5つの研究グループ

地球惑星科学専攻では、5つの研究グループにわかれて研究・教育を行っています。
ここでは、それぞれのグループの研究分野について紹介します。

学生の声

高緯度に発生する不思議な渦 ~ ポーラーロウ ~
柳瀬 亘(海洋研究所 (現:大気海洋研究所) ・博士課程2年生) 2003年3月現在

 

私の研究テーマは日々の天気に大きく関わる低気圧です。 20世紀前半までによく知られた低気圧として、中緯度の温帯低気圧(温暖前線や寒冷前線を持つ)と低緯度の熱帯低気圧(台風やハリケーンなどの総称で、 スパイラルバンドや眼を持つ)があります。

1. 気象衛星がとらえた不思議な渦
1960年代から始まった衛星観測により地球全体が眺められるようになると、これまでは観測が困難であった海洋上の大気に多くの新しい現象が発見されました。図1のような低気圧(渦巻き)は、その一例です。一見、普通の熱帯低気圧(図2)のように見えますが、この低気圧は、北緯70~80度という非常に高緯度に位置するバレンツ海上で発生しています。一般に熱帯低気圧が発生する海面水温の条件は26度以上であると言われてますが、この時のバレンツ海の海面水温は10度以下であり、この条件を満たしていません。また、雲パターンの水平スケールは熱帯低気圧の場合1000km以上あるのに対し、このバレンツ海の低気圧は700km程度と小さめです。

このように高緯度で発生する水平スケール200~1000kmの低気圧は「ポーラーロウ」(polar low; 極域の低気圧という意味)と呼ばれ、ここ数十年間の衛星観測により、世界各地の高緯度海域 (北海、グリーンランド海、ラブラドル海、べーリング海、南極大陸周辺など) で頻繁に発生していることがわかってきました。ポーラーロウが発生する典型的な状況は、冬季に冷たい陸(または海氷)上で形成された寒気が相対的に暖かい海上に吹き出しているような時です。このような状況では海から大気へ多量の熱と水蒸気が供給されていて、積雲対流が活発になり、高緯度でも熱帯低気圧と似たメカニズムがはたらくのではないかと一部の研究者は考えています。

2. 低気圧の発達メカニズムの組み合わせ
図3はノルウェー海上の雲を様子を示しています。横に伸びるバンド状の雲(約1000km)が見られ、その左端が渦状に巻いているのが見られます。最初に示した低気圧とはずいぶんと見た目が異なりますが、これもまたポーラーロウの一種です。こちらは熱帯低気圧というよりも、むしろ中緯度に発生する温帯低気圧 (図4; 水平スケールは2000km以上)を小さくして 90度回転させたように見えます。温帯低気圧は水平方向の温度差をエネルギー源として発達するので、南北の温度差の大きい中緯度で発達します。日本付近では春や秋に、温帯低気圧が西から東へと次々に流れ、約1週間の天気の周期変化を起こしています。さて、ポーラーロウが発生する高緯度の場合は、中緯度のように大きな南北温度差ありません。しかし、冬季の冷たい陸(または海氷)上の寒気と暖かい海上の暖気との間に水平温度差ができるので、ポーラーロウはそれをエネルギー源として発達するのではないかと考える研究者もいます。

このようにポーラーロウは、熱帯低気圧に似ているものと温帯低気圧に似ているものとがあります。当然、両方の性質を合わせ持つもの多くあります。熱帯低気圧と温帯低気圧のメカニズムを組み合わせると、ポーラーロウの大きな発達率や小さな水平スケールが説明できるという理論的な研究もあります。しかし、2つのメカニズムは単純な足し算ではなく、効果的に相互作用する場合としない場合とがあり、さらなる研究が必要です。 このような組み合わせは、ポーラーロウだけではなく、爆弾低気圧と呼ばれる非常に強い温帯低気圧や、 6~7月に日本付近の梅雨前線上を通過する小低気圧でもはたらくことが指摘され、低気圧を包括的に理解するのに重要な概念です。

3. こんなに身近なところにも
日本海にもポーラーロウがしばしば発生することが、 1990年代の研究を中心にわかってきました。日本海の緯度は高くありませんが、冬季に強い寒気を形成するユーラシア大陸と暖かい対馬暖流の存在が、ポーラーロウの発生しやすい環境を形成していると考えられます。主に12~2月の西高東低(日本の西側に高気圧、東側に低気圧)という気圧配置によって、大陸から日本海に冷たい北風が吹き出している時に、衛星画像や天気図上の小さな低気圧として見られることがあります(図5)。日本海のポーラーロウは、日本海側の地域に豪雪を降らせたり、 7千トン級船舶の遭難(1981年2月; 北海道松前沖)や強風による列車転落(1986年12月; 山陰線余部鉄橋)といった災害を引き起こしたりなど、社会的にも大きな影響があります。

