東京大学大学院
理学系研究科
地球惑星科学専攻

ウェブマガジン第11号前編

地球に落下した小惑星

 

~小惑星2008TC3とAlmahata Sitta隕石~

 

 

三河内 岳 (東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 准教授)

 

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1.小惑星の地球落下

 

 小惑星は主に火星と木星の間に数多く存在している小天体で、最大のものでも直径数百キロメートルしかない。近年では、JAXAの「はやぶさ」探査機による小惑星イトカワのサンプルリターン探査や後継機の「はやぶさ2」の打ち上げによって世間での認知度も少しは上がっているかもしれないが、そもそもはマイナーな小天体である。ただし、これらのマイナーな小天体も太陽系の立派なメンバーであり、太陽の周りを回っているという点においては地球と同じである。小惑星はそれぞれ独自の軌道を持って太陽の周りを回っているが、時には他の天体と衝突することもある。もちろん地球との衝突もありえる。例えば、今から約6500万年前の白亜紀末期には10キロメートルサイズの小惑星が現在のメキシコ・ユカタン半島付近に落下したことが分かっている。恐竜絶滅の引き金になったとも考えられている天体衝突である。同様の天体衝突が古生代の終わりにも起こり、生物の大量絶滅が起こった可能性が指摘されている。これら10キロメートルクラスの天体衝突はおよそ1億年に1度の割合で起こっていると見積もられている。当然、明日にもこのような天体が地球に衝突する可能性は決してゼロではないのである。このように地球に衝突する可能性のある天体を未然に発見するために近年では、世界各国で望遠鏡を使った地球接近天体の観測が盛んに行われている。これまでの観測では、キロメートルサイズの天体で近い将来に地球に衝突する可能性があるものは見つかっていないが、例えば、2011年には、直径が約400メートルの小惑星(2005YU55)が地球に接近し、月軌道の内側を通過したことがある(図1)。

  図1:小惑星2005YU55の地球最接近時の位置。図:NASA/JPL。

図1:小惑星2005YU55の地球最接近時の位置。図:NASA/JPL。

 

 では、これまでに地球に落下してくる小惑星が、このようなサーベイによって事前に見つかった例は無いのだろうか? 実は1度だけあるのである。

 

 

2.小惑星2008TC3の発見と地球衝突

 

 地球近傍天体の捜索を主目的としているアメリカ・アリゾナ州にあるカタリナ・スカイサーベイによって、2008年10月6日にひとつの小惑星が発見され、2008TC3と名前が付けられた。光度が約18等だったその天体は高速で星間を移動しており、軌道計算の結果、約20時間後に地球に落下することが判明したのである(図2)。

 

図2:小惑星2008TC3の地球衝突までの軌道。図:NASA/JPL。

図2:小惑星2008TC3の地球衝突までの軌道。図:NASA/JPL。

 

これは人類史上の一大事件である。地球に落下する小惑星が初めて事前観測で見つかったのである。しかしながら、SF映画さながらの展開がこの後に続くことはなかった。というのも、この天体の大きさは、その明るさからせいぜい数メートルの大きさしかないと見積もられたからである。これほど小さい天体だと、天体は地球の大気圏突入時に完全に消失してしまうと考えられるからである。ちなみに2013年2月にロシア・チェリャビンスクで小天体の落下が起こり、総量数百キロの隕石が地上で回収されたが、落下前の天体の大きさはおよそ20メートルと見積もられている。太陽の方向から接近して来たために、この時は大気圏突入前に天体が発見されることはなかった。小惑星2008TC3の場合は、地球に落下することが事前に判明した小惑星ということで、世界中で観測が実施され、反射スペクトルなどが取得された。 

 

 その後、詳しい軌道計算により、小惑星2008TC3は、アフリカの東海岸に落下することがわかった。当時のスーダン(現在の北スーダン)である。そして、落下の予想時刻の2008年10月7日午前7時前(現地時間)に、実際に気象衛星によってこの天体の大気圏突入時の発光の様子が捉えられている。また、スーダンの西側に接するチャドを飛行していた飛行機のパイロットにより、この落下に伴うと考えられる激しい閃光が目撃されている。

 

 

3.小惑星と隕石の関係

 

