東京大学大学院
理学系研究科
地球惑星科学専攻

ウェブマガジン第10号前編

地震を調べただけでは地震は分からない

 

-広い時間スケールから見る地震と断層の奥深い法則性-

 

 

安藤 亮輔 (東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 准教授)

 

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1.地震の時間

 

   地震という言葉を聞いたとき、即座に思い浮かぶイメージ、時間の感覚はどのくらいでしょうか? 多くの人が、数秒から数10秒間つづくガタガタ、グラグラ、ユサユサという地震のゆれの感覚を思い浮かべるのではないでしょうか。多くの尊い命が犠牲となった2011年の東北地方太平洋沖地震(東北沖地震)を経験した人は、数分間にもおよぶ、強烈なゆれを思い浮かべるかもしれません。私自身、震源から約300 km(破壊域の南端からは約50 km)離れたつくば市にある8階建てビルの7階の研究室でそのゆれを経験しました。しかし、最初のカタカタとしたゆれが、みるみるうちに激しくなり、驚いて傍らにおいていたヘルメットをかぶり、テレビのある近くの部屋まで廊下を走っていくと戸棚のものが散乱し始め、あれよという間に建物がグウァングウァンと激しくゆれる中でテレビが映らなくなってから、廊下に出たときに顔面蒼白の同僚の顔を見たところまで、何分経っていたかなど、ちょっと正確に思い出すのは難しいところです(これは悪い例で、幸運が重なり助かっています。地震のゆれを感じたら、まずは丈夫な机の下などの少しでも安全なところに隠れるべきでした)。もしかしたら、緊急地震速報を携帯電話で受けてから、実際のゆれが到達するまでカウントダウンした人もいるかもしれません。

 

  地球の表面に暮らす私たち人類にとって、地震とは、まずもって地面のゆれとして認識されます。従って、地震の時間的長さの感覚というのは、まずは、ゆれを感じる時間の感覚ということになるでしょう。しかし、これは地震という現象の実態から言えば、ごく一部の表現に過ぎない、ということになります。物理現象としては、岩石で構成される地中を毎秒数kmで伝播する地震の波がある距離を伝わるのに要する時間、というものを感じているに過ぎないのです。地震を理解するためには、もっと幅広い時間の流れの中でその法則性を考える必要があることが、認識されるようになってきました。

 

 

2.地球で地震が起こるようになった時

 

 地震とは、地球の比較的浅い領域で応力が加わった岩石がバリッと割れる破壊現象で、地下の弱面である断層が高速に滑る(せん断破壊する)ことで発生します。もし高速で滑れば、地震波を放射して地震動として地面をゆらすのです。では基本的な問題として、地球で地震が起こる条件とは、何でしょうか? 地球は、約46億年前に、多数の微惑星の衝突で形成されたと考えられていますが、初期の地球表層は、マグマオーシャンと呼ばれる、微惑星の衝突によって発生する熱でドロドロに溶けた状態だった考えられています。このように溶けた岩石は応力を加えられてもゆっくり流動するのみです。もう少し正確には、マグマの粘性係数 η は、温度差に依存しますが1011 Pas程度として、その剛性率 μ を1010 Pa程度とすると、緩和時間 Tc = η/μ = 10秒です。すなわち、10秒よりも速く応力を加えなければ流動して応力を逃がしてしまいます。よって、地震はほぼ起こりません。

 

 地震が起こるようになった、一つの条件は、そのような衝突が収まっていき、地球表層が冷え固まっていくことで、硬いリソスフェアが柔らかいアセノスフェアの外側(上部)に形成されたことです。その時期は、最新の地質学的な研究による岩石証拠では地球の誕生から約1億年後となるようです(飯塚毅氏のウェブマガジン参照)。しかし、冷えて固まっただけでは、地震は起こりません。もう一つの条件は、そのようなリソスフェアに定常的に力が加わるようになったことです。その原因がプレートテクトニクスです。地表面は冷たく地下深部は熱いという温度差のためマントル対流が生じます。それに駆動され、海嶺で形成された海洋プレートは移動するうちに徐々に冷やされ重くなり、海溝から比較的軽い大陸プレートの下に沈み込みます。地球表層がいくつかのプレートに分かれて、相対運動するようになることで、大地震を起こす力源が生じたのです。それが始まった年代は、さらに10数億年程度経ってからのようです。

 

