5つの研究グループ

地球惑星科学専攻では、5つの研究グループにわかれて研究・教育を行っています。
ここでは、それぞれのグループの研究分野について紹介します。

研究・プロジェクト紹介

電子顕微鏡で見る鉱物、そして生物のつくる鉱物
小暮 敏博 (地球生命圏科学グループ)

 

電子顕微鏡鉱物学の世界
私達の研究室では鉱物や地球関連物質から様々な情報を引き出すために電子顕微鏡を主要な研究手法のひとつとしています。その中でも透過電子顕微鏡(TEM)は光学顕微鏡に比べて3~4桁以上高倍率の拡大像が得られるだけでなく電子回折による結晶学的情報、そしてTEMに装着されたさまざまな分析装置による分光学的情報を、数ナノメートルという非常に微小な領域から引き出すことができます。研究室では現在このような高性能のTEMが2台稼動しており(図1)、さらに学内外の特徴ある電子顕微鏡の使用と合わせて地球物質科学における最先端のナノサイエンスを目指しています。

例えばこれらのTEMを用いれば地球の大部分を占める珪酸塩鉱物のSiO4四面体ひとつひとつ(正確には鉱物結晶内におけるSiO4四面体の原子列というべきですが)を識別することが可能です。図2はその一例として得られた黒雲母(biotite)中の面欠陥の原子配列像ですが、赤い矢印で示した黒点ひとつひとつがSiO4四面体に対応します。これよりこの面欠陥は層状珪酸塩を構成する四面体シートが2枚その頂点を共有した構造となっていることが明らかになりました。このような構造は黒雲母が高温で分解する直前に現れるものと現在は考えています。もちろんこのような高度な原子配列の観察のためには単に高性能なTEMを所有しているということだけでなく試料作成技術、さまざまな観察のノウハウやソフトウエア、そして装置のメンテナンス・サポート体制などが整備されていなくてはなりません。そしてこの恵まれた環境のもとで私達の研究室では今までにさまざまな新しい結果を世界に先駆けて発表してきました。詳しくは下に示した英文(文献1)あるいは和文(文献2)の解説を見てもらえればと思います。

また最近はTEMだけでなく高機能な走査電子顕微鏡(SEM)を用いて微小な鉱物をもっと詳しく調べる研究をスタートさせています。具体的にはSEMの中でも結晶学的情報が得られる電子後方散乱回折(EBSD)の実用化です。従来のSEMで拡大像による試料の形状に関する情報とX線分析による組成情報は得られましたが、結晶学的情報は一切得られませんでした。EBSDはこの問題をクリアし、そして高分解能な拡大像と組成情報を組み合わせることにより、さまざまな新しい知見が得られつつあります(文献3)。

(尚このような電子顕微鏡施設は主に村上隆教授の研究室との共同運用で行っています)

生物が鉱物をつくるメカニズム
私が最近興味を持って進めている研究のひとつに“生物がつくる鉱物”があります。簡単に言ってしまえば、骨、歯、貝殻等を構成する無機物質のことです。学術的には“生体鉱物 (biomineral)”と呼ばれ、また生物が生体鉱物をつくる機構を“生体鉱化作用(biomineralization)”と言います。生体鉱化作用は従来の地球科学的な鉱物の形成と比べ次のような特徴を持っています。

1)生物が生息する常温常圧下で比較的短期間で形成される。
2)その形成に何らかの生体高分子が関与している。

このような形成環境により、生体鉱物には我々が通常の岩石中に見られる鉱物とはかなり異なる特徴が見られます。例えば本来ならば高温高圧の条件でしか得られない結晶相が現れたり、通常には見られない結晶形態が形成されたりします(例えば図3のように海洋の円石藻には種の違いによりさまざまな方解石の形態が見られます)。1)の項目は環境負荷の小さな物質の合成法に繋がり、産業的、社会的に有用な知見となる可能性があります。そのためもあり、生体鉱物の研究は以前より世界のさまざまな研究室で進められているのですが、まだまだ解らないことばかりです。実際我々の骨を構成するアパタイト(リン酸カルシウム)でさえ、その体内中での形成メカニズムについて学会で議論されているのです。その難しさ、そして逆に言えば面白さは上の2番目の特徴にあると思われます。それは生体高分子(たんぱく質や多糖など)と無機結晶という今までまったく別の研究者が進めてきた分野のまさに境界領域にこの研究が位置することです。

