5つの研究グループ

地球惑星科学専攻では、5つの研究グループにわかれて研究・教育を行っています。
ここでは、それぞれのグループの研究分野について紹介します。

学生の声

地震はどのように起きるのか?
安藤 亮輔 (地震研究所 博士2年)

 

1.地震が起こるということをシミュレーションしてみよう
  地震学の目標の一つは,いつ・どこで・どのくらいの大きさの,地震が起こるのかを予測することです.ただ,予測をしようにも,科学的に未知のことがたくさんあり先は長そうです.ご存じのように,地震とは(1)プレートが沈み込んでプレートに歪みがたまり,(2)断層がその歪みを支えきれなくなった時点で動いて,(3)地震波が周辺に放射される,という自然現象です.未知の一つは(2)の,地震が「どのように始まり」,「断層のどの範囲が動き(破壊し),どの程度の大きさの地震になるか」ということで,地震発生物理学などと呼ばれる分野で研究されています.僕の研究ではこのあたりの現象を,シミュレーションによって研究して,地震学上の大問題に答えを出すのが目標です.そのために,“エアコンの効いた快適な”研究室(図1)の中でコンピュータ(図2)を使って地震を起こす毎日です.

図1.(左)研究室とエアコン. (右)同居人たち. 図2.僕の愛車.

 シミュレーションいう言葉自体は,コンピュータ世代の僕たちの周りでは良く聞くものですが,その実態が“ぶっちゃけ”市販のコンピュータゲームとどう違うのかは,あまり知られていないでしょう.僕たちの研究では,まず,一般的には非常に複雑な自然現象を,その現象を支配する法則の中でも重要だと思われる要素だけを取り出すことで,単純化した「モデル」(模型という意味)というものを作ります.例えば,最も単純な地震のモデルは,図3のような,回転するベルトコンベアーの上にバネに繋がれた箱を置いてやったもので作ることができます.次に,そのモデルの振る舞いをコンピュータで計算して,その特徴を調べます.実際にこのモデルを作って実験することも出来ますが,僕たちはコンピュータの中で実験するのです(このような単純すぎるモデルはあまり使いませんが).

図3.最も単純な地震のモデル.バネがあるところまで縮むと箱は滑り,もとの位置に戻る.

 もし,そのモデルが実際の自然現象を良く再現していれば良いモデルであると言えるし,ほとんど再現していなければ「何か」を見落としていた可能性があり,その「何か」を探し出してより良いモデルをつくる必要があります.市販のコンピュータゲームが,どこかのプログラマーが作ったゲーム(モデル)を受動的に動かして遊ぶものであるのに対し,研究の世界ではそのモデル自体を自分自身で能動的に作っていく,非常にクリエイティブな作業なのです.

2.僕の研究を具体的に
 自然に存在する断層をよく観察してみると,図4(左)のように,屈曲や分岐,飛びがあり決して一つの平面ではないことが知られています.しかしながら過去の研究では,屈曲した断層や微細な構造を持った断層を扱うのは,数学的に難しかったり,コンピュータの計算速度が十分に速くなかったりしたので,地震をシミュレーションするときには,図4(右)のように断層を一枚の平面で表してモデルとすることが一般的でした.

図4.(左)自然の断層の形の一例.1992年にアメリカのカリフォルニア州で発生した,ランダース地震の時に破壊した断層の形.断層を上空から見た図.(右)これまでよく使われている,断層を一枚の平面で表すモデル.

 ところが最近では,式1のような,屈曲した断層上で起こる地震をシミュレーションするための(複雑な!)方程式が導かれるようになり,加えてコンピュータの計算速度が飛躍的に進歩したため,屈曲や分岐した断層上で地震を起こすシミュレーションが実行できるようになりました.

 「それなら地震予知は間近なのか?」と思われるかも知れませんが,分からないことはまだまだあるのです.これまでのシミュレーション研究の多くは断層の形は決して変化しないものと見なしていて,地震はその決められた断層上でいつも同じように起こると見なしていました.しかし実際の地震の繰り返しパターンを調べてみると,その周期やマグニチュードがまったく同じである場合はほとんどありません.このような複雑さつくる要因はいくつか考えられていますが,僕たちの現在の研究では,複数の断層がお互いに影響し合うこと(「断層間相互作用」と呼びます)と,断層の形状が変化することが,この複雑さを作り出す要因ではないかとターゲットを絞って,モデルにこの二つの要素を取り入れたシミュレーションを行っています.

 まず,シミュレーションで作った破壊(断層のずれ)が伝わっていく様子をお見せしましょう(図5を見て下さい).これは右横ずれ断層を上空から見た図です.時間は左から右へと経過していきます.アニメーションにすれば多少かっこいいのでしょうが,大変なのでやめておきます.二つの断層があるのが分かりますか?右上にある断層は,過去に破壊して地震を起こした断層(旧断層)で,現在は止まっています.左の図を見て下さい.ここでまさに,左下の断層の破壊が開始され(新断層と呼ぶ),既存の割れ目の上を伝わっていきます.次に,中の図を見て下さい.新断層の右端は既存の弱面の端に達しますが,新断層はまだ割れ目のない領域を破壊し始めて,あらたな断層面が形成されます.ここで,破壊は屈曲して伝わっていることに注意して下さい.これが,最近になって重要だと考えられるようになってきたことです.最後に,右の図を見て下さい.新断層は旧断層と結合したことが分かります.