 ロシアに落下した小天体と回収された隕石の話を先に書いたが、そもそも小惑星と隕石は密接な関係にある。というよりも、地球で回収される隕石は、ほとんどすべてのものが小惑星のかけらと考えられているのである。これは、地球に落下してくる隕石の軌道をたどったところ、火星と木星の間に起源を持っていることがわかっていたことによる。また、隕石を調べてみると、ほとんどのものは今から約45億6千万年前にできた後に、大きな変化を受けていない。実は、隕石は太陽系ができてすぐの頃に存在した微惑星や原始惑星などと呼ばれる小天体を起源としており、これらの天体は私たちの住む地球やその他の惑星などの元になった材料物質と考えられているのである。言い換えれば、小惑星は太陽系の誕生時に大きな天体になることができず、すぐに活動を終了してしまったのである。しかも、現在まで変化を受けることなく、火星と木星の間に多数存在しているのである。これらの小惑星のかけらが、時々、地球の軌道に捉えられて、隕石として回収されるのである。これは我々にとって幸いである。これらの隕石を調べることで、私たちは太陽系が誕生して、どのように微惑星が形成され、また原始惑星ができていくような天体の進化が起こったかを探ることができるのである。

 

 ただ、隕石と小惑星の直接的な関係が証明されたのはJAXAのはやぶさによるイトカワからのサンプルリターン探査による。2006年にはやぶさ探査機は小惑星イトカワの表面に存在する物質が、地球に落下してくる隕石でもっとも種類の多いもの(「普通コンドライト」と呼ばれる)と一致していることを発見し、実際に2010年にサンプルリターンされたイトカワの塵を分析した結果も、隕石の種類で最も多い普通コンドライトと呼ばれるものと酷似していた(図3)。ただし、イトカワの塵は天体表面で宇宙線や太陽風にさらされていたことから、塵の中には「宇宙風化」と呼ばれる影響を受けていたものがあることが明らかになった。

 

図3:はやぶさ小惑星探査機によってサンプルリターンされた小惑星イトカワの塵の走査型電子顕微鏡写真。olivine:カンラン石。plag:斜長石。Ca phos:Caリン酸塩。

図3:はやぶさ小惑星探査機によってサンプルリターンされた小惑星イトカワの塵の走査型電子顕微鏡写真。

olivine:カンラン石。plag:斜長石。Ca phos:Caリン酸塩。

 

 

4.小惑星2008TC3 ~Almahata Sitta隕石~ の回収

 

 話は、2008年10月にスーダンに落下した小惑星2008TC3に戻るが、数メートル大のこの小天体は、地球に衝突するというものの、大気圏ですべて燃え尽きたと考えられた。ところが、ひょっとしたら地表まで到達した隕石があるのではないかと考える研究者がいた。NASA・SETI研究所のピーター・ジェニスケンス博士であった。彼は2008年12月に現地に赴き、ハルツーム大学の研究者に協力を求めて、職員や学生を動員して隕石の探査を実施したのである。幸いなことに、2008TC3が落下してきたと考えられるのはヌビア砂漠であり、隕石を探すことが容易な場所であった。一定の間隔で人間を配置して、ローラー作戦により砂漠を歩いて隕石を探したところ、なんと隕石が実際に見つかったのである。真っ黒の外観で、非常にフレッシュなようすの隕石が合計で数キロ見つかった(図4)。

 図4:スーダンのヌベア砂漠で見つかったAlmahata Sitta隕石(画面やや左下の黒い塊)。画像:NASA。

図4:スーダンのヌベア砂漠で見つかったAlmahata Sitta隕石(画面やや右下の黒い塊)。画像:NASA。

 

隕石は、見つかった場所の地名を付けることになっているが、何せ見つかった場所は砂漠の真っ只中であり、特に地名も付いていないようなところであった。たまたま近くに鉄道が走っており、英語で”Station 6”という駅が設置されているのが地名らしい地名ということで、現地の呼び方で”Almahata Sitta”というのがこの隕石の正式な名前となった。

 

 その後、Almahata Sitta隕石は、私を含めて世界中の研究者によって研究されることになったが、非常に変わった特徴を持った隕石であった。 

 

後編「Almahata Sitta隕石の特徴」につづく