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超高圧高温の世界
八木 健彦 (物性研究所)、船守 展正 (固体地球科学グループ)、宮島 延吉 (物性研究所)

I 直接探査不能な極限の世界
地球や惑星の圧力温度環境
人類は、1969年に月面への着陸に成功し、その後、無人探査機は火星への着陸、土星や木星の探査にも成功した。もはや宇宙旅行はSFではない。一方、地球内部は宇宙空間に比べて距離的には近いにも関らず、地底旅行は今なおSFの世界のお話である。人類の到達深度は、高々、地下12000m(ロシア・コラ半島)に過ぎない。最近のSF映画は、華やかな宇宙ものばかりで、地味な地底ものは製作されない。地球内部を研究対象にする我々にとっては、少々残念なことではあるが、地球惑星科学だけでなく物理や化学などの基礎科学の立場から見ても、超高圧高温の地球内部(あるいは惑星内部)には宇宙空間にも負けない魅力がある。
アルピニストは山の空気が薄いことを知っているし、ダイバーは海中で高い水圧にさらされることを知っている。山頂や海中の圧力はどのくらいなのだろうか?表1を見てみよう。世界一高いエベレストで0.03MPa(0.3気圧)、潜水の世界記録で1.7MPaである。一方、温度については、世界最高気温が58.8°C(イラク・バスラ;1921年)、最低気温が-89.2°C(南極・ボストーク基地;1983年)と記録されている。人類は、この程度の圧力温度環境でも生命を維持することはできない。それでは、地球や惑星の内部の圧力温度はどのくらいなのだろうか?地球中心で約360GPa(360万気圧)・6000°C、木星中心で約5000GPa・20000°Cと推定されている。このような極限の圧力温度条件に耐えうる探査機を作りえないことは容易に想像できよう。地球や惑星の内部は、直接探査不能な極限の世界なのである。探査機の代わりに用いられるのが、大型プレス装置やダイヤモンドアンビル装置などの超高圧高温発生装置である。

表1 地球や惑星の圧力温度環境
  高度・深度 圧力 温度
エベレスト 8848 m 0.03 MPa  
富士山 3776 m 0.06 MPa  
地球表面 0 m 0.1 MPa  
潜水深度世界記録 -162 m 1.7 MPa  
有人深海探査船「しんかい」 -6500 m 65 MPa  
無人深海探査船「かいこう」 -11000 m 110 MPa  
最高気温 イラク・バスラ(1921)     58.8°C
最低気温 南極・ボストーク基地(1983)     -89.2 °C
地球中心 -6400 km 360 GPa 6000 °C
木星中心 -71000 km 5000 GPa 20000°C

超高圧高温環境下における相転移
地球や惑星の内部の超高圧高温環境下では、固体や液体の構造(原子配列)に変化が起こり、それに伴い物性(物質の性質)も変化する。これを相転移と呼ぶ。鉛筆の芯の主成分である黒鉛と宝石のダイヤモンドが、どちらも同じ炭素から出来ていることは、あまりにも有名である。高圧高温環境下で黒鉛はダイヤモンドへと相転移する。この相転移は、地下70kmに相当する約2GPa程度の比較的低い圧力で起こる。ただし、2GPaでの相転移速度は極めて遅いので、人工ダイヤモンドの合成には、より高い圧力が必要とされる。それでは、さらに高い圧力をダイヤモンドに加えたらどうなるのだろうか?さらに相転移を起こして金属状態になると推測されているが、詳細については明らかになっていない。
地球惑星科学的な見地からは、内部構造(図1)の解明だけでなく、地震や火山の活動、マントル対流、磁場生成などの諸現象、さらには地球や惑星の進化を理解する上で、構成物質の超高圧高温環境下における振る舞いを明らかにすることは不可欠である。現在、地球内部におけるケイ酸塩(岩石)や鉄の相転移や反応、木星内部における液体水素の分子解離や金属化などに関する研究が推進されている。


図1 地球の内部構造と地震波の伝播経路。
http://wwwold.eps.s.u-tokyo.ac.jp/shokai/solid/earthnow.html

II 高圧環境下の「異常な氷」
我々の世界の氷、すなわち水を冷すことで生成する氷は水に浮く。もちろん冷たい。一方、加圧により生成する氷は水に沈む。冷たくもない。加熱すれば、熱い氷さえも生成可能である。我々の常識からすれば、まさに「異常な氷」である。加圧により水が凍る様子や、加減圧の繰り返しにより氷の結晶が成長する様子、成長した氷が水に沈む様子などの顕微鏡観察を収録したビデオクリップを紹介しよう(動画1)。観察に使用されたダイヤモンドアンビル装置は、2個のダイヤモンドの間に試料を挟んで加圧するだけの簡単な原理で100GPa程度までの圧力であれば比較的容易に発生させることが可能である(図2)。最高発生圧力は500GPaにも達する。赤外レーザー光を試料に照射するなどの方法により、地球惑星内部の高温状態を発生することも可能である。X線回折、赤外吸収、ラマン散乱などの各種測定が可能な上、小型軽量で持ち運びが可能なこともあり、世界的にポピュラーな装置である。


