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 太陽系最大級の爆発現象太陽フレア
  横山 央明 (宇宙惑星科学グループ)

太陽フレアとは
太陽は、可視光ではあまり変化していないように見えますが、X線で見てみると実はさまざまな活動現象を起こしているということがわかります。フレアもその一つで、太陽大気中に蓄えられた磁場のエネルギーを消費して、数億度にも達する超高温プラズマや光速近くまで加速された粒子を爆発的に生成する、わが太陽系でもっともパワフルな爆発現象です。図1は、太陽観測衛星「ようこう」に搭載された軟X線望遠鏡が撮影した太陽の画像です。この図の中で、北半球にあるとんがり帽子のような構造が、フレアによって生成された高温のプラズマ(数百万から数千万度)です。

図1 2000年6月7日のフレアのようこう軟X線望遠鏡による観測(宇宙科学研究所提供)
図1 2000年6月7日のフレアのようこう軟X線望遠鏡による観測。(宇宙科学研究所提供)

 

わたしたち太陽地球系物理学(STP)グループでは、次のような理由からこの太陽フレアを研究対象のひとつにしています。惑星圏や地球磁気圏でおこる現象はプラズマ物理によって理解できるのですが、それは太陽も同様なのです。たとえば、以下で説明する「磁気リコネクション」は、太陽フレアと地球磁気圏とで共通の重要な物理なのです。地球磁気圏・惑星圏においては、衛星が飛翔している軌道上で、電磁場や粒子分布関数を直接測る「その場観測」がおもな手段ですが、いっぽう太陽観測では望遠鏡を使った「リモート観測」になります。前者は、詳しい物理量がわかる反面、空間的・時間的に限られた情報しかえられず全体的な描像を得ることができません。後者は、その逆になります。もし基本的な物理が共通であるならば、この両者の観測はおたがいに補い合うことができます。

太陽フレアの磁気リコネクションモデル
フレアのエネルギー解放過程は、磁気リコネクションであるというのが現在の最有力な考えです。図2は、その根拠になった多数の証拠のうちでも最も重要な「カスプ型ループ」の軟X線画像です。丸いループの上にのっかっているとがった構造(カスプ構造)が重要な発見です。
図2 1992年2月21日のフレアのようこう軟X線望遠鏡による観測のネガ画像
図2 1992年2月21日のフレアのようこう軟X線望遠鏡による観測のネガ画像。太陽の東の縁付近で起きたフレアで上が太陽面の東、右が北。太陽面上では1秒角が700kmにあたる。(宇宙科学研究所提供)

図3 フレアの磁気リコネクションモデル
図3 フレアの磁気リコネクションモデル。実線は磁力線を表す。

 

磁気リコネクションモデル(図3)では、フレアのエネルギー解放は磁力線のつなぎかわり(リコネクション)によって起こると考えられています。図3のちょうど中央のあたりにアルファベットの「X」の字のようになっている箇所があり、ここがちょうどつなぎかわっている箇所です。このX字構造の左側と右側とでは磁力線の向きが上下逆さまで反対の向きをもっています(つなぎかわる前の磁力線は図には描いていませんがたくさん存在しています)。これが「X」のところだけで互いに打ち消しあうと、その結果、とがった構造をもった磁力線が「X」字の上下に 2組できあがることになります。磁力線はゴムひものような性質をもっていますからこの2組のとがった磁力線はパチンコの要領で上と下とにそれぞれ弾かれていきます(矢印が弾かれる流れのようすを示します)。そうして空っぽになったところは圧力が下がるので左右からまた磁力線がやってきて(矢印が流入するようすを示しています)つなぎかわるという作業が繰り返されるのです。このとき周囲のガス(プラズマ)が磁力線に巻き込まれていっしょに運動します。左右からやってくるプラズマは互いに衝突して(磁気流体スローモード)衝撃波をつくりそこで熱を発生します。おおもとをたどるとそのエネルギーはつなぎかわった磁力線がもっていたものですから、これらのサイクルは磁力線のエネルギーをガスの運動エネルギーや熱エネルギーに転換している作業になります。この過程が劇的にしかも大量におこるのがフレアだとこのモデルでは説明しています。

