高精度観測機器で見る地球
新谷 昌人 (地震研究所地球計測部門)

 地球のことをよりよく知るためには、地球内部の様子を精密に観測することが不可欠です。しかし、地球内部を直接観測する手段はたいへん限られています。地面に穴を掘るとしても深さ10kmさえとても難しく、さらにその穴の底の高温・高圧の環境に観測機器を置くのは大変困難なことです。地球の半径は6000km以上ありますが、そのほんの地表付近でわれわれは観測を行い、地震波などを用いて地球内部をある程度理解することができるようになってきました。しかし、地球中心付近の構造や、浅い部分でも地震発生のプロセス等の詳しいことに関してはまだ十分に理解されたとはいえません。それらの理解のためには従来の性能を超えた高精度の観測機器が必要であると考えられます。そこで、私たちのグループは次の2つの方向で観測機器の開発を行っています。すなわち、装置の精度を極限まで高めて微弱な信号をキャッチすること、そして、これまで観測できなかった地下深部や海底下で観測できるような機器を作ること、です。以下に私たちが開発した2つの方向性の観測機器の例を紹介します。キーワードは「レーザー」です。



図1 神岡鉱山(地下1000m)に設置されたレーザー伸縮計

装置の精度を極限まで高める
 図1は2003年6月に動きはじめたレーザー伸縮計です。伸縮計というのは、岩盤上の2点間の距離を測ることで、地面のひずみを観測するものです。図1の伸縮計は長さが100mあります。これまでにも石英の管を使った伸縮計がありましたが、100m以上の長さのものを作るのが難しいことと、石英管自身の伸び縮みが誤差の原因になるので、私たちの装置ではレーザーを使って観測をしています。100m離れた鏡と鏡の間にレーザー光を往復させて、距離の変化をレーザー光の波長を基準に測ります。使用しているレーザーの波長は13桁の精度で安定化されています・・・10兆分の1の割合しか狂いません。これほど安定な長さの基準はいまのところレーザーでしか得られません。これを使えば、原理的には10-13のひずみ検出能力・・・地球と太陽との間の距離を1.5cmの精度で検知することに相当・・・があることになります。

 装置自身の性能とともにそれを設置する場所も重要です。いくら感度が良くても、外から雑音が入ってくれば微弱な信号はかき消されてしまうからです。その点、この装置は神岡鉱山(岐阜県)の地下1000mの大変静かな場所に設置されています。神岡?? たしか、ノーベル賞の・・・そう、ニュートリノ検出器があるところです。ニュートリノ検出器の場合は、ニュートリノ以外の宇宙線の影響を避けるために地下深いところに検出器を設置する必要がありました。伸縮計の場合も、地表付近の雑音(地面振動、降雨や地下水等の影響、気温の変動など)を避けるために、地下深い環境が必要なのです。


図2 100mレーザー伸縮計で観測されたひずみ

 図2は観測された信号の例を示します。赤は伸び縮み、青はねじれのひずみを表します。1日2回変化しているのは地球潮汐によるものです。これは海の潮の満ち干と同じように、月や太陽の引力で地球自身も伸び縮みするために起こる現象です。地球潮汐の振幅は3×10-8程度のひずみ量ですので、比較的大きい信号といえますが、地表付近の観測ではこれほどきれいにはなかなか見えません。図の16日のところに大きい変動が見えますが、これは2003年7月16日にインド洋で起こった地震(M7.6)によるひずみ変化です。ここの部分を詳細にしらべてみるといろいろな周期をもった振動が見えてきます(図3)。つまり、地震によって地球全体がゴムまりのように振動している現象を捉えました。図では250秒から500秒の周期の振動成分が示されていて右側にいくほど速く、山が高いほど大きい振動です。赤や青の丸印は現在わかっている地球の内部構造をもとに計算した予想周期をあらわしています。だいたい観測と合っていますが、なかには違っているものや計算には無いものもあります。このような観測を繰り返し、観測結果に合うように地球の内部構造モデルを修正していくことになります。図3で示されている現在の伸縮計の検出能力は5×10-13程度です。すでに世界最高の感度を達成していますが、感度がもっと良くなればより小さい振動も検出でき、より詳細な地球内部構造の解明に直結します。伸縮計の感度を高める努力を継続しています。