動画1 「異常な氷」(6.7MB、46sec)

図2 ダイヤモンドアンビル装置の模式図。

III 最近の研究から
我々のグループは、シンクロトロン放射光X線回折や電子顕微鏡観察を高圧高温環境下の物質科学へ応用するための技術開発に取り組んでいる。これまでに、クオーツ(SiO2)[1]、コランダム(Al2O3)[2]、スピネル(MgAl2O4)[3]などの重要鉱物の新高圧相を発見したほか、ペロフスカイト型MgSiO3(パイロキシンの高圧相)の状態方程式の測定[4]に成功し、下部マントルの化学組成や温度分布に関する考察を行うなどの成果を挙げてきた。以下に現在進行中のプロジェクトの一部を紹介しよう。

地球深部条件下の高温高圧X線回折実験
地球深部の構造は、地震波などから得られる情報と、実験室内で行う高温高圧実験の結果を対比させることによって次第に明らかにされてきた(図1)。室内実験では、地球深部と同じような高圧高温環境を作りだし、X線回折実験を行うことにより、地球深部物質の結晶構造や密度などの重要な情報を得ることができる。我々は長年、高温高圧下のX線実験技術の開発に取り組んできたが、最近、ダイヤモンドアンビル装置とレーザー加熱装置、それに放射光と呼ばれる超強力なX線を組み合わせることにより、地球のコア・マントル境界に対応する100GPa領域での実験が可能になった。図3は筑波の高エネルギー加速器研究機構内に建設したその装置の主要部である。右手に置かれたダイヤモンドアンビル装置中に試料が置かれ、中央のレーザーからの光がいくつかのミラーを経て試料に照射される。加熱される試料の大きさは直径わずか数十ミクロンである。それより細く絞られた超強力なX線ビームが右側から照射され、回折されたX線が左手の大きな箱の中にあるイメージングプレートと呼ばれる検出器で記録される。図4はこうして得られたFeOの80GPa付近におけるX線回折パターンの例であり、温度条件によって結晶構造がさまざまに変化する様子が見て取れる。このような実験を繰り返すことにより、種々の物質が地球深部で持つ結晶構造やその密度が明らかにされつつあり、さらに高い圧力温度領域への挑戦もなされている。

図3 レーザー加熱式ダイヤモンドアンビル装置とイメージングプレート検出器を組み合わせた高温高圧その場X線回折システムの全体像(高エネルギー加速器研究機構・放射光研究施設内ビームライン13Aに建設)。
図4 約80 GPa、25-2000°Cの条件におけるFeO相のX線回折パターン変化。温度の上昇に伴い、菱面体晶系相からNiAs構造相(立方晶系)を経て岩塩構造相(立方晶系)への相転移が確認された。この圧力領域では、岩塩構造相は高温領域でのみ安定に存在し、常温にはその構造を凍結できない。

液体の構造の圧力変化
液体の構造というと怪訝な顔をされることが多い。しかし、結晶に見られるような長距離秩序はないものの、短・中距離秩序は液体にも厳然として存在する。また、液体は巨視的には等方的だが、微視的には結晶と同様に異方的である。結晶が圧力の効果により構造を変化させるのと同様、液体の構造も圧力によって変化する。液体の構造測定は、結晶の構造測定に比べ圧倒的に難しいため、その圧力変化についての研究は、現在ようやく本格的に始まろうとしているところである。我々は、放射光X線回折と大型プレス装置の組み合わせにより(図5)、液体試料の構造を20GPa領域まで精密に測定する技術を開発し、液体シリコンのなどの測定を行うことに成功した[5]。図6に示すように液体シリコンの最近接原子間距離は、8GPaと14GPaの間で、圧力の増加にも関らず伸びている。縮むべきものが伸びていることは、配位数の増加を伴う大きな構造の変化が起きたことを意味する。液体の構造変化の様子をこのような高圧下で測定しているグループは世界的にも他にはない。現在、地球型惑星の溶融ケイ酸塩(マグマ)や木星型惑星の液体水素に対する知見を得るための研究を進めている。

