学生の声

大学院生活と研究
片岡 崇人(大気海洋科学講座・博士1年)

 

はじめに

 地球惑星科学の対象は自然現象全般で、地球内部の構造を知る事から、海洋循環や気候変動、宇宙空間のプラズマ、惑星形成等々、非常に多岐にわたります。そのような地球惑星科学の中でも、大気海洋科学は明日の天気がどうなるかといった天気予報や、今年の夏は猛暑なのかといった季節予報、温暖化予測など、とりわけ普段の私たちの生活に関わる分野なのではないかと思います。また、研究手法についても現場観測やデータ解析、理論解析など様々なアプローチがあります。コンピュータの中に地球を再現して模擬的な実験(シミュレーション)を行うのも、この分野の特徴の一つだと思います。

 

 あまりざっくりとした説明だけでは実態が掴みづらいと思うので、具体的に私の研究の一部や大学院生活について簡単に紹介してみたいと思います。

 

 

研究紹介

 

 私は東塚准教授の研究室で南インド洋での気候変動現象と、そのアフリカ南部やオーストラリア西部の降水への影響についての研究をしています。

 

 「気候変動」と聞くと温暖化を思い浮かべる人が多いのではないかと思います。実はこれは間違いで、温暖化は、気候の平年状態が長期的に変化するclimate change=気候変化であり、climate variation=気候変動という言葉は気候の平年状態からの偏差を表します。簡単に言うと、前者は「氷河期と現在のように、全く別の世界になってしまう」、後者は「今年はいつもより暑いなぁ、など、今の世界(普通の状態)からのズレ」と考えてもらえばよいと思います。なので、「IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)」を「気候変動に関する政府間パネル」と呼んでいるのは誤訳なんですね。

 

 話を私の研究に戻しましょう。私が修士課程在籍時に研究対象としていたのはインド洋亜熱帯ダイポールモード現象(Indian Ocean subtropical dipole mode ここではIOSDと略記する事にします)と呼ばれる気候変動現象の一つで、その名の通り南インド洋にて発生します。この現象は図1の赤枠に示したように、海面水温偏差(偏差=平年からのズレ)のダイポール(極が二つある)構造に特徴づけられます。

 

 

図1 海面水温の偏差を描画した図。赤枠で示した海域にてインド洋亜熱帯ダイポールモード現象が発生している。

 

 暖かい海水はその上にある大気を暖め上昇気流を、逆に冷たい海水はその上の大気を冷やし下降気流を作ろうとするというように、IOSDは大気の対流活動に影響します。その結果、IOSDはアフリカ南部に大雨や干ばつをもたらします。ただし、この降水偏差の空間分布はIOSDの海面水温偏差の極の位置に依存する事がこれまでの研究から分かっています。

 

 アフリカ南部の諸国は異常気象に非常に脆弱であるため、IOSDと、それに伴う降水偏差を正確に予測する事は非常に重要であると言えます。そこで、22の最先端の大気海洋結合モデルの結果を観測データとあわせて解析し、その予測精度向上に向け再現性についての検証を行うと同時に、海面水温偏差の発生メカニズムについて調べました。

 

 解析の結果、ほとんどのモデルでIOSDに伴う海面水温偏差が再現されている事が分かりました。しかし、モデルごとに海面水温偏差の極の位置や形、ダイポール構造の方向にばらつきが見られました(図2上段、観測では南西—北東のダイポール構造)。この海面水温偏差の極のばらつきや形のバイアスの原因を探るため、海面気圧偏差について調べたところ、これらのバイアスは海面気圧偏差のそれによく対応していることが分かりました(図2下段)。さらに、この気圧偏差のバイアスの一部は南半球に見られる波数3または4の構造を持つ大気循環の再現の失敗に起因する事が分かりました。

 

 

図2 インド洋亜熱帯ダイポールモード現象に伴う海面水温偏差(上段)と海面気圧偏差(下段)。左から順に観測データ、海面水温偏差の極・高気圧偏差が共に東西方向にのびてしまっているモデル、海面水温偏差の極・高気圧偏差が共に西偏してしまっているモデル。

 

 海面付近には、比較的水温が一様な混合層と呼ばれる層があり、この層を出入りする熱の量によって層内の水温(≒海面水温)が決定します。この層は時間、場所によって変化します。専門的で分かりにくくなってしまう恐れがあるのでかなりはしょって書きますが、その混合層厚の変化を考慮したうえで熱の収支を計算したところ、混合層厚の偏差がIOSDに伴う海面水温偏差の形成に重要である事が明らかになりました。高気圧偏差に伴う風の偏差がこの混合層厚偏差を作るため、先に述べたような、海面水温偏差の極のバイアスと海面気圧偏差のそれとの間の良い対応がみられるのだと考えられます。

 

 

大学院生活

 研究紹介を読んでくださった方は分かるかもしれませんが、私の研究の大部分はデータ解析や数値実験(シミュレーション)で、パソコンを使用しています。最近は理論をやっているのでパソコンを使う時間はだいぶ減りましたが、紙とペンを使うようになっただけでひたすらデスクワークという点では同じです。しかし、同じ海洋グループでも、日比谷研究室では現場観測で航海に出る人もたくさんいます。海洋中に生じる様々な循環・波動・乱れの物理素過程の解明、特にスモールスケールの乱流混合過程と全球規規模の海洋深層大循環という時空間スケールの極めて異なる二つの物理現象について、両者の密接なかかわり合いを明らかにする事を目指す研究室です。短い航海で1週間程度から、長いものだと2ヶ月ほどかかるようです。私も海の研究をしているので、一度くらいは実際に海に出てみたいと思っているのですが…。

 

 

 

 

 

 ただ、年中研究室から一歩も出ない訳ではなく、学会やシンポジウム参加のための出張があります。私の場合、国内では遠方だと網走や博多、会津、海外ではアメリカのサンフランシスコに、これまで行かせていただきました。学会での研究発表もさることながら、現地のおいしい食事なんかも楽しみの一つです。ちなみに、今年の10月には南アフリカで行われる学会に参加させていただく予定です。

 

 普段、研究室にいる際はどうかというと、私がいる部屋ではコーヒーブレイクがあり、それがとてもよい気分転換になっていると思います。コーヒーを飲みながら先輩・後輩と、議論や雑談をする時間があるのは恵まれていると思います。授業に関しては、他の方も何人かふれているので簡単にしか書きませんが、セミナー等も考慮すると授業は意外と多いです。特に修士課程の始めは忙しいと感じると思います(ちなみに、まだ始まったばかりですが、博士課程も思ったより忙しいなという印象を受けています…)。しかし、みな忙しいなりに、学会発表や論文発表にむけて時間を作り研究をしています。

 

 

おわりに

 「何かを知る」ことは非常に楽しい、心踊る体験だと思います。私も高校物理で初めて運動方程式を教わった際の、未来が分かる事への感動とある種の恐怖のようなものに胸を打たれた感覚は今でも鮮明に覚えています。研究とはまさに「知る」ことそのものでしょう。とても面白いものです。しかし、時間は限られています。ただ知識欲を満たすだけの学問ではもったいないと思うのです。実社会に貢献できるような、そのような価値創出を行う活動であるべきだと思うのです。皆さんには是非そのような研究を行ってほしいと思います。

 

 最後に、地球惑星科学に関わると、普段自分が目の当たりにしている自然現象それぞれに意味があると感じる事ができるようになると思います。そういう些細なことに感動したり、自分が吸った空気がどこから来て、吐いた空気はどこへ行くのか、そんな事に思いを馳せる人生はなかなかに豊かなものなんじゃないかなぁと思います。