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ダイナミックな地球を探る
本多 了 (地震研究所)

「動かざる事、大地のごとし」とは、昔から良く言われますが、実際の地球(大地)は、さまざまな時間スケールで動いています。日本に住んでいて、この事を感じる、最も見近な現象は地震でしょう。また、地球科学に興味を持っておられる方は、大陸やプレートが年間数センチメートルの早さで動いている事を御存じでしょう。では、どうして動いているのでしょうか?これは今でも、地球科学者の間で議論されていますが、大筋の考え方を、説明いたしましょう。

まず、地球の中身について簡単に述べましょう。地球は半径、約6400kmのほぼ球であり、地球内部は、地殻、マントル、内核、外核に大きく分かれています。地震波の横波が伝わるか伝わらないかで、外核以外は固体であると考えられています。地殻とマントルは、いわゆる岩石から構成されており、外核は鉄を主成分とする液体、内核は純粋に近い金属と推定されています。地震が起こったり、大陸が動く主な原因は、地球の岩石部分(つまり、マントルや地殻)がゆっくり動いているためと考えられています。マントルや地殻が動くためには、"力"が加わる必要があります。この"力"のエネルギー源は、地球の内部に貯められた、あるいは今も発生している熱です。もっと具体的に言いますと、地球が出来たとき、物質が集まった事により解放された重力エネルギーとウランやトリウムのような放射性元素が壊変する際に放出される熱エネルギーです。前者は、物を落とした時、温度が上昇するイメージで考えればいいと思います。また、放射性元素の崩壊と言っても、ごく特殊な場所や状況でなければ人体に被害を与える程は大きくありません。ただ、・チリも積もれば山となるように、地球全体では、大きなエネルギー源となります。

 さて、力を加えても物質が"変形"しないと地震のような現象は起こりません。力を加えた時の変形で最もわかりやすい例はバネと粘性流体です。しかし、どんな物質も"理想的な"バネでも粘性流体でもありません。実際には、いろいろな状況で変形のしかたは変わって来ます。では、地球内部の岩石の変形は、どうなっているでしょうか?昔から多くの人々が、この問題に取り組みましたが(現在でも、活発な研究分野の一つです)、単純化して言えば、地震波のように変形が短時間(数秒から数時間)で起こる様な現象はバネ的で、大陸移動のようなゆっくりとした現象(数千万年から数億年)は粘性流体的である事が分かって来ました。また、このようなバネ的、粘性的なふるまいは温度や圧力によっても変わります。直感的に分かると思いますが、温度が上がれば粘性的(柔らかくなる)、圧力があがればバネ的(固くなる)になります。さて、これだけで地球の変形をすべて語っているでしょうか?実は、もう一つ重要な現象、"破壊"があります。破壊は物が壊れる事、つまり、物質の間に隙間ができたり、ずれる事ですが、これが地震の原因であ・る事は良く知られています。このような破壊が、どのような条件で起こるかですか、大ざっぱに言えば、大きな力が加われば、破壊が起こるでしょう。つまり、大きな力をバネ的あるいは粘性的な変化で解消出来ない時に破壊が起こります。

マントルは、前に述べましたように長時間では粘性流体的にふるまい、また内部に熱源を持っています。粘性流体を下から加熱してやると、ある条件下では対流という現象が起こります。これは理科の教科書で水の入ったビーカーを下から加熱した時に起こる現象として良く図示されています。加熱の程度が低いと、熱は熱伝導のみで逃げていく為に、粘性流体は静止しています。ところが、加熱の程度をあげてやると、流体が上昇や下降する事により熱を運びだします。これが対流です。このような対流がマントルで起こっていると考えられており(これをマントル対流と言います)、大陸やプレートの運動の原動力と考えられています。

 マントル対流が起こっていると考えた時の地球内部と地表面の関係を考えてみましょう。前にもちょっとふれましたが、温度が低い、つまり地表面に近いと固くなります。このため、地表面は固いプレートで覆われています。このような状態でマントル対流が起こったとすると、固いプレートはマントルの中に入って行く事があるでしょう(どうして固いプレートがマントルに入って行けるようになる、あるいは、そうなったのかは良く分かっていません)。このようにプレートがマントルに入って行くと質量保存を桙スすために、どこかでプレートが割れてマントル物質が表面に出て来ます。前者は主に海溝で起こっていると考えられています。一方、後者は主に海嶺で起こっていると考えられています。地球では、固いプレートが、十枚程度、地表面をおおっていますが、これが相互に運動していると考えるのがプレートテクトニクスの考えです。そして、プレートがぶつかったり(収斂境界:たいていの場合、海溝に見られるように一つのプレートが他のプレートの下にもぐりこんでいますが、そういう場所は"沈み込み帯"と言われています。)、離れて行く所(発散境・界:多くが海嶺です)、すれちがう所(横すべり境界:ここに見られる断層はトランスフォーム断層と呼ばれています)で地震が起こっていると考えられています。これらは"プレート間地震"と呼ばれています。いっぽう、プレート内部にも、時々、地震が起こります。これは"プレート内地震"と呼ばれています。

さて、これでダイナミックな地球の動きを一通り見て来ました。このような事を知るためには、いろいろな方法がありますが、地球内部の動きとなると、普通、良く使われる科学的手法、つまり、実験や観測のみでは、困難を伴います。その理由は、時間・空間スケールが巨大であるために、実験や観測が直接には出来ない領域が存在するからです。この為に、地球深部の動きを探る研究分野では数値シミュレーションの手法が重要となっています。数値シミュレーションでは、まず、モデルを頭に描き、それを記述するに必要な物理法則あるいは十分な基礎を持った法則を用いて、必要なパラメータを使って、いろいろな時間・空間スケールの現象を探って行きます。しかし、我々の数値シミュレーションは、工学などで行なわれている、それと若干、意味が違います。それは、地球科学の多くの分野で見られる事ですが、我々の数値シミュレーションは基本的にインバージョン(観測から、モデルを推定する)であると言う点です。それは、モデルを作る際の、いろいろな仮定やパラメータに不確定さがあるからです。従って得られた結果を、観測出来る事実と比較し、うまく説明出来ていない・場合は、モデルを変更します。この点が、"普通の"数値シミュレーションと違う点であり、また、この分野の研究の一番、面白い点です。