図5 大型プレス装置と半導体検出器の組み合わせによる高温高圧その場X線回折システムの全体像(高エネルギー加速器研究機構・放射光研究施設内ビームライン14C2に建設)。ダイヤモンドアンビル装置に比べ試料容積が3桁程度大きく(体積1mm3程度)、また、温度の制御が正確にできるという利点がある。圧力領域は30GPa程度まで。
図6 液体シリコンの構造因子(上)と最近接原子間距離r1(下)の圧力変化。黒丸で示される液体シリコンのr1は、8GPaと14GPaの間で増加している。比較のため、結晶シリコンのr1の圧力変化も示した。

分析透過電子顕微鏡(ATEM)を用いたマントル物質の解析
地球のマントルやコアに相当する超高圧実験で扱える試料は、極めて少量で(体積10-3 mm3以下)で、しかも構成粒子はサブミクロンサイズであることが多い。このような試料に対しては、強力な光源(放射光、レーザー等)を用いれば、試料全体からの情報を得ることができる。しかし、複数相が共存した場合、各々の相・粒子の結晶構造と化学組成を一対一で対応付けることは非常に困難である。この点に関して、分析透過電子顕微鏡法(ATEM)は非常に有効である。図7に示すように、電子顕微鏡といえば、まず小さな物体を拡大して観察できること、つまり高い実空間の分解能が得られること(マイクロスコピー機能)が思い浮かぶが、透過電子顕微鏡では同時に電子線回折像を使って、結晶構造に関する逆空間の情報も得ることができる(ディフラクトメトリー機能)。ATEMでは、さらに付属の電子線走査装置(STEM)やX線・電子線分光器を用いたエネルギー分散型X線分光法(EDS)や電子線エネルギー損失分光法(EELS)により、化学組成や電子構造に関するエネルギー空間の情報も微小な試料領域から得ることができる(スペクトロメトリー機能)[6]。また、これら3つの機能を有機的に組み合わせることも可能であり、我々はTEMの回折原理とEDS法やEELS法を組み合わせたALCHEMI (Atom Location by CHanneling Enhanced MIcroanalysis)法で、マントル構成物質中の陽イオン(ここでは、Al3+やFe3+)の席占有率を直接的に決定することを試みている[7]。図8に示すように、サブミクロンサイズの結晶相において、「何(What cation)」が、「どこ (Where)」に「どの程度(How many)」存在するか?が明らかになりつつある。

図7 分析透過電子顕微鏡における主な3つの機能。マイクロスコピー機能:複数のマントル構成相と共存する六方晶系アルミニウム卓越相の明視野像と高分解能像。ディフラクトメトリー機能:{110}双晶したケイ酸塩ペロフスカイトの制限視野電子線回折(SAED) パターンと収束電子線回折(CBED)パターン。スペクトロメトリー機能:共生するケイ酸塩ペロフスカイトとメージャライトガーネットのFe-L2,3 energy-loss near edge structure (ELNES)。
図8 電子線チャネリング効果を用いたエネルギー分散型X線分光法(EDS)と電子線エネルギー損失分光法(EELS)による特定陽イオン席における鉄の原子価状態分析。

参考図書
八木健彦:岩波講座 物理の世界・極限技術2 「超高圧の世界」

参考論文
[1] Y. Tsuchida and T. Yagi, A new, post-stishovite high-pressure polymorph of silica, Nature 340, 217 (1989)
[2] N. Funamori and R. Jeanloz, High-pressure transformation of Al2O3, Science 278, 1109 (1997)
[3] N. Funamori, R. Jeanloz, J. H. Nguyen, A. Kavner, W. A. Caldwell, K. Fujino, N. Miyajima, T. Shinmei, and N. Tomioka, High-pressure transformations in MgAl2O4, Journal of Geophysical Research 103, 20813 (1998)
[4] N. Funamori, T. Yagi, W. Utsumi, T. Kondo, T. Uchida, and M. Funamori, Thermoelastic properties of MgSiO3 perovskite determined by in situ X-ray observations up to 30 GPa and 2000 K, Journal of Geophysical Research 101, 8257 (1996)
[5] N. Funamori and K. Tsuji, Pressure-induced structural change of liquid silicon, Physical Review Letters 88, 255508 (2002)
[6] N. Miyajima, T. Yagi, K. Hirose, T. Kondo, K. Fujino, and H. Miura, Potential host phase of aluminum and potassium in the Earth's lower mantle, American Mineralogist 86, 740 (2001)
[7] N. Miyajima, F. Langenhorst, D. J. Frost, and T. Yagi, Electron channelling spectroscopy of iron in majoritic garnet and silicate perovskite using a transmission electron microscope, submitted to Physics of the Earth and Planetary Interiors.

連絡先:東京大学大学院理学系研究科・地球惑星科学専攻
船守展正(funamori@eps.s.u-tokyo.ac.jp)