全球エアロゾル濃度を制御する「雨雲の過飽和度」の観測に成功

共同プレスリリース
茂木 信宏(地球惑星科学専攻 助教)

発表のポイント

  • 大気中の塵(エアロゾル)の除去率を制御する「雨雲の過飽和度」を初めて観測し、さらに全球大気モデルの計算から、気候研究におけるこの物理量の観測の重要性を示した。
  • 降水に含まれる黒色炭素粒子の測定から「雨雲の過飽和度」を推定する手法を開発し、それを用いて、東アジア域の37回の降水イベントについて観測データを取得した。
  • 今後、正確なモデル計算が原理的に困難な「雨雲の過飽和度」の値に観測データを用いることにより、大気モデルによるエアロゾル空間分布の予測性能の向上が期待される。

概要

大気中に漂う塵(エアロゾル)は、直接・間接的に放射収支を変えて地球の気候に影響を及ぼしています。「雨雲の過飽和度」(注1)は、湿潤対流(注2)による大気からのエアロゾルの除去率を直接的に制御するため、全球的なエアロゾル濃度に大きく影響するパラメータです。しかし、その正確な値を予測することは原理的に困難であり、またこれまでその観測手法もありませんでした。そのため、雨雲の過飽和度は、エアロゾルの気候影響評価に使われる大気モデル(注3)の中の本質的な不確実因子でした。今回、東京大学の茂木信宏助教、東京理科大学の森樹大助教、名古屋大学の松井仁志助教、名古屋大学の大畑祥助教は、雨で除去されたエアロゾルが雲の中で経験した過飽和度を推定できる手法を開発し、その手法をもちいて東アジア域の多数の降水イベントで過飽和度の観測データを取得しました。また、大気中・雲中のエアロゾルの状態と変容過程を正確にシミュレーションできる独自の大気モデルによる感度実験(注4)から、観測値の平均±標準偏差(0.08±0.03%)の範囲内の過飽和度の変化に伴い、全球的な黒色炭素(注5)エアロゾル濃度が2倍も変わりうることを示しました。今後、大気モデル内の降水雲の過飽和度値にこの手法で得られる観測データを用いることで、全球的なエアロゾル濃度の予測性能の向上につながると考えられ、気候予測の精密化にも貢献することが期待されます。

全球エアロゾル濃度を制御する「雨雲の過飽和度」の観測に成功
図1:雨雲の過飽和度の観測手法の模式図。黒色炭素を粒子トレーサーとして採用し、地上で観測される空気中と降水中のトレーサー粒子の詳細な対比により、除去されたトレーサー粒子が水蒸気の凝結領域(Localized Supersaturated Domain: LSD)で雲粒化したときの過飽和度SSlsdを推定することができる。現実の降水システムは連続的に空間変化する凝結領域を含んでいるが、ここでは説明のために簡略化し、n個の離散的な凝結領域として図示している。本研究の観測手法では、並進移動する降水システムにおいて、数分から数十分間にわたり降水中のトレーサー測定を実施することで、典型的には水平スケールが数km~数十kmの範囲内にある多数の凝結領域にわたり、除去されたトレーサー粒子の検出個数で重み付けされた過飽和度SSlsdの平均値を推定できる。

用語解説

注1 過飽和度
空気中の水蒸気圧がその温度における平衡水蒸気圧を超える割合のこと。地球大気中の過飽和度は最大でも1%程度にしかならない。

注2 湿潤対流
水蒸気の凝結を伴う鉛直方向の対流。

注3 大気モデル
大気の運動、水蒸気の相変化、放射伝達過程、微量気体やエアロゾルの生成・輸送・消失過程などを熱力学・流体力学・化学などの法則に基づいてシミュレーションする数値モデル。

注4 感度実験
数値モデルの中のある特定のパラメータの値を意図的に変えて計算を行うことで、そのパラメータが結果に及ぼす影響を調べるための手法。

注5 黒色炭素
化石燃料やバイオマス燃焼に伴い発生する煙に含まれる真っ黒な「すす」のこと。本研究では、単一粒子レーザー誘起白熱法という分析法を用い、空気中および降水中の黒色炭素粒子の測定を実施した。

詳細については、以下をご参照ください。

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