5つの研究グループ

地球惑星科学専攻では、5つの研究グループにわかれて研究・教育を行っています。
ここでは、それぞれのグループの研究分野について紹介します。

学生の声

 宇宙プラズマ分野の研究紹介
  井筒 智彦 (宇宙惑星科学講座 博士1年)

 

手短に概要を
私の所属は、東京大学地球惑星科学専攻・宇宙惑星科学大講座であり、また、宇宙科学研究本部(以下、宇宙研)・宇宙プラズマ研究系でもあります。それは、私の指導教官の藤本正樹教授が東大と宇宙研の併任教授であるためです。このような所属の学生の生活を簡単に述べると、授業や書類提出のときのみ東京都文京区の本郷キャンパスに行き、ほとんどの時間は神奈川県相模原市の宇宙研で研究を行う、という感じになります。研究の手法は、人工衛星から送信されるプラズマのデータを解析することです。これにより、地球近傍で生じるオーロラ(図1)や磁気嵐などにつながる地球磁気圏におけるプラズマのダイナミクス(日本語で「動力学」)の解明を目指しています。

図1:極域で見られるオーロラ
Credit & Copyright: D. Hutchinson
http://antwrp.gsfc.nasa.gov/apod/ap980304.html

基本的な用語の説明 ~プラズマとは~
私の研究対象は、宇宙空間中の『プラズマ』です。プラズマとは、個体・液体・気体に続く物質の第4の状態を指す用語です。気体を加熱すると、原子を構成する原子核と電子の結合が断ち切られ、イオンと電子に分離されます(宇宙空間中のプラズマは数万度を越えるような高温状態にあります、無理はしないで下さい)。この電離したイオンと電子の集団をプラズマと呼びます(集団であることが現象を複雑化させる要因となります)。宇宙空間のダーク・マターを除く物質の99%は、プラズマ状態にあると考えられています。したがって、宇宙スケールの視点で考えると、プラズマのダイナミクスを理解することが非常に重要であると分かります。
プラズマを構成する荷電粒子ひとつひとつの運動は、実は単純で、高校物理で習った電場による力(qE)と磁場によるローレンツ力(qvB)によって決まります。しかし、宇宙空間には膨大な数のプラズマ粒子があり、その全ての運動を追跡することは現在の計算機の能力では不可能です。さらに、プラズマ集団の運動による場(電場と磁場)の変化を考慮する必要があります。プラズマ集団が移動すると空間内には電荷の偏りが生じ、ガウスの法則で記述される電場が生じます。また、プラズマ集団の運動自体は電流であるので、アンペールの法則で記述される磁場が生じます。発生した電場と磁場はもともとある電場と磁場を変形するため、プラズマが受ける力も変わり最初とは異なる運動をすることになります。このように、場がプラズマの運動を決め、プラズマの運動が場を変形するという相互作用が常に働くため、プラズマ集団の運動は予想のつかない複雑なものになるのです。そして、このことが宇宙プラズマ物理を非常に魅力ある学問にしているのです。

代表的な研究手法の紹介
では宇宙空間のプラズマの運動を調べるにはどうしたらいいのでしょうか?それには、人工衛星による観測と数値シミュレーションの2つの方法があります。
人工衛星による観測は、粒子計測器を用いたプラズマ粒子の直接観測や光学機器を用いたリモートセンシングなどがあります。前者は、人工衛星に飛び込んでくるプラズマ粒子を捉えることで、どの方向にどのくらいの速度を持つ粒子がどれだけあるのかを知ることができます(この情報をプラズマの速度分布関数といいます)。後者は、例えばヘリウムイオンや酸素イオンなどに共鳴散乱された光を捉えることで、どの位置にどれだけのイオンがあるのかを知ることができます。
数値シミュレーションは、計算機を用いてプラズマの運動方程式を解くことで、プラズマ集団の運動を調べる手法です。先に述べたように、宇宙空間中の全ての粒子の運動を解くことはできないので、調べたい現象の空間・時間スケールに応じてモデル化を行います。プラズマを流体とみなすMHD計算や電子のみ流体でイオンは粒子として扱うハイブリッド計算などの様々なスキームが存在します。
新しい科学成果を出すには、衛星観測と数値シミュレーションを相補的に用いることが重要です。観測される不思議な事実は、数値シミュレーションなどを用いて理論的に説明される必要があります。また、数値シミュレーションから予言される不思議な現象は、その存在を観測的に実証されなければなりません。

