学生の声

大学院での生活と研究
大島 長(大気海洋科学講座 博士2年) 2005年6月現在

1. 大学院受験と研究室の決め方
私は、学部時代は東大の地球惑星物理学科(地惑とか地物という)に所属していました。いきなりですが、東大の地惑4年生には卒論がありません!!つまり研究室配属がないので、研究生活がどのようなものかがよく分からないまま、院試の時期になってしまいます。授業の一環の特別演習として、週2回くらい演習担当の教官のところに行き演習を行うことはありますが、研究室に配属されるわけではないので、研究がどういうものかがよくわかりません。私の感想ですが、大学院受験の準備では、試験勉強も大事ですが、研究室を決めることの方が大事だと思います。では研究室の決め方ですが、まずは自分が興味を持っているテーマを研究しているorしようとしている教官を探します。教官とメール等で連絡をとったら、直接訪問をして話を聞きに行きます。自分の興味が明確な人はよいですが、興味がぼんやりとしている人は(私自身もそうでした)教官方と直接話しをして、何ができるか等を具体的に聞いた方がよいと思います。話をすることで考えがはっきりすることもあります。もう一つ大事なことは、興味のあるテーマを「どのような手法」で研究するのかを知ることです。例えば、私の所属する大気海洋では、理論、データ解析、モデリング、実験・観測などがあげられます。もちろん、理論だけとか実験だけといったことはありませんが、それぞれ教官が得意とする手法があるので、研究室によって研究スタイルが異なります。研究スタイルですが、理論、データ解析、モデリングなどは基本的には院生部屋にいて個人のパソコンで作業をすることになります。実験・観測の場合は、院生部屋での作業の他に、実験室での作業やフィールドに出ること(観測)もあります。私の所属する研究室では、飛行機観測(日本、太平洋、熱帯域、北極など)や地上観測(都市や島など)を行い、観測データを取り、その結果をデータ解析、モデリングなどを用いて研究を行っています。研究室選びはとても大事ですので、研究室訪問も1度だけではなく、納得のいくまで訪問をしてよいと思います。興味を持って訪問をすれば、きっと教官方は歓迎してくれると思います。

次に院試ですが、私の時は、英語+選択科目2個(数学、物理、化学、生物、地球科学)+小論文でした。私は数学と物理を選択しました。教官によっては、要望科目(指定科目)を設定しています。私は試験の過去問を中心とした勉強をしました。過去問は地惑の事務室でコピーをもらいました。試験は(おそらく)基本的な問題がでると思うので、普段から勉強をしていれば特に問題はないと思います。小論文ですが、これは面接のための資料となり、研究室決めの資料となります。自分の興味、やりたいことなどを素直に具体的に書くといいと思います。さいごに試験ですが、まじめに受けることをすすめます。(私の時は)院試の成績が奨学金をもらう判断材料になりました。

2. 大学院の生活
修士課程1年
研究室に入りますと、自分の机とパソコンが割り当てられます。自分の居場所ができるので、これからは基本的には自分の机で作業を行います。部屋には8-10人くらいの学生がいて(新1号館の場合)、他の研究室や講座の学生も一緒です。色々と違った話ができるし、知り合いも増えるので楽しいことが多いと思います。修士1年の生活は授業、輪講(研究室内での教科書や論文の輪読)、セミナー(みんなの前に出て研究発表や論文紹介をする)が中心になると思います。M1の頃は授業数も多く、輪講やセミナーの準備に時間がかかると思います。授業の単位はなるべくM1のうちにとることをすすめます。本郷キャンパス以外の学生(気候センターや宇宙研など)は、本郷での授業を受けるために遠くから通うことになるので、効率よく授業を受けてください。カリキュラムも関連性のある授業は同じ曜日になっていることが多いです(たぶん)。研究生活ですが、まわりの先輩方は夜型の人が多いと思いますが、M1は午前中から授業があることが多いと思うので、遅くまで無理をせずに帰りましょう。まだ先輩が残っているから私もいなくては、などと思わなくていいです。先輩方はいつも遅く帰るので、早く来られないのです(きっと)。冬になりますと、就職するのか進学するのかの進路を決めなければいけません。就活の時期の都合上、入学して1年もたたないうちに進路を決めなければいけないので、その判断はなかなか難しく、多くの人が悩みます。

