東京大学大学院
理学系研究科
地球惑星科学専攻

ウェブマガジン第11号後編

地球に落下した小惑星

 

~小惑星2008TC3とAlmahata Sitta隕石~

 

 

三河内 岳 (東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 准教授)

 

[1][2]

 

5.Almahata Sitta隕石の特徴

  

 回収されたAlmahata Sitta隕石は大きくてもせいぜいゴルフボール大だったが、これらの隕石の種類が、拾われた破片ごとで少しずつ異なっていたのである。中には、これまでの隕石の種類では見つかっていないようなものも含まれていた。通常、隕石が落下すると、別々の破片で拾われたとしても、元々は同じ天体の均質な一部を起源としていると考えられるので、どの破片も同じ種類の隕石のはずである。まれには、異なった種類のものが混ざっているという場合もあるが、Almahata Sitta隕石の場合は、回収された1個1個の破片がほとんどすべて異なっており、これまでに例の無いものであった。そもそも、小惑星が地球に落下して隕石として回収されたのが初めての例だったのだが、回収された隕石も特異なものであったのである。

 

 Almahata Sitta隕石の破片で、もっとも多く見つかった隕石の種類はユレイライトと呼ばれるグループのものであった(図5)。ダイアモンドを含んでいるのが特徴のひとつである。ユレイライトはまだまだ謎の多い隕石グループであるが、太陽系初期に存在した原始惑星を起源とすると考えられている。ただし、例えば酸素同位体組成が不均質であったりすることなど、原始惑星に進化する前の微惑星の段階で見られるような特徴も多く残している。つまり、ユレイライトは始原的な物質から分化した物質ができる中途段階のような性質を持っており、惑星物質が進化していく過程での重要なプロセスの情報を秘めていると考えられるのである。Almahata Sitta隕石で回収された破片では、これまで見つかっていたユレイライトの多様性をすべて網羅するようなさまざまな種類のものであった。

 

図2

図5:Almahata Sitta隕石の2つの異なる破片の顕微鏡写真。上は実体顕微鏡。下は偏光顕微鏡(オープンニコル)。

 

 

6.瓦礫状の再集積天体

 

 ユレイライトの元々の天体は直径が200キロメートル以上あったと見積もられているが、炭素が豊富に存在していたために、ケイ酸塩中に含まれる酸化鉄が還元されて、ちょうど製鉄工場で鉄鉱石から鉄を作るような化学反応が起きていたことがわかっている。この起源天体は、1100度以上の高温だった時に、おそらく巨大天体の衝突により爆発的に破壊され、その破片が再度集まって「娘天体」を作ったことが指摘されている。これは多種類のユレイライトやその他の隕石種が混じって形成された「ポリミクト・ユレイライト」と言う種類の隕石グループを研究して分かってきたことである。再集積した天体の表層には、1~2メートルくらいの破片になった異なった種類の岩石が集まっていたとされており、現在、地球に落下してくるユレイライトは、この娘天体を起源とすると考えられている。

 

 Almahata Sitta隕石が不思議なのは、1つ1つの破片が異なった種類のものである点である。おそらく2008TC3はゴルフボール大の大きさの破片が瓦礫状に集まることで非常にゆるく結合した天体であり、そのため大気圏突入時に破片が1個1個ばらばらになることで大気との摩擦で燃え尽きてしまうことなく、地表まで多くの破片が到達したのではないかと考えられるのである。では、2008TC3とユレイライトの娘天体とはどういう関係にあるのだろうか? 現在、考えられているのは、娘天体の表面物質がさらに天体衝突による破壊を受けて、再々集積した瓦礫状の「孫天体」のようなものが2008TC3に相当するのではないかという考えである。

 

 我々のグループでAlmahata Sittaに含まれる金属鉄を詳細に分析したところ、地球の製鉄プロセスにおいて1秒間に数百度冷却するような超急冷過程でないと形成されない「マルテンサイト」と言う組織が発見された。このような急激な冷却過程は、娘天体の状態からさらに天体の破壊が起こり、1~2メートルサイズの破片がゴルフボールサイズに細粒化すると実現可能と考えられる。このことはまさに、2008TC3がセンチメートルサイズの破片が集まった天体であったという推測と調和的なのである。

 

 

7.小惑星がたどる歴史

  

 Almahata Sitta隕石を通じて分かってきた2008TC3の姿は、ユレイライトを主とする瓦礫状の細粒破片が集積した天体と言うことである。実は、瓦礫状である可能性が指摘されている小天体と言うのはこれまでにも多く見つかっている。最近では、小惑星イトカワがその代表例である。イトカワの密度ははやぶさ探査機による観測から約1.9 g/cm3しかないことがわかったが、これは持ち帰られた塵の密度3.4 g/cm3に比べるとはるかに小さいことから、瓦礫状の物質が集まった空隙だらけの天体であることが推測されている。また、もっと以前に、直径が約50キロメートルの小惑星マチルダは密度が約1.3 g/cm3しかないことが知られており、やはり瓦礫状の物質が集積してできた天体と考えられていたのである。このように微惑星や原始惑星が破壊され、その破片が再集積する際には瓦礫状の天体が形成されるのが普遍的であり、小惑星にはこのような天体が多く存在していると推測される。小惑星2008TC3とAlmahata Sitta隕石は、まさにこのことを実際の物質的証拠から示したのである。