専門的な研究内容の紹介
私の研究対象をもう少し専門的なところまで説明します。私の対象とするプラズマは、地球磁気圏という領域にあるプラズマです。地球磁気圏とは、地球から1万~数十万kmの地球の固有磁場が宇宙空間に占める領域です。地球磁気圏は、太陽から超音速のプラズマ(太陽風)が吹き付けるため、図2のように太陽と反対側に伸びた形状をしています。太陽風の入力に応答して、「複雑な相互作用」の結果、オーロラや地磁気嵐などの地球規模の擾乱現象を出力します。磁気圏物理のひとつのゴールは、この「複雑な相互作用」を解き明かし、大規模なエネルギー散逸過程を理解することです。

図2:地球磁気圏の外観。左が太陽、右の青い領域が地球磁気圏。地球磁気圏内の線磁力線を表している。
Credit: NASA
http://www.nasa.gov/mission_pages/themis/auroras/themis_power.html

私は、先述の手法のひとつの「人工衛星の直接観測データの解析」を行っています。太陽と反対側の伸びた領域(地球磁気圏尾部)には、地磁気嵐の種となる粒子やオーロラ爆発を誘発するエネルギーが蓄えられています。この磁気圏尾部を飛翔する人工衛星から送信されるデータを解析することで、物質やエネルギー輸送を明らかにしようというのが私の研究テーマです。私の研究の売りは、宇宙空間の広範囲に散らばった10個近くもの人工衛星の時系列データを解析することで、グローバルなプラズマ輸送の解明を目指している点です。過去の観測的な研究の多くは、単一衛星のデータをもとに結果を導いています。複数点での観測データからは、過去の描像からは想像もできないような生き生きとしたプラズマの動きを読み取ることができます。
修士課程での研究結果の一部を示したのが図3です。太陽風プラズマが地球磁気圏の脇から侵入し、その後どのように地球付近まで輸送されるのかを示しています。詳細な説明は省略しますが、?@の太陽風の入力に対し、?Aの磁気圏尾部の構造変化の応答があり、?B・?C・?D・?Eの順にプラズマが輸送されていく、というシナリオです。宇宙空間のその場のデータからこのような全体像を描き、少しでも宇宙のことがわかった気になれるのは、うまく言葉で言い表せないですが、例えば威勢のいいうさぎを御するような気分です。

図3:低温高密度イオンの内部磁気圏への輸送シナリオ[井筒2008, 修士論文『多点同時観測による地球磁気圏プラズマシートの研究』]

最後に
役に立つアドバイスかどうかはわかりませんが、修士課程の2年間で感じたことがあります。それは、研究生活において2つの大切なことがあり、そのひとつは人間関係である、ということです。セミナーでのスタッフからの意見・コメントや学会での出会いにより研究が新しい方向へ進むというだけでなく、なかなか研究がうまく進まないときの同期の仲間たちとの他愛ない会話は大きな励ましとなります。導き出される結果は主観性を排除したものでなければならないですが、そこに至るまでの過程では意外にも泥臭い人間関係が重要なのです。
ですからみなさんも気になることがあれば遠慮せずに研究室を訪問し、いろいろと話を聞きながら進路を決めていくのがいいと思います。宇宙惑星科学大講座には宇宙プラズマに関わる研究室がたくさんありますので(地球に限らず太陽・月・金星・水星…、データ解析・数値シミュレーション・機器開発…)、きっと自分のスタイルにあった研究室が見つかると思います。
さて、研究生活においてもうひとつの大切なことは何でしょうか。それは、「自分で考えてみて」ください。

*** おまけ ***
私にとっての研究生活の一番のスパイスは学会発表とその周辺の街の散策です。今年4月にウィーンで開催されたEGU大会の写真を載せておきます。ウィーンは、緑が多く、馬が愛されていて、秀逸なピルスナーやヴァイツェンが飲めるとても素敵な街でした。

EGU大会のポスタ会場。コアタイムにはワインが振る舞われ、文字通り熱を帯びた議論が繰り広げられます。
ウィーンの緑あふれる街並みとグラスにあふれんばかりのビール(Trumer pils)