修士課程2年
M2になるとだんだんと研究生活らしくなってきます。大学院の生活も色々と分かってくるので、過ごしやすくなると思います。研究がまとまってくれば、そのテーマでセミナー発表や学会発表を行う機会もあると思います。秋になると修士論文の中間発表があります。今までの成果の発表ですから、日頃の努力の積み重ねが反映されるわけです。中間発表の頃からだんだんと忙しくなり、修士論文を提出する1月末は非常に忙しくなります。ちなみに私の同期は、提出直前の数日間は毎日大学に泊まっており、1つしかないソファーベッドでいつ誰が寝るかの順番を決めていました。(もちろん、早めに成果が出ていれば徹夜しないでも大丈夫です。)2月の前半に修士論文の発表会があり、2月末に最終版の修士論文(保存用)を提出することで、修士論文が完成します。

博士課程1年
D1は修士論文が終わり一息つける時期といわれています。私の場合はM2の終わりから投稿論文を書いていたのでD1の4月、5月が一番大変でした。博士になりますと、だんだんと研究の位置づけなどが分かってきます。後輩の研究の手助け(技術面以外のこと)もできるようになると思います。学外の研究者との交流も増えてきます。学会発表などを何回かしていくうちに、学外の研究者に名前を覚えてもらえるようになり、研究テーマについて議論をすることもあります。国際学会では、著名な研究者と話す機会もあり、有意義な意見をもらえることもあると思います。博士課程の前半では、修士の研究成果をまとめて、投稿論文を書くことが多いようです。研究を論文にまとめ、学術論文として発表することは研究者にとって非常に重要です。

学会、シンポジウムについて
たいていの場合、研究室が所属する学会に参加することになります。私の場合は、年2回定期の日本気象学会と大気化学研究会に所属しています。気象学会は、春は関東、冬は地方で行われます。大気化学研究会は冬に愛知で、春には色々な場所で行われます。開催場所は主催する組織の近くの場所になることが多いです。学会発表は義務ではありませんが、成果が出たらなるべく発表をした方がよいと思います。人前で決まった時間内に発表し、質疑応答をすることは、なかなか難しいことですが、よい勉強・経験になります。私の経験ですと、何回か発表を重ねていくうちに、新しく見えてくる課題や難しさに気づくことが多く、自身の成長のためにも発表はよい経験になりました。また、学会は多くの研究者が集まる場でもあるので、研究についての議論や有意義なコメントなどがもらえる貴重な場でもあります。どのくらいの頻度で学会に参加するのかは研究室により異なりますが、チャンスがあれば参加した方がよいと思います。時間があれば、学会ついでに少し遊ぶこともできるかもしれません。これも学会の楽しみの一つかもしれません。国際学会・国際会議も様々なものがあります。有名な学会ではAGU(アメリカ地球物理学連合)などがあり、定期的に国際会議が開かれています。(AGUはJGRやGRLなどの論文を出しています。)他にも多くの国際会議、ワークショップなどがあり、研究生活を続けていれば発表をすることもあるでしょう。国際学会・会議の発表は当然英語なので、英語の勉強もしておいた方がよいと思います。

奨学金とアルバイトについて
奨学金で有名なものでは、日本学生支援機構奨学金(昔の育英会)があり、多くの学生がお世話になると思います。私も修士のときは育英会の奨学金にお世話になりました。おおまかには成績と(親の)収入で採用が判断されるようですが、第1種(無利子)は修士では何割かの人が、博士ではほとんどの人がもらえると聞いています。博士課程からは、日本学術振興会(学振)からの研究奨励金の支給制度があります(特別研究員DCへの採用)。学振はなかなか当たらないと言われていますが、通ると支給金の他にも研究費(科研費)が使えるというメリットもあります。学振の採用基準は、申請書類の内容、研究成果(論文、学会発表)などです。申請書類を書くのは大変ですが、だめもとでもいいので、申請をすることをおすすめします。また他の支給金として、地球惑星科学専攻のCOEのアシスタントに採用されるという方法もあります。アルバイトですが、やっている人は多いと思います。印象では、家庭教師や塾講師が多いと思います。私は修士の間は家庭教師をやっていました。また大学院ではTA等のバイトもありました。忙しくなるとバイトも大変になってきますが、お金は必需なのでうまくやっていかねばなりません。