このモデル(図3)と観測(図2)とを比較してみるとその類似性は明らかです。磁力線がつなぎかわった箇所の下では頂上のとんがったループ---カスプ型ループができますので、さきの図2の観測結果は、この磁気リコネクションモデルを強く支持する根拠になったのです。さらにこのカスプ型ループは時間とともにそのままの形を保ちつつだんだん大きく成長していきます。ループのふたつある足元の間の距離がすこしづつ離れていくのも見て取れます。磁気リコネクションで磁力線が次々につなぎかわるとカスプのとがった先のさらに外側にあたらしくつなぎかわった磁力線が降り積もっていきますので、この成長は磁気リコネクションモデルによって自然に説明できます。このカスプ型フレアについては温度構造がくわしく調べられていて、カスプのより外側ほど高温になることがわかりました。これはエネルギーが解放された直後のより「新鮮な」高温プラズマが外側から積もってくるようすを示しており、やはり磁気リコネクションモデルでは自然にこれが説明できます。

最近のことなのですが、もっと強力な証拠がさらにみつかりました。リコネクションにともなう流れが別のフレアでみつかったのです。ようこうでみると図2のフレアと同じようなみごとなカスプ型ループを軟X線で示していたのですが、同時に観測していた SOHOの極紫外線撮像望遠鏡(EIT)がそのカスプの先端に向かって左右からものが動いて集まってくるようすを捉えたのです。ついにリコネクションの現場をつかまえた最初の例でした。

太陽フレアのコンピュータシミュレーション
このようなフレアのようすは、観測と平行してコンピュータシミュレーションによっても調べられてきました。図4はその結果の絵です。

図4 フレアの磁気リコネクションモデルにもとづいたコンピュータシミュレーション
図4 フレアの磁気リコネクションモデルにもとづいたコンピュータシミュレーション。実線は磁力線を、矢印はガスの流れをあらわす。

このシミュレーションでは磁気流体力学の連立偏微分方程式系をスーパーコンピュータを用いて解いています。結果の温度分布をみると、観測で示されたようなカスプ型の構造ができているのがわかります。このカスプ型の縁は熱伝導が伝わる先頭の熱伝導面です。コロナのような高温電離プラズマ中では熱伝導は磁力線の方向だけに効率よくはたらき、その結果熱伝導面はほぼ磁力線に沿った形をしています。このシミュレーション結果(図4)と観測(図2)との比較から、観測されたカスプ型のループもどうやら熱伝導面をみているものと考えれられます。しかし磁気リコネクション過程では磁気エネルギーを解放する主役は熱伝導面ではなく磁気流体スローモード衝撃波だと思われています。シミュレーションの結果(図4)で、カスプ付近で密度が高くなっている箇所があり、注意深く調べるとさきの熱伝導面とすこし位置が異なることがわかると思いますが、この縁がスローモード衝撃波です。このスローモード衝撃波を確かにとらえたという観測例はまだありません。将来の観測が待たれるところです。シミュレーション結果の図をさらに見るとカスプの下に高密ガスで満たされたループがあるのがわかります。このガスは、コロナよりも太陽表面に近い彩層という高密大気から「彩層蒸発」という過程を経て上昇したガスで、強い軟X線を放射します。実際ようこうでみられるフレアループの多くはこの彩層蒸発ガスを観測していると考えられています。コロナ上空でリコネクションにより発生した熱が熱伝導によって彩層に運ばれて、その高密ガスを急加熱、ガス圧が急上昇してその力でものを持ち上げるのが彩層蒸発現象です。実際ようこうBragg結晶分光器でもそのDoppler偏移が受かっています。

図2 のようなカスプ型ループは数多くのフレアでみつかっており、さらにはフレアだけでなくもっと解放エネルギーの弱い「大規模アーケード形成現象」とよばれる、CME(コロナ質量放出)と関係が深いと考えられる現象でもみつかっています。マイクロフレアとよばれるフレアの縮小版でもどうやらリコネクションがおこっているらしいということがようこう観測で明らかになってきています。つまり磁気リコネクションは、フレアという派手な現象だけを説明するものではなくて太陽コロナでみられるさまざまなエネルギー解放現象の本質なのです。さらに太陽大気中での磁気リコネクションの現場をとらえる努力は今後もつづきます。次のSolar-Bでは磁気リコネクションにともなうプラズマの流れや衝撃波をとらえることが最大の目標のひとつです。