5つの研究グループ

地球惑星科学専攻では、5つの研究グループにわかれて研究・教育を行っています。
ここでは、それぞれのグループの研究分野について紹介します。

研究・プロジェクト紹介

地球内部構造の推定と地震波の伝播のシミュレーション
ゲラー ロバート (固体地球科学グループ)

 

はじめに
 地球の内部構造を正確に把握することは地球ダイナミクスの理解に大きく貢献します.これまでの地震波トモグラフィーの研究のほとんどは,実体波の走時もしくは表面波の位相など,観測された地震波形データから抽出された一部の情報(ニ次データ)を扱ってきました.ところが,地球内部を伝播してきた地震波形記録が持つ情報を十分に活用することができれば,より詳細で正確な内部構造推定が可能なはずです.そこで,我々の研究室では,広帯域波形データそのものを波形トモグラフィーで解析することにより,高精度かつ高解像度の地球内部構造モデルの推定を目指しています.図1はその一例です.
 高解像度の内部構造推定のために,理論波形及びその偏微分係数を正確に計算しなければなりません.計算精度がよく計算時間が短い計算手法が必要なため,波形トモグラフィーの研究を行いながら手法開発の最先端研究にも取り組んでいます.ちなみに,これまで開発してきた全地球規模内部構造の推定のための理論及び計算手法は,小さいスケールの構造推定(例えば油田開発における物理探査)にも応用できます.これからその分野へ研究の対象を広げて行きたいと考えます.
 現在進行中の主要な研究テーマは二つあり,?@波形トモグラフィーによる地球内部の地震波速度の異方性構造の推定,?A時間領域での有限差分法の最適計算スキームの開発,です.

異方性構造推定
異方性構造はマントル対流の方向や強さを知るための手がかりになると考えられています.既存の研究は,SH波とSV波の走時のずれなどに基づいて,異方性の存在を指摘しましたが,定量的な異方性構造の推定が困難でした.一方,波形トモグラフィーは,定量的異方性構造だけでなく,その解像度や不確実性も定量的に見積もることができます.
 従来のグローバル地震波形トモグラフィーの研究は,モデルパラメータとして球面調和関数を用いました.そのため,局所的な構造推定を行うためには高次の次数まで計算しなければならず,現実的には困難でした.また,球面調和関数を用いた場合,データのcoverageが不均質ならば,データの解像度のない領域にartifact(誤った推定)が生じてしまうことが示唆されていました.そこで,我々は点(pixel)および球対称不均質(shell)のパラメータ化されたモデルに対して偏微分係数計算手法の開発を行い,波形トモグラフィーによる局所的な構造推定を現実的なものとしました(図2).これは,震源及び観測点配置の偏りに起因する内部構造の解像度の不均質さという不利益を補うと期待されます.
効率的に局所的な不均質構造に対する偏微分係数を計算する手法(Geller & Hara 1993)を異方性媒質に対して適用し,局所的に異方性構造がある場合の偏微分係数計算手法を開発しました.そして,pixel及びshellに対する定式化及びソフトウェアの開発も行いました.故に,局所的な構造推定を行うための非弾性減衰(Q)を含んだ一般的な異方性媒質(独立な弾性定数は21個)に対する構造推定が論理的に可能になったといえます.現時点でのデータは限られており,有意に21個の弾性定数の推定ができなくても,上述した手法によってできる限りの異方性構造の推定が可能になります.


図2 20-100sの有限周波数のデータが持つSH波に関連する異方性パラメータに対する感度のある領域(Fresnel zone).

有限差分法の最適計算スキームの導出
これまで3次元に不均質地殻における地震波伝播のシミュレーションを行うため,様々な有限差分法の計算スキームが使われてきました.しかし,ほとんどの既存の研究では,計算された理論波形は観測波形との定量的な比較および構造推定への活用はされませんでした.そのため,理論波形の誤差を定量的に評価し,最小化することは重視されてきませんでした.しかしながら,現在,有限差分法を用いて得られた理論波形を内部構造推定に利用する時代が訪れつつあり,計算誤差を定量的に評価・制御・最小化する必要があります.
 我々の研究室は,まず,一般的に最適計算演算子が満たすべき条件を導出して,それを満たす周波数領域での演算子を導きました.続いてGeller & Takeuchi (1998) では時間領域でのO(2,2) 最適差分スキーム(時間,空間両演算子の精度は2次で)を,最近では O(2,4) 最適スキームを導きました.最適演算子は旧来の"典型的スキーム"と比較して精度が遥かに良いため,旧来の研究では無視できた微細誤差の原因のより正確な取り扱いが必要となりました.この一例として,計算グリッド(格子)と一致しない不連続境界面や自由表面の取り扱い方を挙げます.上述した最適演算子が満たすべき一般原則に基づいて,その適切な境界演算子を導きました.その計算例を図3に示します.これから大型計算機を用いた3次元不均質地殻における地震波伝播のシミュレーションにこの最適演算子を使用する予定です.


図3 新しい定式化を用いると,計算グリッドとと合わない自由表面からの反射波の計算がグリッドの合う部部分からの反射波とほぼ同じ精度で行えた.