5つの研究グループ

地球惑星科学専攻では、5つの研究グループにわかれて研究・教育を行っています。
ここでは、それぞれのグループの研究分野について紹介します。

研究・プロジェクト紹介

海の空気を測る
植松 光夫(大気海洋研究所海洋科学国際共同研究センター)

 

はじめに
硫黄酸化物・窒素酸化物の排出量(固定発生源) 我々を取り巻く状況などを環境といっています。科学の分野における環境は、一般的に、地球上のありとあらゆる場所を対象としたものであり、我々を取り囲むものすべてが研究対象となっています。現在、環境に対する関心は非常に高く、成層圏にあるオゾン層の問題、越境汚染などが取りざたされています。

大気中に存在する汚染物質。これが、東アジアから遠く太平洋、果てはアメリカ大陸まで運ばれています。汚染物質の指標となる物質、窒素酸化物や硫黄酸化物は、人体への影響が非常に大きく、現在規制の対象となっています。日本においては、昭和43(1968)年に大気汚染法が施行され、それ以後、年々減少し、いまでは年間窒素酸化物は、約800万トン、硫黄酸化物では800万トンとなっています1)。

しかしながら、経済発展が著しい東アジア諸国では、日本と比べてこれらの排出量は多い状況となっています。特に、人口を多く抱え、2008年にオリンピックを控える中国は、東アジアで最もこれらの発生が多い地域となっております。中国における一次エネルギー消費量は、日本と比較して約2倍ですが、化石燃料、特に、石炭が占める割合が50%を超えています2)。このため、石炭を中心とした化石燃料に含まれる硫黄分などが大気中に放出され、その後、その一部は、海を越えて、日本へと輸送されます。例えば、私の研究では、北海道の利尻島などにおいて観測した場合、非海塩性(海水にも硫酸イオンが含まれるために、海水中の硫酸イオンを除いた)硫酸イオンの濃度は、通常、春先では、1~2μg/m3ですが、10μg/m3程度の濃度が観測されたりします3)。このように、人為活動によって大気中に放出される硫黄分は、亜硫酸ガスと、大気中で酸化されて硫酸となります。よって、これらの濃度など挙動を見ることによって、汚染物質の輸送や輸送の形態などが分かります。

硫酸塩の働き
硫酸塩の働き 大気中にある硫酸塩は、微粒子(エアロソル)として存在し、その後、アンモニアなど大気中の塩基性物質と反応したり、雲の凝結核となったり、海塩粒子と反応するなどし、最終的には、地表面へ沈着します。これら、硫酸の発生源は、(1)工業などの活動によって放出される、すなわち、人為起源、(2)海水中に含まれる、海塩起源、(3)生物活動によって海洋中などで生産され放出される生物起源、(4)火山活動によって放出される、火山起源などがあります。この硫酸エアロソルは、雲の凝結核となり、太陽光を遮断するなどし、地球の気候変動に大きく寄与していることが知られています。近年では、特に、生物起源硫黄化合物が、人為起源の硫黄化合物と比較して、無視できない量が存在することが言われています。それゆえ、硫黄化合物の中で、現在、最も注目を浴びているのが、海洋生物起源の硫黄化合物です。現在知られているのは、植物プランクトンによって生成されたジメチルスルフィドなどが、海水中から大気中に放出され、酸化を受けて硫酸となり、この硫酸が雲を促進し、結果として、地球に到達する太陽光をさえぎり、地球の気候変動に影響を与えるということが言われています。地球全体の硫黄放出量は、世界規模で見た硫酸の元となる硫黄化合物を含めて、硫黄放出量として、約100TgS(硫黄換算で1 億トン)と見積もられています。海洋から放出されるものは、その約1/3を占めるという報告があり、気候変動への影響を考えた場合、その放出量は無視できず、正確な放出量の見積もりが必要です。

また、日本の硫黄放出量は約100万トン/年といわれていますが、近年、三宅島が噴火し4千~1万数千トン/日もの硫黄を放出しています。このように、正確な硫黄放出量を把握することが必要となってきます。

観測地点の立ち上げ
このように、さまざまな地球環境上の現象を捉えようとした場合、長期間に同一観測地点での観測などが必要となります。私の場合は、日本を140度線上に位置する利尻島、佐渡島、八丈島、父島の4つの地点を選び、その観測地点で、東アジアやシベリアなどから輸送されるエアロソルなどを観測しました。

しかし、通常、観測は直ぐには行えず、綿密な準備が必要となり、観測設置をするには、地道な作業が必要となります。まずは、観測地点を決定し、その上で、観測機材を設置する小屋などを建設、そうして、機材を運びこみます。運んだ機材が動くことを確認し、僻地へと電柱を立て、電源を確保します。その上で、観測が開始されます。人が付きっ切りで観測を行ったり、無人で行ったりします。時には、観測が順調に進むとは限らず、停電に遭ったり、台風によって浸水したりなど、さまざまな困難と遭遇します。

VMAP観測網 父島観測地点
八丈島観測地点 利尻観測地点
左上図: VMAP観測網, 右上図: 父島観測地点 左下図: 八丈島観測地点, 右下図: 利尻観測地点

