の温度、圧力、酸素分圧を再現した高温高圧実験によって地球深部の鉱物を合成し、二次イオン質量分析法(NanoSIMS)による局所分析によって窒素の溶解度を測定した。その結果、スティショバイトに400 ppmもの高濃度で窒素が溶け込むことがわかった。

スティショバイトは地球表層の堆積物や大陸地殻が沈み込む過程で生成し、下部マントルまで分解せずに到達することから、スティショバイトが地球表層の窒素を下部マントルまで運びうることが示された。現在の大気中の窒素濃度は78%であるが、本研究の結果は過去の大気の窒素濃度が現在よりも高かったことを支持し、暗い太陽のパラドックス(注4)を解決に導くかもしれない。

二酸化ケイ素が地球表層の窒素を地球超深部へ運ぶ
図1:スティショバイトの窒素溶解度の温度依存性

用語解説

注1 二次イオン質量分析法
固体の表面に微細なイオンビームを照射し、発生する表面からの二次イオンを質量分析で検出することで固体中の微量元素を高い空間分解能で測定する手法。本研究では大気海洋研究所に設置されたNanoSIMSを使用して測定を行った。

注2 スティショバイト
石英(SiO2)の高圧相で、おおむね10 GPa以上の圧力で熱力学的に安定となり、地球内部ではマントル遷移層、下部マントルに存在すると考えられる。

注3 下部マントル
固体地球は表層から、地殻、上部マントル、マントル遷移層、下部マントル、D’’層、外核、内核という層状構造をとる。この中で、下部マントルは地球の全体積の6割以上を占め、下部マントルの8割以上をブリッジマナイトという鉱物が占める。

注4 暗い太陽のパラドックス
地球形成初期には太陽の光度は現在の7割程度しかなく、地球上に液体の海が維持できない環境だったが、実際地球は凍結しておらず矛盾となっている。

詳細については、以下をご参照ください。

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