専攻メンバー向け
情報

 2次イオン質量分析計を使った惑星物質の研究
  杉浦 直治 (宇宙惑星科学グループ)


2次イオン質量分析計というのは微少領域の同位体比分析が出来る 分析機器で、惑星科学に限らず、地球科学一般、工学、生物化学に いたるまで広い応用分野を持ち、見かけは下図の様です。
2次イオン質量分析計
他の分析機器と比べた利点としては

  1、軽元素の分析が出来る。
  2、Mappingができる。
  3、微少領域の年代測定が出来る。

等をあげることが出来ます。
これまで私自身が行ってきた研究成果のいくつかを紹介します。

1. 鉄隕石中の炭素・窒素の測定
下図は鉄隕石の150ミクロンぐらいの領域中の炭素・窒素 の分布を示しています。この様な軽元素の分布を知ることは 2次イオン質量分析計なしにはほとんど不可能なことなので す。鉄隕石(すなわち小惑星のコア)の軽元素の分布は小惑 星の比較的低温の熱史に関する情報を与えます。

2. 火星隕石中の水素同位体比測定
火星隕石ALH84001は40億年と言う古い年代を示す隕石で す。この隕石は生命の痕跡を示すかもしれないということで 有名です。2次イオン質量分析計を使うとこの隕石の中のど こに水素があるかが解ります(図)。このようなmappingも 現在のところ2次イオン質量分析計以外では出来ません。水 素(実際には水の形で存在する)の多いところで水素の同位 体比を精度良く計ることが出来ます。この様な分析の結果、 40億年前に火星ではすでにかなりの水素が惑星間空間に逃 げ出していることが解りました。同じ隕石の窒素同位体比か らも同じような結果が得られています。この様に火星隕石の 軽元素の同位体比の測定から火星大気の歴史を調べることが 出来ます。

3. 窒素同位体比を使った太陽系前駆物質の研究
太陽系が出来るときには高いエネルギー(温度)のイベント がたくさん起きて、ほとんどのものは気化するかあるいは溶 けるかして良く混ざったと思われます。(そのために太陽系は 45.6億年と言う良く決まった年齢を持っています。)しか し中には高温を経験せずに太陽系に入り込んだ物質もありま す。そのようなものを太陽系前駆物質と呼びます。太陽系前 駆物質は太陽系がどの様なものから出来たのかを示す直接の 証拠として貴重な研究対象です。ある物が太陽系前駆物質で あるかどうかはその構成元素の同位体比を使って判断します。 これまでに隕石中にダイアモンド、シリコンカーバイド、グ ラファイトなどが太陽系前駆物質として見つかっています。 図に示す丸い塊は有機物(暗い部分)とシリケートの混合物 でその窒素同位体比が異常である事から(少なくともその有 機物は)太陽系前駆物質と思われています。太陽系前駆物質 の研究は惑星科学と天文学の境界領域の新しい学問分野とし て飛躍的な発展を遂げています。

4. 初期太陽系年代学
太陽系がどの様にして形成されたのかを知る重要な手がか りの1つが色々な物質の形成年代です。45億年前の短い時 間間隔を正確に測定するには消滅核種(放射性元素で寿命の 短いもの)の壊変を用います。これまでに多くの隕石や惑星 物質の測定により、Al-Mg, Be-B, Fe-Ni, Mn-Cr, Pd-Ag,  Hf-W, Lu-Hfなどの時計が年代測定に使えると思われていま す。これらの時計を使って図に示すような初期太陽系の歴史 が明らかになりつつあります。高温凝縮物とコンドルールは 原始太陽系星雲内で作られたものです。コンドライトは微惑 星として集積後、若干の水質変成あるいは熱変成を受けたも のの融けることなく、集積物としての組織を残すものです。 ヴェスタ、アングライト、アカプルコはエイコンドライトと 呼ばれ、いずれも火成活動によって出来たものです。鉄隕石 も微惑星の溶融のよって出来たものです。微惑星中の熱的活 動は地球のコアが出来る頃まで続いていた様です。この様な 時計を使って原始太陽系の歴史を明らかにする研究を現在進 めています。