さて、観測点を設置し、観測を始めてから、エアロソルが東アジアや大陸から与える影響や、海洋大気による影響などを観測してきました。そのなかから、特有の大気科学の現象について話してみたいと思います。

黄砂現象
2001年4月7日における人工衛星(SeaWifs)の写真 東アジアにおける春季の重要な大気現象として、黄砂があります。これは、中国内陸部のタクラマカン砂漠、ゴビ砂漠などの土壌が上空に巻き上げられ、低気圧などに乗って、日本やアメリカ大陸などに運ばれる現象を言います。日本各地でも、春霞や靄のような現象として捉えられることがあります。いままでも、地上における観測や人工衛星による観測によっても、黄砂の東アジアから日本や太平洋への流入が知られていました。

黄砂における特徴的なことは、黄砂は土壌ですから、その指標となる元素や物質を観測する事によって、評価することが出来ます。黄砂の指標としては、アルミニウムなどがあります。

私の研究においては、利尻島において大規模な黄砂現象を捉えることができました。利尻における黄砂の指標として、アルミニウムなどの濃度変化を調べることで、地上において黄砂の影響があるかどうか調べることが出来ます。

右図には、2001年4月7日における人工衛星(SeaWifs)の写真を示します。4月7 日頃、中国北部で発生した黄砂を含んだ砂嵐は巻き上げられ、その後、低気圧とともに北日本上空をかすめ、北大西洋まで運ばれました。この現象(Asian Dust)を利尻島において捉えました。右図に示したように、それまで、低濃度だったアルミニウム(Al)が、黄砂が運ばれた4月10日前後、地上の利尻観測所では、Al濃度が上昇していることが分かります。これは、大陸からやってきた大気に乗って黄砂が飛来したことを意味しています。

現在では、この黄砂は外洋に運ばれて海水中に落ち、この黄砂中の微量元素が元となって、海水中の植物プランクトンを増殖させる効果があるといわれています。単なる春霞といっても、地球規模で見れば、黄砂は遠い海の生態系を変える要素を持っています。

無人海洋大気観測艇「かんちゃん」
無人海洋大気観測艇「かんちゃん」 このような観測を行っていく上で必要なことは、いかにして重要な地点で新たな現象を解明するかということです。そういった意味で、地上観測点は、固定観測点であるため、長期間観測には向いていますが、必ずしも、重要な現象を捉えられるということはありません。このため、飛行機や船舶といった能動的な観測が必要となってきます。しかしながら、このような観測は、コストが大きくなり、研究の持続性が問題となります。また、地球規模での輸送などを調査するためには、長期間観測を行うことが必要となってきます。そのため、東海大学、ヤマハ発動機(株)、紀本電子工業(株)の共同で海洋観測に適した無人海洋観測艇を開発しました。
この無人海洋観測艇は、陸上からの指令で海上を移動し、海洋中の成分は元より、大気中のエアロソルの組成などを観測する世界初の観測艇です。この無人観測艇は、2000年に進水しました。わたしは、「環境」、「観測」、「監視」、「地球の看護」、「勇敢」、「自律帰還」、「感動」の意味をすべて込めて、「かんちゃん」と名づけました。現在、無人大気観測艇「かんちゃん」は、観測を続けております。

かんちゃんは、2001年度に観測航海を行い、海洋上で無人の状態で三宅島からの火山噴煙を捉えるこことに成功しました。「かんちゃん」は、静岡県清水を出航し八丈島に向かう航海の途中、伊豆半島で一次停泊した後、海洋中の成分の観測と平行して、エアロソル及び、大気中ガス成分の観測を行っていました。通常、非海塩性硫酸濃度は数十neq/m3(硫酸1μg/m3≒21eq/m3)と低濃度でしたが、南下するに従って、濃度が上昇してきました。そして、2001年5月25日に無人観測艇としては世界で始めて、火山ガスを捉え、観測に成功しました。このとき、非海塩性硫酸塩の濃度は上昇し、100neq/m3を超える濃度を検出しました。

現在、「かんちゃん」によって、日本を離れてハワイに向かう航路上で観測の計画を立てています。こんな「かんちゃん」は、全長8mと小ぶりな船体ですが、地球科学を解明する上で重要な手段となっていくことが期待されます。

最後に
地球上のさまざまな自然現象を解明していく上で重要なことは、もちろん、研究目的の設定とそれを支える手段です。研究目的がいかに良くてもその手段がまずければ、横たわっている現象を解明することは出来ません。研究にとって大切なことは、当たり前のことだと思いますが、研究の目的と手段をバランスよく設定し、持っている知見を増やすことです。そして、分からないことを知りたいというなんでやろという強い好奇心、おもろいと思う気持ちではないでしょうか。

参考資料
1. 環境白書、環境省(2002)
2. エネルギー関連基礎統計、外務省(2002)
3. Matsumoto K, Uyama Y, Hayano T, Tanimoto H, Uno I, Uematsu M,
  accepted to J. Geophys, Res. 2003.
4. http://senlab.oi.u-tokai.ac.jp/kan/kan-index.html