 しかし、そこで忘れてはいけないのは、いったん形成されたプレート境界面が、その後も持続的に存在しなければ、プレートテクトニクスは持続しないことです。これには、岩石の破壊力学的な特性が重要です。岩石は、割れると強度が下がり弱くなるのでそこが割れやすい弱面となりますが、その割れ目は接触させたまま動かさずに放っておくと、徐々に固着して強くなるという性質があります。これをヒーリング効果とも呼びます。ヒーリングは、温度が高いほど促進されます。よって、プレート境界が弱面として持続するためには、現在の地球のように温かいが熱すぎないという環境が整い、岩石の破壊の効果がヒーリングの効果に勝ることが必要です。また、岩石は水を含むと弱くなりますので、沈み込む海洋プレート表層に取り込まれた海水も境界面の持続に効いているでしょう。このような条件は、生物にとっても生きやすい環境のようです。地球上では、このような条件がそろったため、プレート境界の断層面で地震がある程度高い頻度で発生するというシステムが出来上がったといえます。このように、岩石がいかに変形し割れるのかを研究するのが、地震科学の大きなテーマで、それは地球の46億年の歴史に迫る研究でもありそうです。

 

 

3.プレートの年齢の時間スケール、地下の温度構造

 

 沈み込むプレート境界で発生するのが、東北沖地震のような海溝型地震です。海洋プレートは年間数cmの早さで大陸プレートの下に沈み込むので、古い海洋プレートは地球表面に残されない運命です。その中でも、東北沖の日本海溝は約1.3億歳という比較的古い太平洋プレートが沈み込んでいる場所です。一方、西南日本に沈み込むフィリピン海プレートはずっと新しく約2千万歳程度です。南米のチリ沖では海嶺そのもの、出来たての海洋プレートが沈み込んでいるような場所もあります。プレートは古いほど冷たいので、海洋プレートの年齢の違いは、プレートの温度に地域差があることを意味します。

 

 岩石は、低温ではバリッと割れ地震を起こしますが、融点を超えなくても温度が350度程度を超えるあたりで、バリッと割れなくなり地震を起こさなくなります。金属が常温でもグニャッと曲がるのと似たような状態です。地下に行くほど高温になるので、それは、地震が発生する深さ(地震発生層)には下限があることを意味します。また、海洋プレートの沈み込みが進行し熱せられれば、水を含んだ海洋プレートは脱水されます。放出された水の一部はプレート境界に留まり断層内部の水圧(間隙水圧)を上げることで、断層面を内側から押し広げていると考えられています。そうすると摩擦力が低下し、断層はスルッと滑るようになります。このように、地下の温度と岩石の割れ方や断層の滑り方には明瞭な関係があります。

 

 火山も沈み込み帯での脱水反応の産物であり、大陸プレートは火山の近くでは高温になります。やはり火山の近くでは、地震発生層下限は浅くなります。大地震はまれな現象で個性豊かなので、一般則を見いだすのは容易ではないのですが、2008年岩手宮城内陸地震を詳細に調べたところ、大地震の起こり方も、地下の温度構造に影響されることが明らかになりました(図1)。私たちは、理論的なシミュレーションと野外調査も含めた観測を駆使した研究を行いました。その結果、火山の近くの熱い場所では、深いところは普段からゆっくり滑っており歪みを蓄積していないのですが、いったん大地震が起こると、火山の近くの浅いところが大きく滑ることが示されました。

 

 プレート境界の地震発生層の下限も、海洋プレート年齢が影響し、西南日本では30 km程度なのに対して、東北日本では50 km程度と深くなります。より深くまで地震が起こるということは、地震の規模がより大きくなることを意味しており、東北沖地震が巨大化した一因だと考えられます。しかしながら、冷たく重いプレートは、沈み込みやすいためプレート境界に力を加えにくくなり地震の規模を小さくするという、相反する効果も考えられています。このように、地質学的時間スケールの現象である地下の温度構造が、大きく時間スケールを超えて、高々数分の時間スケールである地震の起こり方に関係していると考えられていますが、まだまだ研究は発展途上です。

 

図1

 

図1:2008年岩手宮城内陸地震の再現。(左)シミュレーション結果と解釈図。(右)小地震の震源分布。写真は、著者らの緊急調査で見つかった地表地震断層。(Ando and Okuyama, 2010に加筆 )

 

後編「断層の進化の時間スケール」につづく