例として,北アフリカにおけるTRMMの一日分の観測結果を合成した図を示します.図3では陸上の観測軌道を白抜きで示してあり,色がついているところは雨が観測されたことを意味しています.アフリカ大陸北西部の赤い丸で示した地域で,降水が観測されています.これと同じ日の,上空約1500mにおける風向き・風速・比湿(この値が大きいほど大気が湿っていることを示す)を図4に示しました.二つの図を比べてみると,降水が観測された地域で,湿潤な大気が北に入り込んでいることがわかります.

4. モデルを使った気象の実験
私の現在の研究では、ポーラーロウを数値シミュレーションで再現し、その構造や発達メカニズムを調べています。シミュレーションには、気象研究所と気象庁数値予報課で開発されたモデルを用い、大気の風や温度、雲の量などの時間発展を計算します。


このモデルでは、実際の地形や海面温度の影響も考慮して、ポーラーロウが発生する前の大気のデータを初期値として与えることができるので、現実に近いポーラーロウの発達を再現することができます。ポーラーロウの再現に成功すると、観測では得られない細かな内部構造を調べることができます。例えば図6で示した日本海上のポーラーロウのシミュレーションでは、台風と似て中心が暖かい構造であることがわかりました。また、シミュレーションの中でばらまいた粒子の流れを追跡することで、ポーラーロウの3次元的な構造を調べることができます(左の図)。さらに、仮想的に海面からの熱供給や雲の凝結熱を取り除いてみたところ、ポーラーロウが余り発達しなかったことから、これらの物理過程が重要だということもわかりました。

ポーラーロウの発達には、熱帯低気圧と温帯低気圧のメカニズムが同時にはたらいている可能性があると述べましたが、地形や周りの大気の影響が大きい実際の現象では、このことを確認することは困難です。しかし、モデルでは地形などを取り除くことは簡単にできます。熱帯低気圧のメカニズムに必要な凝結熱・海面熱供給の効果と、温帯低気圧のメカニズムに必要な水平温度差だけを考慮し、他の要因は入り込まない単純な大気環境を与えて実験をしてみました。図8は、その実験の雲パターンを示しています。水平温度差が全くない時には、熱帯低気圧のような軸対称のスパイラル構造のポーラーロウが発達し(図8左)、南北温度差を入れると中心から長いバンドが伸びるポーラーロウが発達しました(図8右)。このように、雲パターンの違いを環境場の違いで説明できることを確かめることができました。 現在は、環境場をいろいろと変化させた時の雲パターン、内部構造、 2つの発達メカニズムの寄与率の違いなどを調べています。

図8: 単純な環境場を与えた実験 (左)南北温度差なし (右)南が暖かく北が冷たい

5. 低気圧の研究を選んだ動機 ~自然界のパターン形成の不思議
私が高校生の頃は、授業で習う知識で理解できる星の動きや月の満ち欠けなどが好きで、天文部に入ってよく星を眺めていました。しかし、不幸なことに私は曇り男だったようで、せっかく都心から離れて遠くに行っても悔しい思いをしてました。そこで、星が見えないなら雲を見てやれと思ったのがきっかけです。どこにいても空は見えますし、最近ではインターネットで衛星画像や日本各地のさまざまなデータがリアルタイムで見られます。気象学は、実際の現象に常日頃から触れられる身近な科学の一つです。 気象学を学び始めた頃は、星の動きと同じように気象も簡単な法則で理解できることを期待していました。しかし、実際はそう単純ではありませんでした。特に、大学生の初めに熱力学で習ったのはものごとが均質になっていく話だったのに、気象では低気圧のようなパターンが自発的に形成されます。その後、自発的なパターン形成は気象のような流体だけでなく、化学反応、生物個体の形成、生物集団の振舞いなど広い分野に現れる概念であることを知りました。低気圧の発生・発達メカニズムの理解を深めると同時に、他の分野のパターン形成にも触れて行き、いつか天体の動きと同じような簡単な解釈ができると良いなと思いつつ日々研究を進めています。

リンク
気象庁の衛星画像 : 本日の低気圧の様子。アメダスやレーダーも。

インターネット気象学 : 世界の気象、高層大気の様子。気象の解説など。

海洋研・海洋物理学部門 : 海洋大気力学分野と海洋大循環分野があります

European Polar Low Working Group : 動画や南半球のポーラーロウの衛星画像など。


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