3. 研究内容
ここでは私の研究内容について書きたいと思います。私の興味は、地球上に存在する様々な大気物質(気体やエアロゾルなど)の時空間的な分布や組成を知ることです。大気物質の分布は物理学的な輸送過程(空気のラグランジュ的な流れや降水などによる除去過程)と化学的な変容過程(物質の化学反応など)によって支配されています。これらのメカニズムを解明するために、大気物理学(気象学)と大気化学の考えを基にして、観測データの解析やモデリングをすることで研究を行っています。地球の大気には多く種類の微量気体が存在しており、非常に重要な役割を果たしています。ではなぜ“微量”な物質が大事なのでしょうか?例えば、有名な二酸化炭素(CO2)を例にします。CO2は大気中に約0.04%というわずかな存在量ですが、もし濃度が2倍(0.08%)になったら、地球温暖化問題でも騒がれているように気温が上昇したり、海面水位が上昇したり、降水分布が変化したりと様々な現象が生じる可能性があるといわれています。2倍になっても、たかが0.08%ですが、このたったの0.08%が地球の環境を十分に変化させる可能性を持っているわけです。同様にオゾンも微量気体ですが、成層圏にオゾン層が存在するおかげで地上の生物が生きていられるわけです。また最近、大気化学の分野で注目されている微小粒子(エアロゾル)も気候を考える上で非常に重要です。このように地球の気候や環境は微量な物質によってコントロールされているので、大気中の微量な物質の分布やその動態を知ることは非常に重要です。 私は修士課程では、航空機観測のデータを用いて、アジアの地表から排出された微量気体の空気(例えば一酸化炭素COなどの汚染空気)が、どのようなプロセスで広域に長距離輸送されるのか、という研究を行いました。長距離輸送とは、例えばアジア起源の物質(汚染空気など)がアメリカやヨーロッパなどへ飛んでいくことを言います。長距離輸送では、物質の鉛直輸送(上方輸送)が重要なプロセスです。地表起源物質が上空に輸送されると上空は風速が速いために物質は広域に輸送されます。また、上空では地表と比べて物質の寿命がのびる効果もあり、さらに長距離輸送されやすくなります。実際に、アジア起源の物質をアメリカの西海岸域で行われた航空機観測で捉えることに成功しています。私の研究では、2002年の春季において、中国華中地域の積雲対流活動(雲がモコモコっとなり、物質が一緒に上昇する)が地表起源物質の長距離輸送において重要な役割を果たしていたことを示しました。このような輸送プロセスは季節や場所によって異なります。これらの研究成果は学術論文として、2004年にJGRで発表されています。現在は、さらにエアロゾルに着目して、モデリングをすることで輸送過程、化学過程の研究を行っています。(参考文献を参照)

4. おわりに
最後に、大学院での研究に必要だと思うものを書きます。研究では(何事もそうかもしれませんが)論理的な考え方や物理学的な考え方がとても重要です。これらの考え方をもとにして、研究は成り立つのです。学部時代は基礎的な勉強が大事だと思います。専門的知識は大学院に進学してからでもよいと思います(もちろん、早い時期に勉強しても構いません)。さらに大事なことは興味をもって研究をすることだと思います。数年前にドイツのクルッツェン博士(ノーベル賞受賞者で大気化学の第一人者)とお話しをした時に「研究でとても大事なことは興味を持ってやることだよ」とおっしゃられていました。これから進学する皆さんも、興味を持って研究に取り組み、様々なことを学び、充実した大学院生活を過ごして下さい。

参考文献
Oshima, N., et al. (2004), Asian chemical outflow to the Pacific in late spring observed during the PEACE-B aircraft mission, J. Geophys. Res., 109, D23S05, doi:10.1029/2004JD004976.
Parrish, D. D., et al. (2004), Intercontinental Transport and Chemical Transformation 2002 (ITCT 2K2) and Pacific Exploration of Asian Continental Emission (PEACE) experiments: An overview of the 2002 winter and spring intensives, J. Geophys. Res., 109, D23S01, doi:10.1029/2004JD004980.

参考ホームページ
小池研究室
http://www-aos.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~koike/
ITCT (航空機観測)
http://www.al.noaa.gov/WWWHD/Pubdocs/ITCT/
JAXA/EORC (航空機観測)
http://www.eorc.nasda.go.jp/

図の説明
図1: 気象学会(秋) -- 学会のついでに色々な所に行くこともできます。眺めもよいです。(宮城県)
図2: 国際学会(冬) -- 景色がきれいです。イルカがいました。(ニュージーランド)
図3: 航空機観測の写真(アメリカの航空機) -- 空を飛びながら測定をします。機内には、多くの実験装置がのっています。
図4: 研究成果の図(論文からの引用) -- 積雲対流活動によって空気が上昇した場所をプロットした図(PEACE-B 航空機観測)。カラーは航空機で観測された一酸化炭素濃度 CO (汚染空気の指標になる)。上昇する場所によって、空気の性質が異なることがわかります。とくに中国で高濃度 CO の空気が上昇しています(図の赤色)。これらの高濃度 CO の空気は日本上空を通って、アメリカまで長距離輸送されています。