図5.断層が成長していくようす.右から左へと時間は経過している.灰色の線は既存の弱面を,赤色の線は破壊した部分を示す.

 次に,二つの断層の最初の並び方によって,断層はいろいろな形になることをお見せしましょう.図6を見て下さい.二つの断層の最初の位置関係が違うだけで,新断層の形がいろいろ変わっていることが分かると思います.

 ここではお見せしませんが,僕たちのシミュレーションによって,断層が結合すると破壊が,新断層から旧断層の方へ乗り移って伝わることが分かりました.このことは,地震の大きさ(マグニチュード)が,断層が結合しない場合に比べて,より大きくなることを意味しています.断層の形が,地震の大きさに影響するとはこういうことです.地震の大きさを予測するためには,断層がどういう形をしているか,さらには,どういう形になるかを知ることが重要だということが分かりましたよね?

図6.断層の形と最初の位置の関係.それぞれの図では,4つの場合が示してある(赤から紫で色分け).×は旧断層の中心点.

実際に自然界に見られる断層の形と比較してみましょう.図4(左の拡大図) と図5 を見比べてみて下さい.向きが左右反対なのでその辺りを気を付けて見て下さいよ.二つの大きな断層が小さな断層(拡大図の赤線)で結合されている様子が,よく再現されていると思いませんか?“ビミョウ…。”と思われるかも知れませんね.今はそれでも結構ですよ.もしあなたがこの分野に足をつっこむことになれば,きっと“なんと!”と思うことになるはずなので.このように,これまで無視されてきた断層の屈曲などの非平面形状が,実は,地震が起きたときに地震の大きさ(マグニチュード)を決める重要な要因で,今まで見落とされていた「何か」だったのです.

3.志望動機と今の研究生活などを
 さて,進学先を迷っている受験生の皆さんの参考になるように,”ぶっちゃけ”どこまで役に立つかは分かりませんが,なぜ僕が,地震の発生現象というものを,しかも理論的に研究するようになったのかを,ここで少し振り返ってみましょう.

 僕が大学受験をしていた1995年に兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)が起きて6000人以上の人が亡くなりました.また,その後も,いつまでも仮設住宅に住まなければならない人がいたり,老人がそこで孤独死したり,多重ローンを抱えてしまったり,精神的外傷から立ち直れなかったりなど,地震が人間社会にもたらした影響は数え上げれば切りがありません.その事実は,思春期の少年に大きなショックを与えたようです.

 ただ,そのようなショックを受けただけでは,おそらく自然科学の研究をしようとは思わなかったでしょう.

 学部生の時に物理学の授業を受ける中で,目の前で繰り広げられている現象が,数個の物理法則で何ともエレガントに説明できるのを“すげ~”と感動したことが大きな契機です.そのモデルを表す理論を使えば,「はい,どうぞ」とその後が予測できるのです.ただ,大学院に入り実際に研究を始めてみると,そんなエレガントさは“ぶっちゃけ”非常にまれで,逆に,エレガントとは,研究課題が無くなることだというのを知りましたが.それから物理学の分野の一つに,非線形物理学というものがあります.従来の物理学の考え方で作るモデルでは,単純なモデルは単純な振る舞いをしていました.それに対し,非線形物理学の考え方で作るモデルでは,単純なモデルでも複雑な振る舞いをします.単純なものから複雑なものが生まれるのは,複雑な自然現象を単純なものから説明できる可能性を示しています.その良い例題が,地震という自然現象にたくさんあったことが,僕を地震の研究に向かわせた大きな理由です.

 僕の研究は,何日もフィールドに出て観測したり,一日中装置に付きっきりで実験したりする必要が無く,脳味噌,紙と鉛筆,ノートパソコンがあれば,半分くらいの仕事は出来ます.ですので,疲れると(図6)よく気晴らしに研究室を抜け出して,近所を散歩しながら思考実験したり(図7),近所の○○バで濃い~ブラックを飲みソファーを占領しつつコンピュータプログラムを書いたり(図8),論文を読んだりしています(お店には迷惑かもしれませんが…).場所や時間はあまり選びませんが,絶対的な研究時間は必要なので,深夜まで研究室にいる日々(?)です(図9).そうそう,学会発表をしに海外へ行くこともあります.

図7.(左)散歩へ出発. (中)谷根千をブラブラ. (右)ボチボチ帰るか.
図8.ノートパソコンとブラックコーヒー. 図9.深夜の地震研...

 もし皆さんの中で”これは!”と思う方がいれば,僕のいる地震研究所の研究室にでも遊びに来て下さい.自分の目で確かめてみるのが一番でしょう.散歩に出かけていなければお相手します.

参考ウエブサイト:

  1. 安藤のサイト
  2. 指導教官のサイト
  3. 地震研での所属部門
  4. 地震研究所  →地図