生体鉱物は体液などの溶液中から成長する訳ですから、実験室ではさまざまな組成の溶液を調整し,生体鉱物の特徴を示すような無機結晶が成長するかどうかを調べます。また無機結晶の結晶核が発生する基質は生体内ではおそらくさまざまな生体膜であり、それを実験室でどのようにシミュレートするかも工夫すべきところです。例えば溶液中に有機分子をほんの微量加えただけで、炭酸カルシウムなどの結晶の外形(morphology)は劇的に変化します。これは添加した有機分子が形成する炭酸カルシウム結晶の特定の結晶面に選択的に吸着し、その方向の成長を抑えるためと考えられます。このような有機分子や生体高分子と結晶表面の相互作用を調べるために、本研究室では例えば原子間力顕微鏡(AFM)による結晶成長のその場観察実験などを進めています。ここでは方解石表面を炭酸カルシウムの過飽和溶液で満たし、原子レベルのステップを観察できるAFMで鉱物表面での結晶成長を観察します。その途中で液中に生体高分子を加え、結晶成長がどのように阻害されるかを調べます。一方このシステムとは逆の実験も考えられます。図4はラングミュアーブロジェット(LB)法という手法を用いてガラス基板上に先端にカルボキシ基を持った高分子の重合膜(これは生体膜のひとつのモデルと考えています)を形成し、その上に炭酸カルシウムの結晶を過飽和溶液から形成させたときのSEM写真です。方解石の結晶が基板上の重合膜上に一定の方位で成長していることがわかります。このような高分子上の無機物質の方位成長がどのようなメカニズムで起こっているのか、そしてそのようなことが実際の生体鉱物にも当てはまるのかなど、実はまだまだわかりません。しかしこのような基礎的な実験結果からだんだん“生物が鉱物をつくるメカニズム”のヒントが得られてくると私たちは信じています(文献4)。

とにかく見てみよう
(孤独が好きな性格のもので)夜遅く一人でしんみりと電顕を見るのが多分大学にいるときで最も充実した時間です。自分のオペレーションによって電顕がその性能をフルに発揮し、図2のような誰も見たことのない構造が眼下に見つかったときの満足感はとても言葉では言い表せません。もちろんその他の合成実験、さまざまな知識や考察も研究を進める上で重要ですが、科学的な目を持って試料を見ていると思いがけない発見にしばしば出会うものです。そしてそこから研究の内容そのものもコロッと変わってしまうこともあります。ストーリーの無い面白さ(これを不安に感じる学生もときどきいますが)というものは研究もスポーツも同じだと思います。

最後に地球科学におけるナノサイエンスや電子顕微鏡学に熱意のある院生のみなさんの参加が必要です。興味のある人は是非一度研究室を訪ねていただければと思います。

文献
.T. Kogure: “Investigation of micas using advanced electron microscopy”, in “Micas: Crystal Chemistry and Metamorphic Petrology”, Review in Mineralogy and Geochemistry 46 (2002) 281-312.
.小暮敏博 : “高分解能電子顕微鏡観察による層状ケイ酸塩中の構造決定“、電子顕微鏡、37 (2002) 96-102.
.小暮敏博、立川統 : “電子線後方散乱回折(EBSD)の鉱物学への応用”、岩石鉱物科学、31 (2002) 275-282.
.小暮敏博、田中順三 : “生体材料に見るナノの世界 “、Journal of the Society of Inorganic Materials, Japan, 8 (2001) 540-544.