地震発生過程の研究
山下 輝夫、宮武 隆、加藤 尚之 (地震研究所)

1)震源過程の理論的研究(山下輝夫)
 地震は,地球の中のどこがバリッと壊れることで起こるのだということを,皆さんは,どこかで聞いたことがあるでしょう.この破壊が,どのように起きるのかということを数学や物理学を用いて研究する分野も地震学にはあります.地震をひき起こす破壊が,どのように起きるのかということがわかれば,地震が起こることを前もって知ることも可能になるでしょう.しかし,残念ながら,その起こり方は未だ十分にはわかっていません.この理由の一つに,地震が起こる地球の内部はたいへん複雑だということがあげられます.例えば,地表の近くには図1に示すように断層と呼ばれる傷がたくさんあります.これを,外から,押してやってみましょう.どの断層が壊れるのか簡単には予想できません.また,一つの断層が壊れると,その影響で雪崩を打つように周りの断層が壊れることもありますが,断層の数が多いほど,どれとどれが,壊れるのかということを前もって知ることは困難です.多くの断層が一斉に壊れると大地震になりますから,これは重要な問題です.

 最近では,地球の中にある流体の運動と地震を引き起こす破壊は,複雑な影響を及ぼしあうということも分かってきました.図1に示した例では,近くにある断層同士が影響を及ぼしあうことにより,地震の起こり方に複雑さが生じたのですが,この場合,流体の運動と地震を引き起こす破壊が影響を及ぼしあうことにより,複雑さが生じます.図2は,コンピュータを使って流体の運動と地震を引き起こす破壊が影響を及ぼしあう様子を計算したものです.

 このように地震の起こり方は,一般にたいへん複雑ですが,実際の地震は,まったくでたらめに起きているわけではありません.複雑さの中にある種の単純な規則性があることもはっきりとわかっています.一見,複雑に見える現象も視点を変えると単純に見えるということはたいへんおもしろいことです.今までの物理学では,物事をできるだけ単純化・理想化して理解をしようとしてきましたが,このような考え方では上に述べたような複雑な現象を十分には理解できないことがわかってきました.最近の物理学の進歩により,複雑さを,複雑なまま理解することが必要であることがわかってきました.このように地震の起こり方についての研究は,複雑さについての物理学にも関係しています.地震の発生を前もって知るためには,複雑さの中に何らかの単純規則性を見いだすことや,その単純規則性がどのように生ずるかということの理解が必要となります.

文献:
「大地の躍動を見る(岩波ジュニア新書)」第3章,山下編著,岩波書店,2000
「地殻ダイナミクスと地震発生」第10章,菊地編,朝倉書店,2002