 図3 伸縮計で観測された地球の自由振動スペクトル



地下深部や海底下で観測できる機器を作る
 地球の微弱な信号をキャッチするには地下深ければその分信号に近づけます。また、地表のノイズを避けるにも有効です。しかし、ある程度以上深くなると地中の圧力により径の細い穴しか掘れなくなります。また、温度も上昇してきます。このような穴で観測をするためには、小さくて高温でも動作して、しかも精度の高い観測装置が必要です。そのようなものは市販されていません。じつは上述のレーザーはそのような用途に最適なのです。精度についてはすでに書きました。光で検出するので、半導体センサーのような使用温度の制限がありません。光ファイバーで長距離伝送することもできますし、光の波長を基準に設置後に装置の校正をすることができます。





 図4 レーザー傾斜計の概念図(左)と傾斜計部分の写真(右)。吊るされたおもり(右図の四角い枠の部分。10cm角)の動きをレーザー干渉計(おもりの内側の小さい部品)で検出する


図5 鋸山観測所の水管傾斜計(長さ40m)


 図4に現在試験を行っているレーザー傾斜計の概念図を示します。穴の中に設置された振り子の動きをレーザーで計ることによって地面の傾きを検知します。レーザー装置や光検出器は穴の外にあり、光ファイバーを通じて傾斜計とつながっているだけなので、電気的ノイズや発熱による本体の誤差を避けることができます。これまでの精度の高い傾斜観測には水管傾斜計(図5)が用いられてきました。これは管でつなげられた容器の中の水面を基準に地面の傾きを測るものですが、管の長さが水平に長いので地下深部の細い穴には設置できません。図の水管傾斜計も長さが40mあります。


図6 レーザー傾斜計と水管傾斜計の比較。(a)4日間の記録。地球潮汐が見える。(b)15時間の記録。海水の共鳴現象(セイシュ)が観測された

 この水管傾斜計とレーザー傾斜計の性能を地震研究所の鋸山観測所(千葉県)で比較してみました。図6(a)は比較した結果で、双方とも地球潮汐を記録しています。さらに記録を拡大してみると(図6(b))、37分ほどの周期のさざなみのような波形が見えてきます。いろいろ調べた結果、観測所近くの浦賀水道(東京湾の入口)で、海水の共鳴現象が生じていることがわかりました。海面が振動すると陸もわずかに傾斜します。その大きさは約30ナノラジアンで、100kmの距離が3ミリメートル傾くことに相当する微弱な量です。レーザーを使って、40mの水管傾斜計と同等の精度が直径わずか10cmの装置で実現できました。傾斜だけではなくいろいろな観測データが得られるように、ひずみ計や地震計もレーザーを使用したものを開発中です。

観測機器開発のおもしろさ
 2つの例を紹介しましたが、精度の高い装置を開発すればこれまでだれも見たことのない信号を最初に見ることができます。レーザーや多数の測定機器を使うので、物理や工学的な知識が必要になりますが、かといって実験室に閉じこもってばかりでなく、静かな山奥の観測所で性能をためしたり、神岡では地下1000mの場所で宇宙線研究所と共同で研究を行っています。このように、従来の地球科学の枠を越えて、いろいろな分野が絡んでくるおもしろさもあります。実際、私たちのグループには物理や工学の出身者もいて、宇宙線研究所や新領域創成科学研究科からの大学院生も研究をしています。現在は地球物理出身者が少ないのが寂しいですが、バラエティーに富んだ私たちと一緒に、ぜひ観測フロンティアを開拓してみましょう。